表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
異世界クエスチョン ~モン娘は俺の花嫁~  作者: 阿由知香るブラック
11/16

《地下世界:モンスター救出編》 第十一話:腐った不死者とアルスレイの街

 気づけば、大きな岩の影の上に立っていた。


 キアリーの影内限定移動魔法シャムーフで飛んだその場所は───辺り一面、俺の肩の高さまであるムギのような植物に覆われていた。

 それはまさに金色こんじきの野と呼ぶに相応しい幻想的な風景。


 青き衣を纏いたくなってくる。


「きれいだな」


 風も心地いい。

 初めてシャムとうさ耳三姉妹に出会ったロータスの街近辺よりも気候が穏やかだ。あそこからはまた相当、距離が離れているということになるのだろうか。


『アディ様は、こういう場所は好きでしか?』

「ああ、なんか心が落ち着く」


『……しばらくすれば、ここも人間たちに切り開かれて、まっさらになってしまうでし』

「ならん。その前に俺が地下世界を奪還する」

『アディ様……』


「ところでキアリー。肝心のアルスレイが見当たらないんだけど……?」

『ここから歩いて一時間くらいのところにあるでし』


「そうか。……じゃあ、さっさと行こう」


 背丈の高いムギの野原は、隠れながらアルスレイまで歩くのに都合がいい。なにがあるかわからないので、とりあえず姿は隠して行動するほうが賢明だろう。


「ねぇ、キアリー。これ、ムギ?」


 一本、根元から千切ってブンブンと振り回す。枝先に連なった丸みを帯びたひし形の実を見るに、ムギにしか思えない。


『天ムギでし。場所によっては、もっと高く育ってるでし』


 適当に訊いたけど、ムギはムギなんだな。

 どっかのヤギにくれてやったら、喜んでムシャムシャ食べそうだ。


「アンリアラから連絡はないのか?」

『ないでしね。そうそう連絡はとれないでし』

「一体なに考えてんだあいつは? 俺を召喚して以降まったく姿を現わさんじゃないか?」

『アンリアラ様はとっても忙しいでし。やることがいっぱいあるでし』

「なにやってんの? あいつ」


『逃げ延びたモンスターたちが集まって集落を作ってるところが、いくつもあるでし。今はその集落に、アンリアラパレスのような隠匿系魔法をかけに行ってるでし』


「そうすればシャムにも見つからないのか?」

『あのアンリアラパレスですら見つかっていないんでし。小さな集落なんて隠匿系魔法をかければまず見つからないでしよ』


「……まぁ、あいつはあいつで頑張ってるわけか」

『そうでし。アンリアラ様は偉大な方なんでし』


 ……とてもそうは思えんがな。

 偉大な方はことあるごとにぷすぷす笑わんぞ。


「その集落とやらに隠匿系魔法をかけてるのなら、うさ耳三姉妹もそこに移したほうが安全じゃないのか?」


『それはそうかも知れないでしけど……。やっぱりあちしたち二人だけじゃ限界があるでし。あちしは回復魔法は使えないでしからね』


「あれ? じゃあ俺に回復魔法かけてくれてるのって、アーリィなの?」

『そうでしよ?』


「俺、アーリィに超嫌われてるのに、そんなことしてもらってたのか。あとでお礼を言っとかなきゃならんな」


『アーリィは別にアディ様のことを嫌ってないでしよ?』

「いや、どう見たって嫌われてるだろう。目線すら合わせてくれんぞ」


 見続けるだけで涙目になっていくしな、アーリィは。

 俺はどんだけ嫌われてんだって話だ。


『違うでしよ。アーリィの態度がラービット族として普通なんでし。そのくらいラービット族は他種族に対して警戒心が強いんでし。

ループトとテネーのほうがラービット族としては変わり者なんでしよ』


「え? そうなの」

『そうでし。アーリィが普通なんでし』


 そうなんだ。

 じゃあそれほど気に病む必要もないわけか。


 そんなことを喋りながら歩いていると、遠くに街らしきものがポツリと見え始めた。


 ───あれがアルスレイか……。


「この距離から見えるってことは、相当デカい街なんじゃないか?」

『そうみたいでしね』

「さらわれたモンスターたちがいるってことに、信憑性が出てくるな」


 もともとがシャムが、カンターベリーの商人に頼まれてモンスターをアルスレイに送ってるって言ってただけの、拙い情報源だからな。

 当てがそれしかないから、縋るしかないんだけど。


「そういや、カンターベリーってなんだ? 街か? 国か?」

『多分でしけど、地上世界の国の名前でし』


「ほう。その国の商人なんかに、どうして勇者が言うこと聞かなくちゃいけないんだろうな?」

『それは知らないでし』


 シャムはシャムで、なんか抱え込んでるみたいだしな。

 なんとなく、そう思う。


 アルスレイに近づくにつれ、俺たちはその大きさに目を見張った。

 もはや、街というレベルではないほど巨大だ。カナンの街が、その名の通り『街』であるなら、アルスレイは『首都』と表現したほうがいいだろう。


 俺たちは立ち止まり、アルスレイを眺める。


 しかし───


「…………造ってるじゃん」

『造ってるでしね』


 建設途中だった。


 外壁は高さ半分くらいしか造られていないところが多く、ところどころに隙間がある。足場が組まれ、開拓民たちがせっせと石をはめ込んでいる真っ最中だった。

 外壁の隙間から街の中の様子をうかがえば、人々がうようよいるものの、商店も家もまばらにしか建てられていない。


 溢れる人々。

 うごめく人々。


 開拓民たちと、カナンの街にいたような屈強なごろつきたち。


 まだ街が完成してない以上、入っていこうとしたら、なんだお前? ってことになるだろうな。そしてまた、ごろつきとストリートファイトだ。


 近づくことすらできない。


「……本当にアルスレイにモンスターたちがいるのか、いきなり怪しくなってきた」

『いないでしかね』

「これだけ大勢の人がいてモンスターがいたらパニックにならないか? 入って確かめたいところだけど、さすがにこれじゃあ入れないな」


 しばらく様子を見ることにした。

 腰をかがめ、天ムギに隠れながら時間を過ごす。


 労働時間が終ったらしく開拓民が街の中に入っていくと、今度はごろつきたちが門番のように外壁に沿って並び始めた。


 カナンにいた花売りの少女姉妹の父親───ラカンのような開拓民脱走対策だろうか?

 堅固な牢獄を思わせる守備だ。


 ……余計に街の中に入れなくなったな。


『入れないでしね』


 キアリーも同意見のようだ。


「入れないこともないんだけど……」

『いつものノリでムリヤリ入ろうとすれば、またごろつきに絡まれることになるでしよ?』


「いや、払うつもりはなかったんだけど、一週間後くらいに俺はごろつきの中ボス的存在のローとアルスレイで会って、2000G払うって約束してるからな。

そこを利用して、入るだけならできないこともない」


 2000Gを工面する目処は、まったくないけれど……。

 水晶玉を売って手に入れた金は、きれいさっぱり消えてしまったし。

 一文なしだ。


『いったんアンリアラパレスまで戻るでし。いつまでもここにいたら、ごろつきに見つかってしまうでし』

「そうだな」


 今見つかって騒動を起こせば、入れるものも入れなくなる。ここはおとなしく身を引いて、善後策を考えるのが妥当ではあるか。


「帰ろう。飛んでくれ」

『了解でし』


 キアリーが影内限定移動魔法シャフームを唱え、俺たちは城へ戻った。



---



 アンリアラパレス。別名『ヤギの城』城内。二階自室。通称:アディマイルーム。

 部屋の大きさは六畳間くらい。


 城には数多くの部屋があり選び放題だけど広い部屋が大半だ。広いというか、広すぎる。俺はムダに広い部屋は落ち着かない性質たちなので、使用人専用の小さな部屋を使っている。


 ベッドに、小さなテーブルと椅子しかない、食事ができ、寝られればいいだけの部屋だ。

 そんな部屋の扉に、コンコンとノックがされた。


「開いてるぞ」


 返事をすると、キアリーが姿を現した。

 キアリーとはリアルドキンであり、俺のペットでもある。


「違うでし」


 じゃあ、俺のオナペットだ。

 毎晩お世話になってます。


「もっと違うでし」


「俺の心を読むな」

「読んでないでし。邪まな心が顔ににじみ出てるだけでし」


「アンリアラとは連絡とれたか?」

「残念ながら、とれなかったでし」


 ちっ。金をせびろうと思ったのに。

 役に立たんヤギだな。

 ヤギだけに、どっかで道草食ってるんじゃなかろうな。


「なんでしか? そのポーズは?」

「考える人のポーズだ」


「アディ様は人間じゃないでし」

「訂正しよう。考える腐った不死者アンデッドのポーズだ」


「根詰めて考えないほうがいいでしよ? 腐った不死者アンデッドはあまりものを考えるタイプのモンスターではないでし」

「そうなのか?」


「脳みそ腐ってるでしからね」


「今すぐすべての腐った不死者アンデッドにあやまって来いっ!!」


 ───まぁ、確かにアンデッドに賢いイメージはないけどな。動きも頭の回転も、鈍い感じがする。

 しかし俺はそんな既成概念には囚われない男だ。


「俺が考えてるアルスレイ侵入プランだと、どうしても早急に2000G工面しなくちゃいけないんだよ。さらわれたモンスターの安否も心配だしな。のんびりしてはおれん」


「アディ様はついこの間召喚されたばかりなのに、会ったこともないモンスターたちの為によくそこまで頭を悩ませられるでしね」


「いまさらなに言ってんだ? 俺はやるといったらやる男だ」

「……アディ様は優しいでし」

「いくら褒めてもペッティング以上のことはできんぞ? 倫理的にもな」

「ペッティングは表現が露骨でし。あと倫理的にはアウトでし」

「じゃあ、さわさわ。これなら表現も可愛いから倫理的にセーフ」

「満場一致でアウトでし」


 いや、今はそんなことはどうでもいい。こうしている間にもモンスターたちはさらわれ続けているかも知れないし、ローがアルスレイに帰ってくるまでに、どうしても2000Gを用意したい。それがもっとも無難なアルスレイ侵入プランに繋がるんだが……。


「キアリー。100Gくらいを2000Gに変える魔法はないか?」

「そんな魔法あったら経済が破綻するでし」


「街に金貸しとかはないのか?」

「あちしが知る限りではないでしね」


 2000Gの早期工面はムリか……。


 この城はデカいくせに、俺に嫌がらせしてるのか? ってくらいに本当に金目のものがない。

 さすがアンリアラの名を冠するだけのことはある。

 役に立たねぇ。


 気づかなかったけど、なんで0Gスタートなんだ? 最初に必要経費として、せめて100Gくらいは用意するのがデフォじゃないのかよ。


「アディ様は、どんなプランを考えてるんでしか?」


「俺は一応、アルスレイにモンスターたちが囚われている前提で考えてるから、救出作戦を踏まえてのプランなんだけど……。今のところ荒唐無稽すぎて、話す気になれん」


「では身体を動かすでし! 身体を動かせば、いいアイディアも浮かぶかも知れないでし!」

「……う~ん。……今はそんな気分でもないんだけどな」

「レベル上げ頑張れば、そのあとお風呂でしよ?」


「急げキアリー!! 訓練場は待ってはくれんぞっ!!」


 俺は風のように廊下を突っ走った。


「……訓練場は動かないでしけどね」


 しかし俺はこのとき、訓練というものをナメていた。レベルを上げる為のハードルがあんなに高いものだとは、思いもよらなかったのだ。


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ