表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
30/32

106日目~108日目

106日目



 ドラゴンとして生きるか、リスクを負って人間に戻るか。

 昨日からずっと考え続けているが、答えは出ていない。


 正直、ドラゴンの生活に慣れ過ぎて、ドラゴンのまま生きていくのもアリなんじゃないかと思い始めている。


 この力があれば無双できること間違いなし。

 「マスタードラゴンの使者」としての肩書もあるし、将来は安泰だ。一生寝て暮らせる。

 それにマスタードラゴンの話じゃ、人間に戻った場合、以前と同じように俺の身体が大量のマナを保持できるかも怪しいらしい。

 無双できなくなったら、人間に戻っても良いことないのでは。

 

 ドラゴンの姿が不便かと言われたらそうでもない。

 竜の巣にいる以上、ドラゴンとして必要最低限、いや、十分すぎるほどの生活を送れるし、友人や信頼できる人たちもいてくれるわけだ。

 贅沢なことを言えば、ドラゴンの舌ではフィオさんの料理を始め、人間の手料理を味わえない、ということが少々心残りか。

 まあでも、竜の巣のドラゴンフードは絶品だし、そこまで不満は無い。

 

 他にデメリットがあるとすれば…性の問題?

 ドラゴンでいる限り、雌ドラゴンといちゃいちゃする未来しかない希ガス。

 …いや、まあ、人の性癖なんて星の数ほどあるわけだし、人間の女性とお付き合いできる可能性も無くは無いのかもしれない。

 どこぞのドラゴンオタクを見ているとドラゴンにもワンチャンあるのでは?と思えたり思えなかったり。


 もちろん、人間を捨てることに抵抗感は拭えないのだがね。

 元の世界に戻れない、ということにも後ろ髪を引かれている。


 そんなこんなで、一人で考えていても埒が明かないので、明日爺さんやフィオさん、そしてアメルに相談してみようと思う。

 今日は皆忙しいためか都合が合わず、食事時に顔を合わせることができなかった。

 聞いた話じゃ、爺さんはゴルフィーに乗って首都へ一日出張、アメルは競技場修繕現場の指揮監督、フィオさんは厨房の手伝い。

 フィオさんは相変わらず料理が好きなようで、最近ではドラゴンフードのレシピ研究も始めたとか。フィオさんの料理への熱意に脱帽。


 仕方なく、今日はオタクと食事を共にしたのだが、改めてオタクのドラゴン、マリアンヌの成長に驚いた。

 マリアンヌはディノと同じ、オリジン種の中でも貴重な新種ドラゴンらしい。

 前見たときは特に気にしていなかったが、白と金の鱗が見事で、幼竜とは思えない立派な体をしていた。すでに1メートルはある。

 まあ、体形はお世辞にもスマートとは言い難く、ドラゴンと言うよりカメに近いのだが。

 顔もほとんどカメ。言うなれば、タートルドラゴン。


 しかし、あんな姿でも"オリジン種"を冠しているのだから、ドラゴンという種族はよく分からん。


 相変わらず、オタクの竜自慢は鬱陶しかったけど、不恰好なドラゴンをあれほど愛せるんだから、ドラグナーとして合格だろうよ(投げやり)。



107日目




 今日は爺さんやフィオさん、アメルと昼食時に合流することができた。

 そして案の定、皆は俺の相談に驚き、そしていかにも返答に困る、というような顔をした。


 …まあ、ドラゴンと人間、どっちでいる方が良い?なんて聞かれても、普通は訳が分からないだろう。


 それでも爺さんは、他人事のようで申し訳ないが、と前置きした後、例え危険を冒してでもわしは人間に戻った方が良いと思う、と言ってくれた。

 人間は人間として、ドラゴンはドラゴンとして、摂理に従った生き方をした方が幸せだろう、という意見。


 フィオさんは少し間を置いた後、ディノと相談して慎重に決めるべきだと語った。

 というのも、あまり深く考えていなかったが、俺がこのままドラゴンでいるということは、意識は分かれているにしても俺とディノが完全に同化することになる。

 フィオさんは、以前のように飼い主とペット、…いや、ドラグナーとドラゴンとして、ふれあうことができなくて、ディノが寂しいのでは、という見解だ。

 ディノに聞くと、確かにそれはそれで少し寂しいかも、としおれた。


 フィオさんは、それでもカミスさんの命に関わることだから、はっきりとは言えない、とフィオさんらしい慎重な発言で締めくくった。


 こうして爺さんは人間に戻る派、フィオさんはディノの感情を考えた上で、やや人間に戻る派、という意見になったのだが、アメルは違った。



 アメルは真剣な表情ではっきりと、完全体を失うのは惜しい、と言い放った。

 アメルの口から何故こんな言葉が出てきたかというと。


 俺が人間に戻るということは、ディノとの同化を解き、完全体でなくなることを意味する。

 マスタードラゴンの話では、人間に戻った場合、俺のマナは少なくとも今以上に弱まり、再びディノと同化できるかも怪しくなるらしい。

 

 それはつまり、二度と完全体になることができなくなるかもしれない、ということに繋がる。

 そこにアメルは食いついてきた。

 アメルの美学的にこの姿(完全体)はドラゴンの究極的、理想的フォルムらしく、芸術の極致()とまで言ってきたのだ。

 それに戦闘力的にも最強のドラゴンである以上、完全体を失うのはこの国にとって大きな損失だ、と熱く語ったワケで。


 アメルらしいといったらアメルらしい意見なのだが、アメルの言うことにも一理ある。

 完全体の戦闘力を失ってしまうことが、アースウェルドにどう影響するか。

 爺さんのバルバドスゴルフィーがいるとはいえ、やはり強力なドラゴンは、国に何匹いても、不足することは無い。

 俺の個人的な感情を無視したそれだが、ジルさんが今、国内で政治的に重要なポジションにいることを意識してか、アメルはアメルなりにこの国のことを考えた上で、俺が人間に戻ることに対する反対理由を挙げたのだ。


 さらにアメルは最後、それに、と小声で付け足した。

 ドラゴンの耳だから聞こえてしまったのだが、最後、アメルは誰ともなしに「あんたが死ぬかもしれないのは、嫌だし」と呟いていた。


 俺の身を案じてくれているらしい言葉とそのツンデレっぷりに心揺さぶられつつも、食事が終わるまで俺は聞こえなかった振りを押し通しました。

 結構ドキドキしてしまったのは、ここだけの話。


 そんなこんなあって、俺は自室に戻り、こうして日記を書いているワケだが、結局どっちつかずの現状。

 

 ドラゴンでいることの方が安牌なのに変わりはないが、皆の意見を思い返すと、このままディノと精神を共有しているのもいかがなものかと考えてしまう。

 爺さんやフィオさんの言うように俺は俺として、ディノはディノとして生きていく方が正しいのかもしれない。

 俺は俺の人生を、ディノはディノの竜生を生きる。

 俺だって失敗成功挫折恋愛(重要)その他諸々、色んな人生経験してみたいし、元の世界が恋しくない、と言ったらそれも嘘になる。


 ディノだってまだ生まれて四か月弱なのだ。

 これからさらに成長して、俺のマナに頼らずとも強くなれるし、雌との出会いとか色々あるだろう。

 それによくよく考えたらディノはオリジン種なのだから、引く手数多の優良物件。

 こんなこと言うのもアレだが、成竜になれば良い種竜として、ハーレムできるポテンシャルを持っている。凡人の俺とは違ってな(白目)。


 今でこそ特に不満も無さそうだが、これから成長していくにつれて、ディノの頭の中に俺なんかがいたら、邪魔になること請け合いだろう。

 …俺も気まずいし。(ここ重要)



 …しかし、アメルの言うことも最もだ。

 ドラゴンの美学に関してはよく分からんが、この最強の力を手放すのは国にとって、というか何よりも俺自身にとって、大きな損失になるかもしれない。

 それにちゃんと人間に戻れなかった場合に起こり得る、最悪なパターンも考えなくてはならない。

 マスタードラゴンからは「死」の単語は聞かなかったけど、アメルの口から漏れた言葉が頭をかすめる。



 …うーん、考え過ぎて煙出そう。





 ちょっと頭冷やしに夜空の散歩でも行ってきますかね。

 今夜は星も綺麗だし、散歩にはうってつけだろ。




107日目




 部屋の中で悶々とするのに疲れたので、気分転換に今日は外出した。


 外出先は魔物の多い郊外の森。

 クラージアさんを始め、竜の巣の護衛や、以前俺が保護したドラゴン協会の残党ドラゴン達が働いているところ。


 というのも、現在アースウェルドでは軍の機能がほぼ停止しているので、以前は軍が行っていた魔物討伐を、できる限り竜の巣が受け持っているらしい。

 しかし、十数頭のドラゴンと護衛だけでできる魔物討伐の数は、たかが知れている。


 アースウェルド各地に散らばる村々で魔物の被害が増えている、とのことなので、俺たちは運動がてら、魔物討伐に協力したのだ。

 

 クラージアさんの一隊に加勢したり、村を襲撃中の魔物たちを沈めたり、森の中の巣を潰したり、etc。

 クラージアさん達からは休んでいるように言われたが、良い運動になるから、と言って押し通した。


 そんなこんなで結局、一日中魔物を倒し続けました。


 ディノとも上手く連携とれたし、久々に労働したって感じで楽しかったな。

 まあ、少し魔物を処理し過ぎた感はあるけど。

 生態系のサイクルが乱れる心配もあるが、今はただでさえ魔物が蔓延って色々と大変な状態。

 逆に良い間引きになったと考えよう。

 頭もリフレッシュできたし。



 しかし、そんな楽しい討伐から帰り、自室で一息ついていると、またもやマスタードラゴンが降臨。

 しかも今度は、砂トイレで用を足しているときに現れるというタイミングの悪さ。

 どこまでTPOをわきまえないドラゴンかと。


 美幼女に排泄をじっと見つめられるという謎のプレイの後、どうするのか決めたのか、と聞かれたので、まだ決まってないと答えると、呆れられた。


 俺としちゃ一世一代の選択なのだが、マスタードラゴンからすれば、別にどっちでも良いらしく、「明後日の夜半には決めておけ」とにべもない台詞。

 明後日、また来るみたいだが、ホント、デリカシーの欠片も無いドラゴンだこと。


 というか、マスタードラゴンが来たついでに前から気になっていたことも聞いてみた。

 それというのも、仮に俺が人間に戻るとして、寝たきりになったらこの日記を書くことができなくなるのでは、という疑問。


 一週間何も書かないと死ぬ、という縛りがある以上、人間に戻っても日記を書けずに一週間が経ち、結局詰む(死ぬ)のでは?

 とマスタードラゴンに聞いたら、今度は大声で笑われた。


 お前、まだそんな制約を信じていたのか、と。

 マスタードラゴン曰く、元からこの日記にそんな力は無く、俺とディノの動向をチェックするための日記でしかなかったらしい。

 一週間云々、の下りは俺に日記を書かせるための嘘だったというワケ。


 …うん、想定の範囲内。

 確かに想定の範囲内だったが、正直、俺はマスタードラゴンから大笑いされて心中穏やかではなかったね。

 いやだって、人智を越えた存在に、一週間何も書かないでいると死ぬ、と言われて全く信じない方がおかしいだろ。常識的に考えて。


 大笑いするマスタードラゴンの奴に、一発殴ってやりたかったが、美幼女に手を挙げられるほど、俺は鬼畜じゃない。

 そう、美幼女の中身が無神経な老害ババアであろうともな!

 

 





 

 そういえば明日、首都へ政務しに行っていたジルさんが一時的に竜の巣へ帰ってくるらしい。

 何か食堂でアメルがはしゃいでた。

 相変わらずおじいちゃん好き過ぎか。




 明日、ジルさんにも相談してみるかな。

 期限はあと二日だが、焦っても仕方ない。


 じっくり考えて、どうするか決めよう。

 てことで、今日はもう寝ます。





来週、残りの二話を投稿して日記の第一部(仮)を〆ます。

投稿を始めて約半年という短い間でしたが、ここまでお付き合いいただき、ありがとうございました。

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ