37日目~40日目
37日目
昨日から割と楽しみにしていた飛行実習だったが、実習に行ってみて一気にテンションが下がった。あのアメルと授業がかぶったのだ。
簡単に自己紹介したとき、生徒の中で唯一、俺のことはまるで眼中にない、といった感じで髪をいじっていたアメルの態度を俺は忘れない。
実習に参加していた生徒は15人ほど。
実習に参加する時期がまばらなので、生徒の進行度もそれに応じてまばらだ。初めてドラゴンを飛ばしてから間もない生徒や、すでに自由自在に操れる生徒など様々。例の生意気な才女はもう最終試験に挑む段階らしい。
で、その才女はというと、以前乗っていた騎竜とは違って、3~4メートルはあるかという黄金色した派手な飛竜を連れていた。さすが才女、色々なドラゴンを使役していること。
ちなみに俺は新規参入だったので、初心者用の基礎訓練から始まった。
のだが、簡単すぎて拍子抜け。
ドラゴンを2メートル真上の上空へ飛ばす、とか1分間飛ばし続ける、とかそんな感じの訓練。
あんまり簡単だったので、戯れに上級者用の飛行コース(犬のアジリティ競技会のように、決められた障害物を順番にクリアしながら飛行していくヤツ)をディノにやらせてみた。
ディノにコースの説明をして、あとはディノ任せ、という簡単なお仕事。
普通であればドラゴンに隷属魔法を使いながら、適宜コースの誘導をするらしいが、俺とディノの場合、そういうのは皆無。テレパシーさまさま。
結果、賢いウチのディノは難なくコースを飛びきり、教官やアメルの鼻を明かしてやった。
気取った才女様の呆然とした表情を見れて、先日の溜飲が少しは下がったかな。
次から飛行実習は上級者クラスへ飛び級らしい。ヤター。
38日目
今日の実習は『対魔物訓練』とかいう物騒なヤツ。
生徒数は昨日より多く、30人弱はいた。
当然だが『飛行訓練』は飛竜限定。今日の実習は飛竜に限らないので、必然的に数は多くなる。
生徒たちのドラゴンは飛竜や騎竜を始めとして、土竜?みたいなドラゴン、水陸両用のドラゴンなど様々。当たり前かもしれないが、一口にドラゴンとは言っても多種多様な種類があると実感。
しかし、またアメルと授業がかぶるという事態には参ったがね。
で、今日の実習は、というと、上級者の生徒とそのドラゴンが、あらかじめ用意された魔物と戦う様を見学する、というもの。
新規参入なので実戦はまだ先らしい。
しかし、ここに来るまでにディノはキングオークの群れを始め、すでに何匹もの魔物を屠っているのですがそれは(ry。
もちろんそんなことはおくびにも出さずに、おとなしく見学していました。
実戦には当然、アメルも参戦しており、昨日と同じ黄金色のドラゴンを連れて、カリュプスアントとかいう巨大な蟻を相手していた。黄金竜は蟻の丈夫な表皮に手こずっていたようだったが、目や口、関節部などを攻め、何とか勝利を収めていた。
ふっ、どう?、みたいな感じの目線でアメルが俺を見てきたが無視。ガン無視。
ディノは終始うずうずしていて、「リュウ、俺にもやらせて」と何度も訴えてきたが、何とか抑えさせた。当然、戦わせてやりたかったのだが、魔物の数は限られていて、実戦する上級者たちの獲物を奪うわけにもいかなかったのだ。
そんなこともあってか、ディノのヤツ、先ほどベランダから外へ出たかと思うと、野生のカリュプスアントを狩って、速攻で戻ってきた。しかも、あの堅そうなカリュプスアントの表皮をいとも簡単に引き裂き、食い破って息の根を止めた様子。
しかし、アメルの黄金竜の方がディノよりも遥かに体格が大きく、成竜と幼竜ぐらいの差はあると思うのだが、この力の差は何だ。今の段階で成竜以上の力とか、末恐ろしい子。
誉めてやったが、ディノの雄姿をアメルに見せてやれないのが残念。
てか、蟻の死体どうしよう。…まあ、後でディノに捨ててこさせるか。
明日は座学「ドラゴンの種類と起源」があるので、少し不安。まあ、何とかなるだろう。
39日目
無理でした、座学。あれキツ過ぎ。
専門用語のオンパレードで「ドラゴンの種類と起源」どころじゃない。基礎用語から、竜の巣付属の書庫へ行って調べなくては追いつかない。こんなことなら、爺さんからある程度レクチャーを受けていればよかった。
竜胞(竜に特有の細胞のこと。主に皮膚下の肉を覆っている部分)とか、ドラグーンラッシュ(昔、竜騎兵が大量に教育され、戦争に送り出されたこと)とか常識らしい。白目。
しかもまたアメルと授業がかぶるという悲劇。あの才女、教官の質問に全て手を挙げていたし、当てられたら完璧に答えていた。その度にわざわざ周囲にふりまいていたあのドヤ顔は、今思い出しても腹立たしい。
ホント、今日は良いことなかった。
…まあ、今日の夕飯が竜の巣に来て以来、今までで一番美味かった点を除けば、だが。
俺たちは朝昼晩の食事をいつも食堂で済ませている。
ドラゴンも一緒に食べることのできる、竜の巣専用の広い食堂だ。
正直、食堂と呼ぶにはいささか過ぎたる広さと優美さを兼ね備えており、舞踏会でも開けそうな豪華ホール。
で、そんな食堂で、今日食したのは刺身に似た料理。
馬刺しやマグロなど、故郷の味を思い起こさせる味で美味かった。当然、フィオさんの料理には劣るが。
一方のディノはいつものように「美味い美味い」とドラゴン用のステーキを絶賛しながら頬張っていた。
さすがは“竜の巣”。ドラゴンの舌をよく分かっている味付けなのだろう。
ディノの口(正確には思考)から「美味い」以外の言葉を聞いたことが無い。
40日目
今日は実習が無かったので、部屋に引きこもっていた。
書庫から借りてきた本をディノとともに読みふけるというインドアスタイル。
選んだ本はこの世界でいう小学生ぐらいが読むような歴史の入門書やドラゴンについての入門書など。もちろん、「ドラゴンの種類と起源」対策のためだ。
正直、座学は捨てたいのだが、単位数的に最低でも一つは座学をパスしないといけないので、勉強せざるを得ない。異世界に来てまで勉強に追われるとは。
そういえば、今日ドラゴンの入門書を読んで思ったが、ディノの成長速度はやっぱり異常。
すでに俺の身長を追い越し、目算で2メートル以上はある。
どんなに成長速度が速いドラゴンでも、一か月で2メートルを越す種類はいない。
まあ、オリジン種はマナを行使する特殊能力持ちらしいので、それが影響しているのかもしらん。
今さらだけど火を噴くってのもマナを行使する特殊能力に分類されるんだよな。テレパシーもできるし、改めて凄いドラゴンだと実感。
テレパシーで思い出したが、竜の巣に来てから何度か、ディノ以外の普通のドラゴンにテレパシーが通じるかどうか試してみたが、結局無理だった。
テレパシーは俺とドラゴンの両方のマナを介する必要があるらしく、マナを持たない普通のドラゴンではテレパシーできないっぽい。
裏を返せば、マナを持っているオリジン種ならテレパシーできる可能性があるわけだが、ディノ以外のオリジン種を見たことが無い、というか区別が分からないので試したことはない。
本によると、マナを内在しているか否かで区別できるようだが、よほどその道に精通していないとドラゴンのマナを見分けるのは難しいらしく、トーシローには到底無理らしい。
まあ、見分けられるのはドラゴンオタクのゲン爺さんとジルさんぐらいか。
生意気な才女も見分けがついて良さそうだが、実際どうだか。
やけに俺に絡んでくるのは、ディノをオリジン種だと見抜いているからか?
それよりも、俺が爺さんの孫という設定のせいで、「天才の血筋同士」みたいな対抗意識を燃やされているような気がしてならない。
残念ですが俺は天才の血筋でも何でもなく、どこにでもいる一般的な高校生です。
久々にフィオさんの料理が食べたいと思う、今日この頃。




