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20日目~26日目

20日目


 

 一週間ぶりの労働でウキウキしていた昨日の自分を殴りたい。

 俺は今日、軽く1ヘクタール以上ある休耕地の除草を一人でやった。

 そう、たった一人で。

 しかも、ドラゴンの雛を背負いながら中腰でひたすら草を抜く、というかなり地味な地獄絵図。もちろん、日差しも強いこと強いこと。

 さすがに耐えかねて、魔法でどうにかできないものかと爺さんに泣きついたのだが、無暗に魔法を使うと大地が枯れてしまうのだとか何とか。あの爺さん、鬼か。

 で、そんな俺をよそに、ドラゴンは元気一杯なわけで。

 ドラムワームが出てくるたびはしゃいで鬱陶しいし、ニーモ蝶には火で威嚇するし、草取りは一向にはかどらなかった。二、三回、コイツの火で頭が火事になりかけた。

 

 そんなこんなあって疲弊困憊しながらも、夕飯の後、爺さんにドラゴンの話を聞いたのだが、出るわ出るわ、聞いたことも無い専門用語の数々。目をキラキラさせて話す爺さんにフィオさん興味津々、俺うんざり。

 かれこれ二時間も続いた演説の途中、トイレ行ったふりをして自室へ逃げこみ、今に至る。


 まあ、かいつまんで言えば、このドラゴンは超絶レアな純血ドラゴンだってこと。

 一般的には動物と混血の雑種ドラゴンが「ドラゴン」として世間でまかり通っており、純血なんて国王クラスのお偉いさんしか持ってない。「オリジン」という呼称つきの別格。

 で、火を噴くことができるし、マナ持ちだし、知能も高いし、爪も牙も鱗も尾も体格も他のドラゴンを圧倒する逞しさで云々かんぬん…。


 もう知らん!寝る!

 

21日目



 異世界に来て三週間目突入。

 実感がわかない。


 今日は、昨日除草した休耕地に何やら白い粉を撒いた。フエー何とかっていう動物の骨をすり潰したものらしく、土壌有機物の分解、地力の回復を助ける堆肥で、こいつを撒いた休耕地にハピル草という植物を栽培することで通常は三年かかる地中の有機循環もわずか一年足らずまで短縮でき、さらに害虫の――以下略。

 で、今日は午前中フィオさんも手伝ってくれて、仕事が大いにはかどった。

 のだが、粉を撒いてる最中に、ドラゴンが粉の入った桶に顔を突っ込んで大惨事になった。

 桶から撒き上がる粉塵に俺もドラゴンもくしゃみが止まらなくなったのだ。そんな俺たちの様子を見て、フィオさんに爆笑されたのは思い出したくもない。

 まあ、フィオさんの大笑いする顔は可愛くないわけではなかったのだが。

 

 そんなこともあってか、フィオさんがドラゴンに名前をつけてくれた。

 ディーノ=グラン(この世界で〝くしゃみ伯爵〟の意味)

 

 爵位までもらいやがって、このドラゴン。良い名前だったので、これからはこいつをディノと呼ぶことに。

 (たぶん、伯爵=グランがついたのは、フィオさんが貴族モノの●L小説が好きだからだろうが)

 

23日目



 ひたすら農作業に励む。平和な日々。


 ポポムの実のジャムが美味すぎて辛い。フィオさんの腕前にただうなるしかない。

 ディノも貪るように舐めていた。

 最近は貴重なフィオさんの手料理にありつくディノが憎い。

 こいつ、また一段と大きくなって今では俺の腰に届くかというほどに成長してしまった。羽根も成長してきていて、じきに飛べてしまうらしい。

 爺さん曰く、ドラゴンは食費がバカにならないらしいので、この家族に面倒をかけてしまうのでは、と今から何となく気まずい気持ちに。ディノの食い扶持ぐらいは何とかしたい。

 まあ、俺はフィオさんの手料理を食べる。異論は認めない。

 

 ちなみに、ディノの食事は肉を中心に何でも食べてOKらしいので、今は肉や野菜の切り落とし、果物の皮などを食べさせている。スキを見せると俺の食事が奪われかねないので食事中は常にディノとの睨み合い。

 爺さんが呆れていたが、これは死活問題なのだ。本気で。


25日目



 昨晩はちょっとした発見があって、寝る間を惜しんで、「ある実験」をしていた。

 なので、今日の農作業は寝不足で辛かった。身体中が痛いし、頭がふらつく。


 今日はもう寝て、明日また書く。


26日目



 カズーマの塩焼きが美味かった。ちなみにサワラに似た魚。

 

 早速、一昨日から試している「実験」について、ちょっと整理してみたい。

 とはいうものの、この実験を言葉にして上手く書き起こせるかどうか、自信が無い。なんせ、この実験はマナを司る感覚的なモノだから。

 

 事の発端は、一昨日、夕飯を食べ終え、布団の上で寝落ちしかけていたときだった。

 日記を書かなきゃ、と思いつつ起き上がるのも面倒なので、何とはなしに、ディノに向けて「日誌取ってくれー」と話しかけたのだ。もちろん、ドラゴンに言葉なんて伝わるわけないのだが。

 しかしその時、もやもやした何か、意識のくだ?みたいな、よく分からない糸状の路が俺とディノの間を通って、まるでテレパシーのようにディノに俺の言葉が伝わった“感覚”がした。

 そして、見事ディノは布団に寝転がる俺のところに本を持ってきたのだ。


 直感的に俺は

「あ。これ、たぶん、マナを通じて伝わったんじゃね?」と思ったわけで。


 それからピンときて、マナらしきソレを意識的に手繰りよせて、ディノと意思疎通を試みた。と言っても、「あれを持ってきてくれ」、「背中をかいてくれ」というような感じだ。

 最初は伝わりづらかったものの慣れれば簡単で、二時間ほどで大体の俺の言うことを聞いてくれるようになったし、ディノの思考? も少し分かるようになった。

 まあ、ディノはまだまだ赤ん坊なので「お腹すいた」、「遊んで」という位の意思しか読み取れないが。

 コツとしては、俺のマナとディノのマナを接合して、そこに言葉ではなく、意思を乗せて読み合う感じ。

 とまあ、自分で書いてて実際よく分からないけど、これ以外に表現のしようがないのだから仕方がない。


 で、今日はこの練習の成果を爺さんとフィオさんにお披露目して、まんまと爺さんの腰を抜かしてやった。

 爺さんとフィオさんは最初、俺がディノに何でも言うことをきかせることができる、と言うとペテン師を見るような目で見てきたが、ディノにフィオさんのスカートをめくらせたら、すぐに本気にした。

 まだ頬っぺたがひりひりと痛むけど、妙な達成感がある。


 純白は正義。異論は認めない。



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