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異世界クエスチョン ~モン娘は俺の花嫁~  作者: 阿由知香るブラック
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《地下世界:モンスター救出編》 第十五話:腐った不死者と赤茶毛のウォーランド(2)

 ざわざわと賑わう酒場店内。

 客の笑い声が絶えない。


 ───が、俺とウォーランドのテーブルは、やや異なった雰囲気を醸し出している。

 ウォーランドはにやけているが、少なくても俺は笑ってはいない。笑っていられる状況じゃない。最低でも2000G勝たなければ、アルスレイには入り込めないんだ。


 真剣勝負の異世界ポーカー。


 一回目。


 手札は───



 スペードA

 ハートA

 ハート3

 ハート9

 クラブ8



 Aのワン・ペア確定。

 Aのスリーカード狙いか、フラッシュ狙いか。

 Aのワン・ペア確定を捨て、フラッシュ狙いでいく。

 スペードAとクラブ8をテーブルに捨て、ストックから2枚引く。


 引いたカードは───



 クラブのA

 スペードの3



 ツウ・ペア確定。

 フラッシュではなかったが、俺は皮袋ごとテーブルの中心においた。


「……なんだぁ? 賭け金いくらにするんだ、これぇ?」

「全部だ」


『ええっ!! なにしてるんでしか、アディ様っ!?』


「……はぁ? 全部って、300G全部かぁ?」

「そうだ。300G全部だ」


「へっへぇー……見た目通り、変わってんなぁ、お兄ちゃん。負けたら、これで終わりってぇこったぜ?」

「俺はAを含めたツウ・ペアだ。そうそう負けんだろう」


『なんで言っちゃうんでしか!? アディ様っ!?』


「ひゃー、おもしれぇお兄ちゃん来たなぁ! へっへぇー、頭おかしいぜぇ」

「お前もな。さっさとカードを捨てろ、ウォーランド」


「いやぁ、俺ぁ……このままでいいけどねぇ。お兄ちゃん。全部はやめときなぁ? 終わっちまうぜぇ?」

「ウォーランド。お前はそのままでいいんだな? じゃあさっさと300Gをテーブルにおけ」

「いやぁ、やめとけってぇ……今なら賭け金引いてもいいぜぇ? せめて半分の150Gにしとけぇ……」


 これが交渉ってやつか。相手プレイヤーが賭け金を引いていいと言えば、一度出した賭け金でも引いていいのか。

 減額をすすめるってことは今のウォーランドはブタくらい悪い手札なのか? と考えてもいいとこだが……。


『アディ様、引くでし! 300G全部はやりすぎでし! まだイカサマのイの字も見抜けてないでし。ここでこの人間にイカサマされたら、そこで終わりでし』

『●●、●●●●●●●●』


『どうしてでしかっ!?』

『●●●●●●●●●●●●』


『そんなの当たり前でし! この人間だって勝ちたいからやってるんでし!』

『●●●●、●●●●●●●●●●●●●』


『勝負をした上で、勝ちたい?』

『●●●。●●●、●●●●●●●●●●●●●』


『勝負を続けたいんでしか、この人間は?』

『●●、●●●●●●●●●●●、●●●●』

『わ、わかったでし。集中するでし』


「全部と言ったら全部だ、ウォーランド。お前がカードを捨てないのならツウ・ペアの俺には絶対に勝てん。さっさと300G出せ」

「へっへぇー、だったら捨てるかぁ……」


「ウォーランド、お前そのままでいいんじゃなかったのか? 吐いたツバを呑むのか?」

「……んぁ? 呑んだっていいけどなぁ」


「なんでもいいから、さっさとしろ」


 俺は木樽ジョッキを手にとった。


『●●●、●●●●●●●●。●●●●●●●●●』

『了解でし! 目を離さないでし!』


 視界にぎりぎりウォーランドの姿を残し、顔を上げ、くいっと一口、酒を呷る。


 コイントスの裏表くらい、素人の俺だって自由に出せる。

 ウォーランドは俺が表と言ったから、表を出したハズだ。


 こいつは勝負を楽しみたい。勝負を終わらせて、また暇を持てあましたくない。

 “イカサマをしてでも”俺に勝たせようとするだろう。

 少なくても、一回目は。


「ああ、そうだ。俺ぁ……男だったなぁ。だから、女神様をベッドの上で悦ばせられるんだったなぁ……」


 ウォーランドはテーブルの端にある皮袋を、ドサッと中心においた。


「へっへぇー、男らしくこうしないとなぁ……嫌われちまうよなぁ」


「オープンだ」


 俺は、ツウ・ペア。


 ウォーランドは───


 ブタだった。


 つまり、ウォーランドはわざと負けたことになる。

 俺の予想は、おおよそ当たっていると思っていいだろう。


 俺はテーブル中心の皮袋を二つ手にとる。

 これで手持ち金600G。


「シャッフルして配れ。ウォーランド」


「うぉいうぉいうぉい、いくらなんでも急ぎすぎだぜぇ、お兄ちゃん。俺ぁブタだぜぇ? リアクションくらいとろうやぁ……」


「とらせてみせろ。自分の腕で、な」

「……へっへぇー、お兄ちゃんおもしれぇよ……本当」


 ウォーランドがシャッフルし、カードを配る。

 パッと見、だらしなく思われるその動作は、ところどころで洗練されているのが見てとれる。手馴れている───のではない、熟練と言っていい手際。

 でも本当に熟練なら、それを隠しきることだってできるハズだ。


 わざとだらしなく見せ、わざと熟練であることも俺に教えている。

 俺がそれに気づいていることにも、ウォーランドは気づいている。


 気づいていないのは───


『今のところは、イカサマをしてる気配はないでし』


 ───キアリーの存在。


『●●●●、●●●●●●●●』

『了解でし!』


 二回目。


 配られた手札は───



 スペード6

 スペード8

 スペード5

 スペード9

 ハート7



 ストレート確定。

 ストレートを捨て、フラッシュ狙いでいく。運がよければストレートフラッシュが揃うだろう。


 こんないい手札は、終盤戦に欲しかったけれど───いや、手持ち金を増やすにはちょうどいいか。


「あぁ、やっぱ愛されてんなぁ、俺ぁ……きちまったよ、きちまったぁ」

「さっさとカードを捨てろ」


「お兄ちゃんはアレだなぁ、勝負の妙味ってのを知らないなぁ。お兄ちゃんみたいなのは、最後の最後でぇ……負けるんだぁ。勝利の女神に愛されても、最後の最後で……見捨てられるんだなぁ」


「もう一度言う。さっさとカードを捨てろ」

「へっへぇー」


 ウォーランドは一枚だけドローした。流れる手つきで50Gをテーブルの中心におく。

 一枚だけのドローということは、ウォーランドの手札は強いものだと考えていい。でも、だったら50Gなんてショボい金額を賭け金にはしないハズだ。普通なら。


 遊んでるな。

 俺がこれをどう読みとるのか……を、楽しみたいんだ。


 ───関係ない。


「シケたマネはよせ、ウォーランド。なんで50Gなんだ? もっと乗せろ」

「へっへぇー……そんなもん、俺の勝手さぁ」


「俺はこんなシケた勝負はしたくない。まともに勝負する気がないのなら俺は次から1Gしか賭けんぞ。そして別の奴と勝負する」

「それは……お兄ちゃんの勝手さぁ」


 …………ちっ。これじゃあ2000Gに届かん。


 こいつ、なにを考えて50Gなんてショボい金額を賭け金にしてんだ? という思考は、ウォーランドの思う壷だ。

 俺は自分のメリットだけを考えて動く。


「賭け金を吊り上げるのなら、十回勝負ワンセットを提案する。最低賭け金は200Gだ。どうする?」


 言い終わってすぐにウォーランドは、150Gをテーブルの中心に追加した。

 合計200Gだ。


「今、女神様が俺に微笑んだぜぇ? 十回勝負ワンセット。へっへぇー、乗らねぇ手はねぇなぁ」


『●●●●、●●●●●。●●●●●●●●?』

『いいと思うでし。十回勝負なら、イカサマを見抜くチャンスも増えるでし!』


『●●●』

『了解でしっ!!』


 ハートの7を捨て、ストックから一枚引く。


 引いたカードは───



 スペードのA



 俺はフラッシュ確定。


「オープンだ」


 ウォーランドは───


 ツウ・ペアだった。


 俺の勝ち。手持ち金はこれで合計800G。

 けれど最低賭け金200Gを提案した以上、4回分の賭け金でしかない。


「へっへぇー、負けちまったなぁ。でも、十回勝負ワンセットかぁ。久々に腕がなるぜぇ……」

「じゃあ、さっさとシャッフルして、配れ。ウォーランド」


「お兄ちゃんはさぁ……女神様に愛されねぇよ? それじゃあよぉ。だってさぁ、お兄ちゃん…………早漏だろ?」

「ぶっ殺すぞ!!」

「へっへぇー」


『落ち着くでしアディ様! 子種をたくさん残すなら早漏のほうがいいでしっ!!』

「余計落ち着けんわ!!」


「うぉいうぉい……大丈夫かぁ……お兄ちゃん?」

「さっさと配れや!! 赤茶毛っ!!」

「うぉー、怖い……怖いなぁ……」


 ウォーランドがシャッフルし、カードを配る。


 三回目。


 配られた手札は───



 スペード2

 スペード10

 ハート7

 クラブ9

 ダイヤQ


 …………ブタだ。


 急に手札が悪くなった。

 十回勝負ワンセットを提案した途端にだ。


 こいつ、もうイカサマしてんな? シャッフルのときに、ある程度の手札をそろえられるのか? だとしたら二回目はわざと俺に勝たせたのか? 一回目はわざと負けてるしな。


 最後の最後で、総取りするつもりか。

 あり得るな。

 それはウォーランドにとって、おもしろい結末の一つではあるハズだ。


『●●●●、●●●●●●●●●●●●●●●●?』

『イカサマしてる素振りはないでし。複数枚のカードを隠し持ってるってこともないでし』


『●●●●●●●●●●? ●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●』

『カードの模様でしか? 確かめるでし』


『●●●●。●●●●●●●●●●●●●』

『わかったでし! 監視も続けるでし!』


 イカサマをしていたとしても、俺のドローに細工はできない。

 運に任せてみるか。

 どうせブタだし。


 手札5枚すべてをテーブルに捨て、ストックから5枚引く。


「おぉ? ヤケクソかい? お兄ちゃん。へっへぇー、そういうのも、おもしれぇよなぁ」


 引いたカードは───



 ハート2

 スペードK

 ハートK

 クラブK

 ダイヤQ



 キングのスリーカード確定!!

 これは純粋な運だっ!!

 役として強いとは言えないけれど、キングだ! 決して悪くはない!!


 皮袋から200Gとり出し、テーブルの中心におく。


「ありゃりゃ、最低金額かぁ。こいつぁ……ブタかい?」

「いいや、スリーカードだ」

「へっへぇー……じゃあ、スリーカードだなぁ」


 ウォーランドの奴、だんだん俺の性格を読めてきてるな。

 十回勝負ワンセットなら長丁場。次はちょっと絡め手でいくか……。


「俺も、お兄ちゃんにならっちゃおうかなぁ……」

「手札5枚すべて、捨てる気か?」


「俺ぁ……今、ワン・ペアだ。運任せなら女神に愛されてる俺が、負けるわけがねぇよぉ……」

「そうか。じゃあ俺は連勝がとまるってことだな?」


「そうだねぇ」

「ここで俺が勝っても負けても、次のシャッフルを俺にやらせてみないか?」


「うぉいうぉい、今は俺の交渉の場だぜぇ?」

「ウォーランド。お前はなにか俺に要求することはないか? それを呑む代わりに俺にシャッフルをやらせろ」


「そいつぁ、絶対呑むのかい? お兄ちゃん」

「いいや? もちろん内容次第だ」


「へっへぇー……お兄ちゃんは強気だねぇ」

「どうする?」


 指先で頬をかいたあと、覗き込むように俺の顔を見ながら、ウォーランドは言った。


「二十回勝負ワンセット……呑むかい?」


 ……こいつ、なんのつもりだ? 二十回勝負ワンセット? 勝敗に関係なくポーカーをやりたいだけ……とは、思えないが……。


『●●●●? ●●●●、●●●●●●?』

『わ、わからないでし。でも、絶対イカサマ見抜くでし!!』


「いいだろう、呑もう」


「よっしゃ! へっへぇー、楽しい時間に終わりはないぜぇ。なぁ? 女神様」

「さっさと手札5枚、すべて捨てろ」

「わかってるってぇ……せっかちだなぁ」


 200Gを出し、ウォーランドも手札5枚すべてをテーブルに捨て、ストックから5枚引く。


「あぁ、もうダメだぁ。もうきちまったよぉ……もうきちまったよぉ……女神様ぁ」


 ダメなのはお前だ。ウォーランド。

 なんかもうキャラ的になにもかもダメだ、お前は。


「オープンだ」


 俺は、スリーカード。


 ウォーランドは───


 ワン・ペアだった。


「きちまっただぁ? てめぇ、適当コキやがって」

「お兄ちゃんこそ、なに言ってんだぁ? ハートとダイヤのペアなんてぇ、縁起がいいにも程があらぁ……」


「…………俺のシャッフルだ」


 ウォーランドはかなりの高確率で、シャッフルのときか、カードを配るときにイカサマをしている。

 俺がシャッフルをすれば、それは防げるだろう。


 二十回勝負ワンセットの長期戦になってしまったけれど───ここで揺さぶりをかける!!


 テーブルのウォーランド側には四本の空の酒瓶と半分残っていた五本目、それに新しく酒場のオヤジに持ってこさせた六本目があった。その六本目、ウォーランドは一口しか飲んでいない。


 俺はまず、“半分残っていた五本目”の酒瓶をサッと手にとり、ラッパ飲みした。


「う、うぉいっ! そいつぁ、俺の……っ!!」


「……ふぅ。俺の……なんだ? 水じゃねぇか!? 見え透いてんだよ! 酔ったフリなんかしてんじゃねぇ!!」


『酔ったフリでしかっ!?』


「わざとらしく四本も空の酒瓶仕込みやがって! オヤジが来たとき空の酒瓶を下げようとしないのも不自然なんだよ! 他のテーブルはちゃんと空の酒瓶下げてんだろうがっ!! グルかお前ら! こいつはイカサマに入らねぇーのか!?」


 ウォーランドの口元が歪み、目頭に力が入る。


「……へっ。イカサマには入らねぇよ。なにを飲もうが俺の自由だし、酔ったフリしてたなんてどうやって証明すんだよぉ? 空の酒瓶を下げようと下げまいとオヤジの勝手だしなぁ。お兄ちゃんが決めるこっちゃねぇんだよぉ」


「正体現しやがったな」


 言いながら俺は、カードを配る。


「俺ぁ、最初からこうだ。へっへぇー……お兄ちゃんが勘違いしただけのこった」


「カードを捨てるのなら、さっさとしろ。なに考えてんのか知らねぇが、二十回勝負ワンセットになったんだ。酒場が閉店しちまうぞっ!!」


「その心配はねぇよ? お兄ちゃん」


 ウォーランドはカードを3枚捨て、ストックから3枚引く。


「これで終わりだからなぁ」


 ドンッとテーブルにおかれたウォーランドの賭け金は───


 俺の手持ち金額に合わせた1000G


 ───けれど、俺の手札を見たキアリーは笑いを堪えるかのように言った。


『本性を晒した男に、女神様はあきれてしまったようでしね』


 四回目。


 俺の手札は───



 クラブQ

 スペードQ

 ハートQ

 ダイヤQ

 クラブ3



 クイーンのフォーカード!!!!

 こっちには女神様と女王様、ついでにリアルドキンが微笑んでいるっ!!

 俺はドローなし交渉なしで素早く、ドサッと手持ち金額1000Gをテーブルにおいた。


「オープン! クイーンのフォーカードだっ!!」

「…………んぁ?」


『イカサマを見抜くまでもなく、2000G勝ったでしっ!!』

「…………なんだぁ? あ……ありえねぇ」


『●●●、●●●●●●●●●●? ●●●●』

『そ、そうだったでし』


 二十回勝負ワンセットで、ウォーランドにはまだ手持ち金がある。

 勝負はまだ終わっていない。

 2000G勝っても、ウォーランドが2000G賭けて勝った場合、総取りされる可能性がある。いや、積極的にそれを狙ってくるだろう。


 2000Gを守る姿勢でいたら必ず負ける。

 このままの勢いで攻めあるのみ。


 ウォーランドのイカサマを看破し、5000Gを総取りする作戦に変更はない!!


『●●●●●●●●、●●●●』

『わかったでし! 目を離さないでし!!』

「あ、ありえねぇ……」


 まだクイーンのフォーカードに驚いている様子のウォーランドだが、放っておいていい。どうせこっちは5000G総取りするつもりなんだ。


 2000Gに手を伸ばそうとしたとき、ウォーランドが軽やかに言い放った。


「愛されすぎてらぁ」


 ウォーランドが手札を開く。


「ロイヤルストレートフラッシュ」


 ロイヤル?

 ストレート?

 フラ……?


「……は?」

『……へ?』


「ロイヤルストレートフラッシュ、だぁ」


「……は?」

『……へ?』


「ふへぇ……へっへぇー! その間抜け面が見たかったんだよぉー! 

ふへぇひゃっはっはぁー! 二十回勝負ワンセットなんてブラフだよ! ブラフ!! 決まってんだろぉ!?

ひゃっはっはぁーっ!! あひゃっはっはぁーっ!!」


 俺は席を立った。

 確かにフォーランドの役はキングのロイヤルストレートフラッシュ!!

 けれどそんなことは確率的にもタイミング的にも───あり得ない!!

 バカにしてやがるっ!!


「イカサマだっ!!」


 即座にストックに手を向ける───が、ウォーランドが俺の手首を掴む。


「おっと、そいつぁ……ルール違反だ、お兄ちゃん。手持ち金がなくなった時点でゲームは終了。イカサマ確認はできない。俺の勝ちだ」


『イカサマでし! 絶対イカサマでし!!』


 ……いや、イカサマは見抜かれなければ許されるのがルールだった! それは仕方ない!!


 ───でも!!


 空の酒瓶も酔っ払ったフリも、わざと俺に暴かせて油断を誘う為のブラフか!? しかも二十回勝負ワンセットのブラフも同時にかませてたなんて!!

 なにもかもがブラフで、ウォーランドはイカサマを使って勝とうと思えばいつでも勝てたってことだ!!


 ただ本当に遊ばれただけっ!!

 何者だ、こいつ!?


 ───くそっ!!


「出直すぞ! キアリー!!」

『か、帰るでしか?』


 頭を切り替えないと……っ!

 金が完全になくなった。早く新しい手を考えないとアルスレイに入り込めなくなる。それは不味い!!


 ご満悦のウォーランドが憎たらしく黄色い声を上げる。


「へっへぇー! だから言ったろ? 俺は最近ツキまくってるってぇ! いきなり借金が帳消しになるわ、女房が帰ってくるわ。やっと俺にも運が向いて来たぜぇ! へっへぇーっ!!」


「…………」


 出入り口に向かっていた俺は、回れ右をし───


「いよぉっし! 今日も女を買いに行っちゃおっかなぁ」


 ───そして、ウォーランドの前に立った。


「おい、ウォーランド。俺の名を憶えてるか?」

「……んぁ? 憶えてねぇなぁ。俺は博打で負けた男の名前なんて憶えねぇよぉ? 憶えて欲しけりゃ俺に勝ちなぁ」

「お前は俺に勝ったんだ。憶えてやるからフルネームを教えろ」


「へっへぇー……憶えておいて損はねぇぜぇ? 俺ぁ、ラカン・ウォーランドってぇーんだ」


 俺の拳が、ウォーランド───改め、ラカンの顔面にめり込んだ。メギャッという音と共に、バターンッ!! と椅子ごと派手にブッ倒れる。


 ひらひらと舞い散る無数のカード。

 転がる酒瓶。

 床に後頭部をうちつけ目を回し、のびるラカン。


 確かに損はない。



「俺の勝ちだ」



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