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100日目~102日目

100日目








 あたまのこえ




 きこえなく なった




 でも からだ やばい

 

 ち ながしすぎた か




 おきたら アメルがいた


 たくさん ドラゴンもいて なにがなんだか



 わからないけど とにかく ねむい

 ねたら しぬ かも ?




 アメルは ねむれ という


 …まあ いいか それでも








 おやすみ






102日目



 








 夢を見た。





 長いこと、あんな良い夢を見てなかった。






 俺は爺さんの小屋にいて、まだ小さいディノがいて。

 いつものように農作業に励んで、爺さんに叱られて。

 フィオさんの料理をディノと取り合って、フィオさんに笑われて。



 気づけば、竜の巣の門前で仁王立ちするアメルが

 次こそはあんたに負けない!などと言って、ドラゴンレースをしかけてくる。

 

 それでも、アメルは俺たちに勝てずに、地団駄を踏むのだ。


 そうかと思えば、竜の巣の談話室。

 ヘッドウィグの同好会のメンバーと授業の愚痴を言ったり、対局したり。

 アメルはやっぱり俺には勝てず、泣きそうになっていて。


 気まぐれで俺がアメルに勝たせてやると、真顔になって

 手を抜かないでくれる?、と凄んでくる。


 それを皆から笑われて、つられて俺も笑って、アメルだけふくれっ面。


 そんな、絵に描いたような、平和な日常。

 満ち足りた生活が、夢の中では続いていて。



 その全てが終わった後、俺は夜空の下、自室のベランダに立っていた。


 傍らに座るディノの背を撫でながら、頬をつく夜風が気持ち良く、

 このまま、ディノに乗ってどこかへ行ってしまおう――そう思った。


 しかし、いざ乗ろうとすると、ディノは身体をよじって、嫌がった。


――どうして?


 尋ねても、ディノは答えずにいるので、俺はふと思いつく。

 

 鞍だ。

 いつも、ディノの背に乗せていた鞍が無い。

 教官から貰って、それを使って以来、ディノはあれを背に乗せないと、ぐずるようになってしまったのだ。


 鞍を探さないと。

 思い立って、俺は部屋の中を探すが、見つからない。

 

――あの鞍、どこに置いたっけ?


 そこで俺は昔を反芻し、ディノの背から鞍を外した日を思いだした。


 あれは確か、何か、とてつもなく邪魔な組織を倒すために、完全体になって、ベランダから飛び発った日だ。


――完全体

 

 その単語が浮かんだ瞬間、頭の中に、これまでの記憶がまるで洪水のように流れ込んできた。


 ドラゴン協会を倒したかと思えば、竜の巣が壊され、アメルたちを見つけたと思えば、マスタードラゴンからとんでもない事実を聞かされ。

 やっとこさアンガスを倒した後は、洞窟の中で苦行のような“種の浸食”に耐えたこと。

 そして、危うくアメルを食い殺そうになったこと――。


 膨大な情報に襲われ、頭に鈍痛が響いた。

 痛みが引いた後、ふと顔を上げると、何故かアメルが目の前に立っていた。

 仏頂面のその手にはディノの鞍。


 そして、俺に向かって鞍を突き出しながら、言い放った。


 起きなさい!もう一回勝負よ!





 そこで、俺は目が覚めた。

 洞窟の中、というより、俺が暴れたせいでもはや瓦礫の山になってしまったところの上で、俺はねそべっていた。ディノの鞍を抱えながら。


 訳も分からず、周りを見回すと、何体ものドラゴンが俺を取り囲み、その中にバトラーの懐で眠るアメルの姿を見つけた。しかも、少し離れたところに何故か、久方ぶりに見るオタクの姿もあったという。

 二人は見るからに疲れ切っていて。

 何事かと俺は口を開きかけたのだが、突然、頭の中に響いた妖艶な声に制された。


 声の主は、マスタードラゴン。

 いつの間にか、銀髪幼女の姿で俺の脇に立っていた。

 で、悪びれもせず、「おはよう、カミスリュウ」などと言ってくる始末。

 

 驚きやら、苛立ちやら、様々な感情が渦巻いて言葉を発せられないでいる俺に対して、マスタードラゴンはいつもの一方的な押し売り口調で、俺に事の顛末を話してくれた。

 

 

 どうやら、俺は種の浸食に耐えたらしい。

 ディノの中に巣食っていた逆鱗の枝根はきれいさっぱりなくなり、世界滅亡の危機は免れたそうな。

 本当に感謝している、とマスタードラゴンに頭を下げられ、少し面食らいながらも、俺はやれやれと肩を落とした。調子の良いドラゴンだと、心の底で思いつつ。


 しかし、浸食が終わった後、ディノの身体はボロボロで、俺の意識は生死の境をさ迷ったらしい。

 俺が死ねば肉体も死に、ディノと一緒にお陀仏だったらしいが、それを救ってくれたのはアメルの連れてきたドラゴン達だった、というのだ。

 

 最初、アメルの連れてきたドラゴンがどこのドラゴンなのか、分からなかった。

 マスタードラゴンから、そのドラゴン達がかつて、俺が竜の巣のドラゴン厩舎で自分のマナを振りまいたドラゴンだ、と言われるまでは。

 ギブソンが竜の巣までやってきて、ドラゴンを連れ去ろうとした、懐かしい事件。

 あの時は厩舎のドラゴンの全員に鋼鉄魔法をかけて、事なきを得た。

 その後、ドラゴン達が俺のマナのせいで巨大化したり、強くなったり、という話を聞いた気がするが。

 

 そんなドラゴン達がどのようにして、俺を救ってくれたのか、というと。

 何と、俺がドラゴン達にマナを分けたように、ドラゴン達が俺にマナを分けてくれたというのだ。

 正確には、俺がドラゴンたちに分けていたマナを俺に返してくれた、らしい。


 逆鱗との精神バトル中に、俺が蓄えていたマナは大分逆鱗に持っていかれ、浸食が終わった後には、すっからかん状態。

 本来なら、俺とディノの完全体スペックなら、マナで自己修復できるのだが、それも叶わず。

 そんな時に、アメルとドラゴン達が凱旋したのだ。


 マスタードラゴンによると、アメルはこの前、俺がバトラーに意識を引き戻されたのを知って、俺がかつてマナで干渉したドラゴンを傍に置くことで、浸食に対して何か良い影響を与えるのではないか、と考えたそうな。

 そして、俺がマナを振りかけた厩舎のドラゴン達、今ではオタクの実家で匿っているというドラゴン達を引き連れ、ここまで戻ってきてくれたらしい。

 全部アメルの独断で、話だけ聞くと、アメルに振り回されたオタクに同情してしまう。


 しかし、アメルの選択は結果として大成功。俺たちのピンチを救うことになる。

 ボロボロになった俺の傍にドラゴン達を寄せると、吸い寄せられるように、俺の中にマナが戻っていったのだ。

 その甲斐あって、俺の身体は徐々にだが回復し、意識を取り戻すまでに至った。

 マスタードラゴンによれば、逆鱗の種が萌芽する以前、俺がカースエネルギーを転嫁したマナは、ドラゴンへの愛情、言い換えればディノへの愛情そのものらしい。

 本来、俺のマナは他所へ分け与えることしかできないが、愛の力()が奇跡を起こし、他のドラゴンに分けたマナが、俺たちを救うべく、身体に戻ってきたという。


 書いていてまたアレだが、メルヘンチック過ぎて草。

 しかし、そんな話をしているマスタードラゴンの顔が今、思いだしても胡散臭い。

 まるで、こうなることを予測していたような、そんな表情。

 嘘つけ、たまたまだろ、と言いたくなるが、もしかしたら予測していたのか、とも思えてくる。

 …ホント、マスタードラゴン、苦手だわ。


 ともあれ、事情を説明し終えると、マスタードラゴンは、また来るぞ、と言って消えてしまった。

 もう来なくて良いと思いつつ、それから俺は、ぼんやりとアメルたちの起床を待った。


 

 で、アメルたちが起きてからは、騒がしいのなんの。

 俺がアメルオタクに詫びと礼を言っている最中、アメルはどこからかヘッドウィグ盤を出してきて、勝負勝負とうるさいし、オタクは生まれたばかりのマリアンヌをやたら自慢してくるし、ドラゴン達も喚き散らすで、もうカオス状態。

 俺の身体、というか、ディノの身体は十分回復していないので、起き上がることはもとより、ヘッドウィグの駒を持つことすらままならない。

 ので、ヘッドウィグの勝負はまた今度ということで、アメルには引きさがってもらった。

 

 そんなこんなで不満げだったアメルと俺は、マリアンヌの自慢話でうるさいオタクを黙らせ、今後のことを話した。


 取りあえず、今ディノの身体がマナ不足で衰弱していることを伝え、マナを補填するために、かつてマナを分け与えたドラゴンとできるだけ多く接触したい旨を二人に伝えた。

 アメルが連れてきてくれたドラゴンのおかげで、最低限、身体は回復したが、今のままでは何もできないトカゲに等しい。

 以前のように動き回るには、絶対的にマナが足りないのだ。

 じっとしていれば自然回復するのかもしれないが、未だに食欲もないし、力も出ない。

 そんな予断を許さない状況なので、マスタードラゴンも、できれば同胞たちからマナを返してもらった方が良い、と言っていた。


 で、どのようにドラゴンたちと接触するか、という段になって、色々悩んだ。

 今まで俺がマナを分けたドラゴンを思い返すと、竜の巣の厩舎ドラゴンに加え、北の国フィラルドのドラゴンや東の国シュナ、西のヘキサルと、古今東西に及んでいる。


 アメルたちが各地に赴いて、それぞれドラゴンを連れてきてもらうか、あるいは動けずにいる俺の巨体を運んでもらって、各地に赴くか――。


 その二つが考え付いたものの、いずれにしろかなり時間がかかりそうな案だった。

 あまり時間はかけたくない、と思いつつ、アメルとオタクと共に考えあぐねている最中。

 突然、ドラゴン達がうるさく威嚇し始めたのだ。

 そして完璧といって良いぐらいのタイミングで、南の空から雪のように白いドラゴンの一団が飛んできた。

 

 アメルはすぐさまバトラーに跳び乗って臨戦態勢に入ったのだが、そのドラゴンの一団の先頭に見慣れた女性の顔――リーザさんの顔が見えたことで、その一団がフィラルドのドラゴンだと分かった。

 

 一団が到着するや、リーザさんは顔をほころばせて、旧友との再会を喜んだ。アメルやオタクは唖然としつつ、俺はディノにくびったけのフェアルを顔面で受け止めつつ。

 一緒に連れだって来たフィラルドのドラグナーたちは、というと、自分のドラゴンを連れて、俺のもとへ近寄ってきた。

 そして、ドラゴンたちが不思議な光を放ったかと思うと、その光は次々に俺の胸元に流れ込んできたのだ。

 とてつもない安堵感と温もりを孕んだそれは、かつて俺が分け与えたマナであると直感した。

 聞いた話によると、バトラー達も同じように、俺に向けて淡い光を放出したそうな。


 それから身体が少し軽くなったような気がして、顔に取りついて離れないフェアルを鬱陶しく思いつつも、そのフィラルドからやってきた奇妙な一行に事情を聞いた。


 すると、フィラルドのドラグナーたちは数日前から、自分たちのドラゴンが落ち着かなくなり、つい二日前にマスタードラゴンからお告げを聞いたというのだ。


 今すぐにドラゴンたちを連れ、彼らの導くまま、最果ての地ガゼルへと向かい、ドラゴンたちを我が使者の前に差し出し、死の淵から救いだせ、と。


 そしてフィラルドのドラグナーたちはお告げの通り、ドラゴン達の向かう方向へ手綱をとり、ここガゼルへ足を運んだ、という訳だ。


 リーザさんも似たようなお告げを聞いて、ドラグナー達と同行したのだとか。

 他国のドラグナー達もマスタードラゴンのお告げを聞き、ここに向かっている、という情報も彼らから聞くことができた。


 話を聞いて、まず思ったのが、マスタードラゴンのヤツもやっと働いたか、ということ。

 …まあ、今まで逆鱗に関して俺に丸投げだった気がするのも、気がするだけで、裏ではマスタードラゴンも色々奮闘していたのかもしれないがね。

 それでも、やっと目に見えてマスタードラゴンの支援を受けた希ガス。


 ともあれ、フィラルドのドラグナーたちは俺が少しでも回復したことを喜んでくれて、ついでに、フィラルドでルガドを撃退したことの礼も言ってくれた。

 何でも、石化させたルガドの像は記念碑として街の中に立っているらしい。

 しかし、石化で封じ込めているとはいえ、ルガドの中に黒水晶が残っていることを思い出し、内心、俺は焦った。

 後で壊すか何かしないと将来に禍根を残すこと、請け合いだ。

 ガゼルに来る途中で壊しとくべきだったか、と今更ながら後悔。

 しかし、マスタードラゴンはルガドについて何も言っていなかったので、あの像は放っておいても大丈夫なのか?

 …いや、マスタードラゴンのことだ、忘れている可能性も微レ存。というか、かなりあり得る。


 なので、ドラグナーたちには一応、下手に像を刺激せず、国同士相談して像の処置を考えた方が良いと伝えておいた。

 ドラグナーたちも皆、俺の言葉にひざまずいて了承してくれたが、いい加減「マスタードラゴンの使者」として接されるのが、鬱陶しくなってきた。

 といっても、アースウェルド王室にも俺がマスタードラゴンの使者だと公言してしまった手前、もはや手遅れかも分からんね。


 その後、フィラルドのドラグナー達はドラゴンに乗って故国へ飛び発ち、リーザさんとオタクは竜の巣のドラゴン達を連れて、竜の巣まで帰ることになった。

 ドラゴン達からはすでにマナを返してもらっているし、ここら辺は粗末なイエティしかいないため、十分な餌を確保できない以上、ドラゴンたちを留めておくメリットはない。

 ドラゴン達はオタク一人では手に余る数だったが、リーザさんが同行して連れていってくれることになった。

 

 で、残るアメルは、というと、ありがたく(?)も、俺の護衛を買って出てくれた。

 分けたマナを返しに各国からドラゴンがやってくる間、弱っている俺が変な魔物に狙われないように、と意気揚々と護衛に名乗り出たのだ。


 しかし、その眼は完全にドラゴン狂のそれで、各国からやってくるドラゴンを見てみたいという欲望に満ち溢れていた。

 フィラルドのドラゴンを見たときも目をキラキラさせていたし、完全にスイッチが入ったと思われ。

 東の龍たちを見たら、感動のあまり、犬よろしく失禁しそう。

 …まあでも、アメルがいてくれた方が心寂しくないので、理由はどうあれ、一緒にいてくれるのはありがたい。


 で、別に頼んでもいないのだが、さっきまで愛竜のバトラーとメリーとともに、周囲を巡回してくれていた。

 しかし、連日の長旅で疲れていたのか、日が落ちたらすぐに寝てしまった。

 しかも、何も言わず勝手に俺の懐に潜り込んでくる、という厚顔っぷり。

 護衛する者の懐で、すやすやと寝息をたてて眠る護衛とは一体。


 …まあ、ここら辺はかなり寒いし、雨風を凌ぐ洞窟もなくなってしまった。

 さらに、今夜は雪も降ってくるというフルコースだ。

 俺の身体はその気になればバトラーもメリーもすっぽり覆える位の巨躯なので、簡易テントにはもってこいなのだろう。

 しかし、もう一度書くが、「護衛」とは一体。

 


 そういえば、ディノの鞍。

 これは一度アメルが竜の巣に戻ったとき、フィオさんから預かったものらしい。

 俺がディノのことを思いだすと少し楽になる、と聞いて思い入れのあるこの鞍をアメルに渡したのだろう。

 で、この鞍なんだが、傍に置いとくだけで、心なしかとても安らぐ。ディノがこの鞍を好いていたことも、今ならなんとなく分かる。


 マスタードラゴン曰く、俺の中にはまだディノの意識が眠っているらしい。

 マナが回復してくれば、いずれ意識も戻るだろう、とのこと。

 それまでこの鞍を傍らに、ゆっくり体を休めることにしますかね。



 久々のちゃんとした日記で筆が乗ったな。

 先日までの地獄が嘘みたいだ。

 生きているって素晴らしい。世界って素晴らしい(白目)。

 雪が降り続けるだけの、何もない荒野でそんなことを考える今日この頃。


 それでも背中に降り積もる雪の冷気と、懐の暖気が心地よい。

 他に何も要らない、というくらいに、今は満ち足りている。

 全てが乾き、何も残らない、とされる最果ての地で、こんな気持ちになるとは、夢にも思わなんだ。



 …無駄に感傷的になってきたので、そろそろ寝ますか。

 夢に怯えず、眠れることの素晴らしさよ。



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