27日目~30日目
27日目
今日は朝から爺さんに呼び出しをくらった。
いつもは一番に畑に出て、俺に遅いと叱りつける爺さんだが、今日に限って自室にひきこもって何やら神妙な様子。
何だかんだいって爺さんの部屋に入るのは初めてだったが、中は意外な内装をしていた。
山のように積まれた本や魔道具、そしてドラゴンの模型が部屋を埋め尽くしており、言っちゃ悪いが、俺の世界で言う“厨二病”の匂いがぷんぷんする部屋だった。
もちろんそんなことはおくびにも出さず、俺は爺さんの話を聞いた。
何でも、俺とディノの関係性について知りたい、と言うのだ。
爺さん曰く、ドラゴンと意思疎通ができる人間は見たことが無い、というか、いるはずがない、らしい。
普通のドラグナー(竜使い)なら、ある程度成長して刷り込みを終えたドラゴンと契約し、隷属関係を結ぶ。そして騎乗や戦闘などの際に「使役」するらしいのだが、俺の場合はもちろん契約なんてしていないし、そもそもディノを「使役」していない。
厳密にいえば、俺はディノに言うことをきかせている、のではなく、言うことを聞いてもらっている、という「依頼」に近いし。
そんな感じの話や、他にもディノの意思も読みとることができる等々、爺さんに伝えると、有り得ないと連呼するばかりだった。
知らんがな。実際、できるんだし。
それから爺さんを納得させるために、俺は最初にしたマスタードラゴンの話をもう一度して、マスタードラゴンに特別な力を与えられたのかも、と言ったら爺さんも渋々納得した。
当然かもしれないが、マスタードラゴンの話は信じていなかったらしい。まあ今更か。
しかし、その後の爺さんの話に俺は面食らうことになる。
何とディノを本格的に育てるために“竜の巣”へ迎え、というのだ。
何その死地。某アニメ映画に出てくる乱気流のことか、と思ったがもちろん違う。
取りあえず竜の巣については明日、書こうと思う。
今日は爺さんと話づくめで疲れた。眠い。
28日目
で、昨日の続き。
“竜の巣”とは、一言でいえばドラグナーの国営訓練所のことだ。
“竜の巣”は見込みのあるドラグナーに無償で人とドラゴン用の寮を提供し、その他ドラゴンについての知識や扱い方なども授業で教えてくれる(もちろん無償で)至れり尽くせりの施設らしい。
ドラゴン協会?というパトロン組織や国営軍の資金によって運営されている施設で、将来有望なドラグナーを囲い込むのが目的だとか。
爺さんは竜の巣のことをあまりよく思っていないらしいが、ディノのようなオリジン種を育てる上では理想的な環境だそうな。
俺は正直言って、慣れ親しんだ爺さんの家でこれからもディノを育てていきたいと思ったが、爺さん曰く、ディノを育てる上でこの場所では遥かに手狭になるし、食事も満足に与えられないだろう、とのこと。
まあ、居候させてもらってる身で、ここではディノは飼えない、と言われたら立ち退くしかない。
いつかはこんな日が来るんじゃないかと予期はしていたが思ったよりも早くてちょっと泣ける。
あと爺さんが竜の巣へ推薦状を送ってくれるらしい。
すぐに入巣できるように、とか言っていたが、爺さん、意外と権力があるっぽい。
色々とお世話になり過ぎて本当に何かお礼がしたい、と俺が言うと爺さんは「たまにドラゴンを見せに戻ってこい、それでチャラだ」と。
男前か!…いや、ただのドラゴンオタクか?
何はともあれ、あと数日でフィオさんの料理が食べられなくなることに今からブルーになる俺。
味わって食わねば。
29日目
そういえばディノのことを書いていなかったが、ここ三~四日で急激な速度で成長している。羽を使って飛べるようになったし、火もそこそこ噴けるようになった。
大きさも少し前は俺の腰ぐらいだったのに、今ではフィオさんと同じぐらいか、それ以上。下手したら、あと一週間で俺の背も抜かれてしまう。
爺さん曰く、この成長速度はもちろん異常だ、とのこと。
近頃はよく俺に話しかける(テレパシー)ようになってきて、「野菜と虫の名前教えて」だとか「文字を教えて」だとか、知識欲に飢えている。
俺もこの世界に来てまだ一か月に満たないのだが、フィオさんや爺さんに教わったことをそのままディノに教えていた。
まあ、ドラゴンには人のような緻密な声帯が無いので文字を発声することはできないのだが、読むことはできる。というか、できるらしい。
爺さんにそのことを話すと、またもや目を丸くしていた。フィオさんから借りたBL小説をディノに読ませてやっているのはここだけの話。
ちなみに、ディノは俺のことを「リュウ」と呼び、ドラゴンから竜と呼ばれることに違和感を感じなくもないが、そのままにさせている。
今気づいたが、フィオさんと爺さんには二人称でしか呼ばれたことが無い。軽くショック。
あと爺さんから聞いたところによると、俺とディノのテレパシーは魔法に近いらしい。
普通では有り得ないと前置きしながらも、爺さん曰く、俺のマナはドラゴンにだけ乗せることができるんじゃないか、とのこと。
そして、俺に備わる異常なほどのマナが、ドラゴンの思考を把握するという、有り得ない能力を発揮しているのでは、と爺さんは語った。
もちろんこのテレパシー能力はディノ限定かもしれないが、ドラゴン全てに使えたら便利…かもしれない。
取りあえず、竜の巣へ行ったら試してみよう。
…と、竜の巣のこと思い出したら少し憂鬱になってきた。
フィオさん、今日のステーキもめちゃくちゃ美味かったです。
30日目
今朝、竜の巣から便りが届き、入巣の目途が立ったので、明日、ここを発つことになった。
いつも通り一日農作業をして、最後にフィオさんの料理を食べた。
料理はいつもと同じだったが、いつだったか、つまみ食いをしてフィオさんにビンタをくらったポポムの実のパイが出て、少し泣きそうになった。
今までありがとうございました、なんてかしこまって二人に言ったら照れくさいから止めろ、と爺さんに叱られた。
フィオさんはいつも通り、反応が薄かったが、「頑張ってね、カミスさん」と小さく言ってくれた。
つまり、俺の名前を初めて呼んでくれたのだ! ファミリーネームだけど!
というか正直、名前を覚えていてくれたってだけで感動してしまった俺って一体。
こんな感じで、とりわけ書くことのない一日となったが、最後の日って意外とあっさりだよな。
まあ、後腐れ無くて良いか。
ディノは知識欲が出てきてから、妙に大人しく、今もじっと俺が日記を書くのを見ている。
最初の頃のやんちゃさはどこへやら。
まあ、手がかからなくて良いけど。
明日の準備をしなくちゃならないので、今日はここまで。
爺さん、フィオさん、いつか恩返しに戻ってきます。