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109日目~110日目

109日目



 異世界に来て初めて酒を飲んだ。

 というか、人生で初めて飲酒した。

 ま、今は人じゃないので厳密には竜生初。


 何故飲酒することになったかと言うと、今日ジルさんが竜の巣に戻ってきて、俺が無事に戻ってきたこと、世界が逆鱗の危機から救われたこと、俺の働きに感謝したいこと、等々を踏まえた簡易パーティーが開かれたのだ。


 パーティーは食堂を貸し切って行われ、ご馳走や竜の巣の地下で眠らせてあった、高級な酒などが振る舞われた。

 パーティーに参加したのは俺の素性を知る、ごく親しい人たちに限られたので、パーティー自体は小規模なものとなった。

 爺さんとフィオさん、クラージアさん、リーザさん、アメル、オタク、ジルさんというメンツ。


 この国じゃ15歳から酒を飲めるらしく、アメルやフィオさんも初飲酒、とのこと。


 そんなこんなで皆はグラスを手に、俺は酒樽を片手に乾杯した。

 ドラゴンの身体に酒を入れても良いものか、と思ったが酔いつぶれたドラゴンの話は聞かないと爺さんに笑われた。

 で、初めて飲んだ酒の味は…まあ、不味くもなく美味くもない、という感じ。

 最初は舌がピリピリしたが慣れれば平気。

 アメルたちも最初は目を瞬いていたが、途中から慣れた様子で飲んでいた。

 しかし、ディノの舌には酒は合わなかったのか、「マズっ!」というので、パーティーの間ディノの意識はスリープ状態にしときました。

 しかし、俺とディノで味覚にこれほど差が出るのもおかしな話だ。

 同じ身体のハズなんだが、酒に関しては精神の年齢が強く影響するのか?


 ともあれ、酒の席で、早速ジルさんにも、俺が人とドラゴンの間で揺れていることを伝えた。

 俺の話を聞くと、ジルさんは難しい顔をして、国としてはそのままでいてくれた方が好ましいが、優先すべきは君の意思だ、とジルさんらしい良識的な意見。


 ゲルニク(何と爺さんの本名!今更だが初めて知った)やアメルも協力してくれるので、国のことは考えなくて良い。君は十分すぎるほど世界のために働いてくれたのだから、これからは君の生きたいように生きるべきだ、できることがあれば何でも協力する、とのこと。

 …まあ、正直、国や世界のことは割と二の次に考えている俺だったが、その心遣いには感謝した。


 その後、四方山話を酒の肴に、皆と語り合った。

 メンツはほとんどヘッドウィグ同好会のメンバーだったが、酒が入ると皆饒舌になり、いつもとは違った面白い話を色々聞けた。


 クラージアさんからは、昨日の魔物討伐を感謝された後、竜の巣の護衛になる経緯を聞けた。

 クラージアさんは昔、孤児だったらしく、孤児院のあった村が魔物に襲われた時、応援に駆けつけたジルさんとティアマトに助けられ、以後、竜の巣の護衛となるため、研鑽を積んだとか。


 ドラグナーになる才能も家柄も無かったから、この道を選んだの、と語るクラージアさんは少し寂し気だったが、でも後悔はしてない、と気丈に語る姿はまさにたくましい女性、といった感じ。


 リーザさんからは、北国の話を聞けた。

 父親がアースウェルド、母親が北国フィラルドの出身で、ドラゴン協会の騒動を機に北国に亡命していたらしい。

 俺たちが北国でルガドを倒した後、フィラルドの国内では、神の使いが国を救ってくれた、と大騒ぎになったとか。

 フィラルドも良け国じゃから、またお越しを、と言うリーザさんの口調はどこか訛りが残っていて、異世界に来て初めて方言萌えというヤツを感じたね、うん。


 爺さんとジルさんは途中で何故かお互いの孫自慢が始まり、軽く喧嘩みたくなってて草。

 爺さんズ、やっぱり友人同士なんだな、と感じたワンシーン。


 しかし爺さん、フィオさんのことを「可憐に咲く一輪花」って表現するのはどうよ。

 まあ、ジルさんもジルさんでアメルのことを「闘牛のように天真爛漫」って。

 …いや、間違ってはいないけどさ。

 ちなみに二人が言い合っている間、フィオさんは林檎のように顔を赤くして身を縮こませ、アメルは誇らしげに胸を張っていたという。


 オタクは酒が入っても相変わらずだったので割愛。

 

 俺はといえば、ドラゴンの身体なので酒は効かないかと思っていたが、意外と酒が回り、ほろ酔い気分で皆に今までの武勇伝?を少し、というかかなり誇張して話した希ガス。

 ジルさんやフィオさんたちを助けた話や、爺さんを助けようとしたらバルバドスゴルフィーとガチバトルが始まってしまった話、ギブルドやアンガスを倒した話等々。


 そんなこんなで、初めての酒の席は割と楽しく過ごせた。

 普段は「マスタードラゴンの使者」として、誰かしらの視線を感じてしまうが、今日のパーティーはそんなこともなく、気兼ねなく皆と話せたし。


 しかし、皆と分かれた後、事案が発生。

 発端は言うまでもなく、アメル。

 俺が食堂を出るとアメルは有無を言わさず俺の尻尾を引っ張り、夜の運動場へ。

 アメルの奴、相当悪酔いしてしまったらしく、「もう一回勝負よ!」とか言いだし、何を血迷ったか、メリーに乗ってスピード勝負の再戦を挑んできたのだ。

 いつだったか、騎乗訓練の授業で俺がディノに乗り、アメル&メリーペアと勝負した日が懐かしい。


 寝ているところを起こされたのか、寝ぼけ眼のメリーは酒臭いアメルに戸惑っている様子だったな。


 そんな無謀としか言えないアメルのリベンジだったが、付き合ってやるが吉、ということで勝負を受けることに。

 

 結果はお察しの通り。

 アメルは大敗した後、こんちくしょー!と叫び、地面に寝転がると、フェアじゃないとアメルにしては珍しく、勝負の不公平さを訴えてきた。


 ドラゴンと合体なんてズルだ、チートだ、イカサマだー!

 と情けない大声で、犬みたいにわんわん吠えた。

 そして、ひとしきり不満を喚き散らすと、

「今度は正々堂々、ディノに乗って、競走しなさいよ!」

 と、俺に指さしながら言い放ち、あえなくノックダウン。

 気持ちよさそうにグースカいびきをかいて、爆睡する酒癖の悪い美少女が一人。


 やれやれと思いつつ、俺はアメルを抱え、メリーを厩舎に連れていき、ジルさんに天才少女()を引き渡した。


 いつも面倒をかけてすまない、とジルさんに頭を下げられながら、その懐で眠るアメルが寝言でむにゃむにゃと「次は絶対負けないんだから」と言っていたのは良い思い出。

 ホント、あいつの頭の中には勝負しか無いのな。


 それから部屋に戻って、日記を開いたが、何か、アメルと勝負して、俺も色々と吹っ切れた。



 やっぱり、人間に戻ろうと思う。


 別にアメルからズルだとか、チートだとか言われたからってわけじゃないが、俺もディノもこのままじゃいけない気がする。

 

 チートの力を失うかもしれないし、無事に身体に戻れるかも分からないが、何やかんやで、人間が恋しい。一生ドラゴンで生きていくのは正直、御免だ。

 ドラゴンの生活が嫌いってわけでも無いのだが、人の生活が一番俺の性に合っているという、単純な話で。

 

 あれほど悩んでいたのが、こうして意外とすんなり決められたのは、酒のせいってのもあるかもしれないが、何よりアメルのおかげだろう。

 世話のかかる奴だが、ここぞってところではちゃんと働くし、一度は俺とディノの命も救ってくれた。

色々とあいつには感謝。

 しかし、アメルの奴、先日は俺が人間に戻るのをあれほど反対していたくせに、酒を飲んだ途端、あの態度だからな。相変わらず、素直じゃない。


 今まで俺がアメルに勝てていたのは、チートの能力のおかげだったし、人間に戻って弱くなった後はガチで負けるかもしれないな。


 …ま、それも本望か。

 悔しくなったら、ヘッドウィグでボッコボコにしてやろう(ゲス顔)。




110日目



 今朝、枕元に現れたマスタードラゴンに俺の意思を伝えた。

 で、マスタードラゴンはすんなりと頷き、今夜、身体に戻るとき、マナの接合の助力をしてくれることになった。

 私が協力してやるのだ、万に一つ、死ぬこともあるまい、などと言っていたが、その自信が逆に不安なんだが。

 

 皆にも俺が人間に戻ることを伝えた。

 俺の選択に皆は賛成してくれて、人間に戻れたらまたパーティーをしよう、と言ってくれた。


 それから食堂で最後のドラゴンフードを食べた。

 しかも、今日は特別にフィオさんが研究して作った、お手製ドラゴンフードで、相変わらず美味すぎて草。

 懐かしのポポムの実のパイも食べられたし、良い最後の晩餐になった。


 最後に手料理を食べられて良かった、とフィオさんに伝えると、新しい料理ができたら、ディーノと一緒に、また食べてくださいね、と言われ、暗に励まされてしまった。

 そんでもって、「人間に戻れるように祈ってます、リュウさん」という言葉、頂きました。やったぜ。

初めてファーストネームで呼んでもらえるという良い思い出ができました。

 あれが本当に最後の晩餐にならないよう、俺も頑張ります。


 食事の後、アメルとも話をしたかったが、昨日飲み過ぎたせいでまだ寝ているのだとか。


 竜の巣の特別顧問がそんな体たらくで良いのか。

 …まあ、後腐れ無くて良い気もするがね。取り立てて言っておく言葉もないし、あいつも不機嫌な顔をするだけだろうよ。


 人間に戻ったらちゃんと礼を言えば良いさ。

 …まあ、それでも不機嫌な顔されるだろうけど。








 …さて、いよいよ元の身体に戻る時間が近づいてきたな。

 不安は全く無い、といったら嘘になるかもしれないが、恐怖心はさほどない。

 この間の精神崩壊を経験したせいかもしれないが、何となく無事に戻れるような気がしている。

 逆にディノの方が心配性になっていて、本当にちゃんと人間に戻れるのか、このままでいた方が良いんじゃないか、とあれこれ言ってくるぐらいだ。


 そんなおかんのようなディノを一旦、落ち着かせて、今はベランダでのんびりとくつろぎながら日記を書いている。今夜も星が綺麗だ。


 …って、逆にこれ、フラグか?

 不安になった方が上手く人間に戻れるパターンかも分からん。


 …まあいいか。

 精神的負荷ストレスは無いに越したことは無い。






 …あとは、そうだな。

 この日記について書いておくか。


 見返して思うが、結局、ほぼ毎日この日記を書いていたな。

 数えてみれば、異世界に来てから大体四か月弱。長かったような、短かったような。

 途中、忙しくて書けなかったり、頭おかしくなってキチガイみたいな内容になったりしたけど、それも良い思い出(白目)。


 一週間書かないでいると死ぬ、という縛りが嘘だと分かって、一安心だが、とりあえずこの日記はディノに預けておこうと思う。

 仮にもし、俺が無事人間に戻れたとしたらまた書くことがあるかもしれないし。

 別に書くことはもう義務ではなくなったワケだが、日記を書くのは意外と楽しい。

 というか、普通に楽しい。

 割と冗談抜きで、日記に救われた時もあったし。

 日記依存症になっている気のある自分が、若干怖いけども。


 …ま、全体的にディノの成長日記というより、俺の日記になってしまったのはご愛嬌。

 もし、人間に戻れたら、今度はちゃんとディノの成長を書いてみたい。

 



 

 というわけで、これから医務室へ行って、ちゃちゃっと人間に戻ってくるとしますか。

 

 

 あと数十分で約束の時間だ。

 またこの日記を書けたら良いな、なんて思いつつ、この日記を閉じます。

 

 






 

 

 次に目が覚めるまで、良い夢見たいな。

 

 それじゃ、おやすみ。


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