41日目~43日目
41日目
今日は午後から「騎乗訓練」の実習があった。
またしてもアメルがいたが、もう驚かなかった。
というのも、今日の昼、食堂で盗み聞きしたのだが、あいつ、ほとんどの全ての授業を取っているらしい。履修済みの科目すら取っている、という噂もあるとかないとか。
俺なんて最低限の授業しか取っていないのに、さすが才女は違うね。
で、騎乗訓練の実習だが、早速ディノに乗って飛び回りました。
昔、乗馬を経験したことがあったので、完全にその要領で乗ったのだが、これが案外上手くいった。
まあ正直言って、俺はただ落ちないように足腰に力を入れて背筋を伸ばしてるだけだったのだが。
ディノはドラゴン用の鞍を付けるのを嫌がっていたが、そこはなだめた。鞍が無かったら、ディノの鱗で俺の尻が大変なことになるしね。
実習の教官は、最初は危ないから慎重にやれだの、下手したら大怪我するだの、あれこれ言ってきたが、スルー。
他の初級者クラスの生徒たちは案の定蹴っ飛ばされたり、振り回されたりしていたようだったが、ウチのディノは大人しいので楽勝。
空を飛ぶってのは初めての経験だったが、ホントあれは気持ちいい。
風を切る感覚がもうね、たまらない。
しかし、そんな快適なフライトもつかの間、その後、何故かアメルとドラゴンレース?する羽目になってしまった。
何でも、俺がディノに乗って飛び回っている最中に、あいつの真上を飛んでしまったらしく、それはドラグナーとしては大変失礼な行為なのだとか。
そんなマナーなんぞ知るわけもないが、郷に入れば何とやら、紳士的な俺はアメルに謝罪した。
もちろんあいつはそれで許してくれるはずもなく、ドラゴンでスピード勝負しましょう、それでチャラにしてあげる、などと言ってきたので、しょうがなく勝負を受けた。
まあ、結果は圧勝。
放牧場の端から端、だいたい2キロあるコースを競走(競飛?)した。
お相手は例の黄金色のドラゴンだったが、正直言って自動車と自転車ぐらいのスピード差があった。勝負にならない、とはまさにあのこと。
アメルは相当悔しかったのか、私にもっと実力があれば、とか嘆いていたが、あいつの実力云々は関係なしに、純粋にディノが早すぎるだけでは?
後でディノに聞いた話だが、本気を出せばもっと早く飛べたらしい。
時速80kmは出てたと思うのだが。ホントに色々、末恐ろしいヤツ。
42日目
今日は「命令基礎」の実習。
この実習は所謂、犬に対して「お手」だったり「待て」など、命令の定型を教え込むような訓練で、今までで一番楽勝な実習だったかもしれない。
コミュニケーションできる俺たちに命令の定型など必要ないわけで、取りあえず今日与えられたノルマ「待て」「座れ」「警戒しろ」など、適当にこなした。 ノルマが終わると暇になったので、後の時間は他の生徒の訓練を見ながらぼんやりと過ごした。アメルは相変わらず上級者クラスで、黄金竜に何やら高等な命令を教え込んでいた様子だった。
上級者クラスの課題を先取りしてもよかったのだが、飛行訓練とかに比べれば内容も地味だし、教官も忙しそうだったし、で気が進まなかった。
次回からは、本をこっそり持ち込んで、空いた時間に座学の内職でもするとしよう。我ながら妙案。
そういえば最近、また変な夢を見るようになった。
異世界に来たての頃に見た、生き物を食い殺す夢。
最近見なくなっていたのだが、何故か、ぶり返した。
なので、近頃は寝起きが悪い。
明日はクラスで行われる特別実習があるので、せめて今晩は良い夢見たい。
43日目
疲れた。農作業以来の疲労感。
原因はもちろん、今日行われた特別実習。
特別実習という名のドラゴンガチバトル。
何でも最初、俺たち特別育成クラスは指定された「闘技場」なる場所に集合した。
この特別実習は今年度初の実習らしく、全員実習の内容を知らなかった。噂によると、所長のジルさんの意向によって、年度毎に実習内容が変わるのだとか。
そんな噂話も交わしつつ、総勢10名ほどのクラスメイトが待っていた闘技場に現れたのはジルさん本人。
それと巨大なドラゴン。
ジルさんの所有するオリジン種ドラゴン「ティアマト」。
もうね、一目でヤバいドラゴンっていうのが分かる容姿。
で、それからジルさんに説明された実習課題の内容は至って単純だった。
俺たちで力を合わせて、「ティアマトの立っている位置を動かす」こと。
「ティアマトを倒す」のではなく、「動かす」。
つまり直立不動のティアマトを少しでも押し倒せばクリアできる課題だ。
一閒すれば簡単だが、俺は何となくヤバい気がした。こういうのは漫画とかじゃ完全にフラグ。迂闊に突っ込んで返り討ちにあう感じのアレ。
で、才女アメルがそのフラグを直々に回収してくれました。
ちなみに、今日アメルは黄金竜の他に、初日に乗っていた騎竜も連れていた。何でも、あの騎竜がアメルの所有するオリジン種のドラゴンらしい。
能力はカメレオンのように透明になれる、というもの。
厳密には透明化する効果を持ったマナの結界を周囲に張り巡らせることができる能力で、結界の及ぶ範囲内ならどんなものも透明にできるらしい。ジルさんを待っている時間に、そんな感じの説明を自慢げに話していた。
まあ、そんな自慢の騎竜に乗ったアメルは、馬鹿にしないでお爺ちゃん、とか何とか言ってティアマトに向けて突っ込んだのだ。
それから翻弄するつもりだったのか、アメルはドラゴンと共に姿を消すと、ティアマトの背後に回り込んで体当たりをかました。
が、びくともせず。
その後、アメルは謎の呪文を唱えて、ティアマトの後頭部にファイアーボールを放ったが、ティアマトはかゆいといった感じで頭を掻き掻き。
最後はティアマトの巨大な六枚翼の羽ばたきでアメルは騎竜ごと吹っ飛ばされてノックアウト。
クラスメイトは皆、絶句。
まあ、素人目に見ても、アメルはかなり俊敏にカッコ良く動いていたのだが、それが翼の一凪ぎであしらわれたわけだ。竜の巣でも屈指の才女が一撃でやられたとあれば、皆臆するのも当然。
まあ俺は良い気味だと思っていたけど。
そんな感じでびびって動かなかった俺たちに、ジルさんは一言。
来ないのなら、こちらから行くぞ。
…何その漫画みたいなカッコいいセリフ!
なんてツッコむ暇もなく、ティアマトはブレスを俺たちに向けて放ってきて、それが開幕のゴング。
俺たちは残り時間、ティアマトから放たれるブレスと、翼のかまいたち?のような衝撃波の弾幕からひたすら逃げまどった。
イットワズ阿鼻叫喚ノ地獄絵図。
ジルさん曰く、死なない程度に調節させたらしいが、あれがティアマトの本気じゃないと知ったときの驚愕たるや。ディノも大概だが、上には上がいるもんだ。
俺はディノに乗って飛び回り、辛くも被弾せずにすんだが、実習が終わるころにはクラスメイトの大半は瀕死状態。まあ俺もディノに鞍をつけずに乗り回したせいで、ズボンがビリビリに破れて、散々な目にあったけど。
実習の後、クラスメイトに回復魔法をかけていたジルさんから、傷を一つも負わなかったことを誉められたが、正直、嬉しくなかった。
また来週も同じ課題(拷問)が課されるらしく、再びあの死線をかいくぐらなきゃならないと思うと憂鬱で仕方ない。
ティアマトを動かせるかどうか、という課題達成の話以前に、果たして来週も無事に実習を終えられるかどうか。ジルさんの紳士的な笑顔が今や恐怖に変わりつつある。冗談抜きで。
ちなみにディノは、終始圧倒されっ放しだったのがショックらしく、今もふてくされてる。思えばディノは、今まで格上の相手と出会ったことがなかったから、少なからず動揺しているんだろう。今日の相手はブレスを吐く暇すら与えてくれなかったからな。
まあ、ブレスする暇が無かったのは背中に俺を乗せていた、というのもある。 ディノの機動力が落ちていた点は否めないし。
一応、そんな感じの慰めの言葉をかけてみたものの、ディノは猫のようにずっと丸くなったまま。
…うーん、来週までに何か対策を考えないとな。
今日はもう疲れたので寝ます。