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80日目~81日目

80日目



 爺さんたちが起きるのを待っていたら、クラージアさん率いる、“竜の巣”護衛部隊と遭遇。

 護衛さんたちは竜の巣が襲われて以来、協会の奴らに捕われていたらしいが、ドラゴン協会が壊滅したのを機に解放され、ジルさんたちを捜索しに来たのだとか。

 最初は当然、俺たちに斬りかかってきたが、一旦静かにさせ(物理的に)、クラージアさんに事情を説明すると、渋々ながらも納得してくれた。

 ヘドウィグの話をしたら納得せざるを得なかった様子。

 クラージアさんの独特な打ち筋や悩んだときに鼻の頭を触る癖とか、一部の人間しか知らない情報など。

 周囲の護衛たちは野太い声でヘドウィグについて語る巨竜を、さぞ不思議に思ったことだろう。


 で、その後、クラージアさんにジルさんたちを診てもらった。

 やはり過剰な魔力の消費によって、意識が戻らない状態らしい。

 回復魔法をかけても、少なくともあと2、3日は目覚めないと言われた時にはがっくしきた。

 

 アメルたちの行方、もとい俺の身体探しは難航不可避。

 と、諦めかけたとき。


 護衛たちが連れている黄金のドラゴンの姿が目に入った。

 アメルが授業に連れてきていた黄金のドラゴン。

 

 そして、クラージアさんから聞かされた朗報に俺氏、歓喜。

 何と、クラージアさんたちは黄金ドラゴン(名前をメリーというらしい)が探知するアメルの魔力を頼りにジルさんたちの行方を追っていたというのだ。

 基本的に、ドラグナーのドラゴンは主の魔力を追うことができるらしい。隷属魔法に詳しくないからよく知らんけど。

 何はともあれ、それを知って、早速俺はクラージアさんにメリーを貸してくれるように頼んだ。

 俺がアメルたち(+俺の身体)を探して保護、クラージアさん達はジルさんたち(+協会のドラゴン)を連れて竜の巣まで戻る、という分業を提案したワケだ。

 クラージアさんは了承してくれて、俺たちはメリーを担ぎ上げ、メリーの思念を共有し、アメルの魔力が感じられる方向へ全速力で飛んだ。

 が、その向かった方角は北。

 妙な水晶を飲みこんだルガドが飛んで行った方角が北だったので嫌な予感がした。


 で、その予感は的中。

 俺たちが到着した街は見るも無残に壊滅。

 瓦礫と死体の山は、凶悪なドラゴンが暴れた爪痕を残していた。強大な爆発の跡がそこかしこに残っており、ルガドの仕業だと一目で分かった。

 恐らくだが、あの街が亡命の受け入れ先の街だったのだろう。

 後の祭りだが、あの時ばかりは凄惨な死体の海を目の当たりにして、ルガドを追って始末しておけばよかった、と後悔。


 で、メリーの思念を辿るとその街の付近でアメルの魔力が一瞬現れ、また消えたらしい。

 その後、消息は途絶えているのだとか。

 メリーの隷属魔法が解けていないことから、アメルが死んでいないことは確かだが、バトラーの透明魔法は魔力すら隠してしまうため、アメルの追跡はそれ以上、不可能となってしまい、探索はまた振り出しへ。


 しかし、アメルを探して街の周辺を飛び回るメリーの姿は正直、見ていていたたまれなかったな。

 ご主人を探して、鳴き声を上げる仔犬、みたいな感じ。隷属魔法の管理下にあるといえど、アメルとドラゴンの絆は深いのだろう。

 人間視点の時は、バカでかく感じた黄金竜も、完全体視点じゃ小脇に抱えられるほどの大きさなので、どこか愛らしく感じられるし。


 そして、そんな主思いのメリーのため、俺が考え出したアメル捜索作戦。それは。


「フォンシード・アメル・ジラルディに告ぐ!

貴様の大事なメリーを八つ裂きにされたくなくば、一刻も早く姿を現せ!」


 という、ドスの利いた声を挙げながら、メリーを抱えて飛び回るという、およそ感心できない行動。

 完全に、禍々しい姿をした悪者ドラゴンがいたいけな金色の雌ドラゴンを虐めている絵図だ。

 しかし、こんな行動に移したのにもわけがある。

 つまり俺たちが今、こんな見た目である以上、アメルたちをあぶり出すために、どんな美麗字句を並べたところで、逃げ隠れているアメルたちに信頼を与えることは難しい。

 ならば、と開き直って考えた作戦が人質、ならぬ竜質作戦である。

 義に厚く、向こう見ずなアメルの性質を考えれば、自分のドラゴンが竜質に捕われ、命の危険に瀕していると知れば、突っ込んでくること間違いなし。

 …まあ、別に脅迫めいた台詞を言わんでも、アメルだったら自分のドラゴンを取り戻しに突っ込んでくると思うけど、一応ね。

 短絡的すぎるかもしれないが、これが俺の考え得る最善の作戦。

 ま、一番楽な作戦、といった方が正しいが。


 というワケで、今日はゲスな声をあげながら、北の方角に向かって飛び回っていた。

 結局、アメルは現れなかったが、いずれ出てきてくれるだろう、という楽観的展望。

 それに、アメルたちだって一生透明になっているわけでもあるまい。

 いずれ、どこかで透明魔法を解除した時、メリーの魔力探知を辿って、全力で追えばよし。それまでは竜質作戦で地道にあぶり出しを続ければよし。


 そんなこんな、今は洞窟でメリーを休ませている間、日記を書いている。

 とりあえず、このままアメルを探しながら北の方へ行ってルガドを見つけ次第、処分しようというのが目下の予定。

 ルガドのヤツ、あちこちの街で被害を出している様子。

 元凶はもちろん、協会の奴らだが、間接的にしろ、俺がルガドを暴走させたのに一役買っているのも事実。

 まあ、何となく胸糞悪いのでルガドを処理したいっていうのが本音。

 

 俺としちゃ変な感じだが、途中見かけた街の惨状を見て、何故か苛立ちが収まらない。

 無意識に責任を感じているからか?

 よく分からん。


81日目



 アメルたちを見つけられないまま、暴走するルガドを発見。

 北の国(確か、国名はフィラルド)は大体飛び回ったので、アメルたちはおそらく東か西の方向に逃げたのだろう。

 もしくは、Uターンして、アースウェルドに戻ったか。


 ともあれ、ルガドとの一戦は中々面倒くさい展開に。

 ルガドはフィラルドの首都っぽい街の上空で、何体かのドラゴン&ドラグナーたちと相対していた。

 フィラルドの街はどこも頑丈なカマクラ型の建物が並んでいるが、首都っぽい街では、さらに街全体が丈夫そうなドーム状の障壁魔法で覆われていた。

 そして、その障壁魔法のおかげか、街は上空で繰り広げられているドラゴンバトルの飛び火に何とか耐えていたが、ドラゴンたちやドラグナーたちの方はボロボロ。


 おそらく、北国フィラルドが擁するドラゴンやドラグナーたちなのだろうが、完全に劣勢だった。

 北の雪国らしく、ドラゴンたちは氷結吐息アイスブレスでルガドに迎え撃っていたが、ルガドの強力な爆撃に押される展開に。

 俺はとりあえず、アイスドラゴンたちにディストリビューション(強化版)して、アイスドラゴンたちの戦力を強化。

 正直、戦力を強化、というより、たまたま俺の攻撃が当たってしまっても、千切れない程度の防御力を与えるため、というのが目的。


 ともあれ、俺たちはマナを分け終えると、即座に戦闘の渦中に突撃。

 そして、暴れるルガドを捕え、速攻八つ裂きに。


 時間的には5秒に満たなかったと思う。

 俺たちの爪牙はどこかの爺さんが従えている何とかゴルフィーでも無ければ、何物をも切り裂く刃だ。強化されたルガドも例外ではない。

 そしてそのまま、周囲のアイスドラゴンやドラグナーたちから当惑した視線を向けられながら、俺たちは勝利を確信。

 したのだが、ルガドのヤツ、予想以上に、半端じゃない力を備えていた。

 

 何と、八つ裂きにした後、信じられない回復力で身体を修復し、また平然と襲い掛かってきたのだ。

 アンガスが飲ませた水晶のせいだろうが、ルガドは何やら黒いマナを纏い、俺たちが何度、致命傷を与えようとも、そのマナのせいで何度でも身体を修復してくるゾンビ状態になっていた。

 ただし、一度に纏えるマナの量は上限があるらしく、俺たちには歯が立たない程度に弱かったのが救い。

 しかし、それでも普通のオリジン種ドラゴンをはるかに凌ぐ力量で何度もかかってくるとさすがに面倒。

 さらに、八つ裂きにするたびに少しずつマナの量が増えていく気がして、直感的にヤバいと感じたワケ。

 そんなこんなで、俺が移した行動。


 即ち、マナをたっぷりと注ぎ込んだ鋼鉄魔法をルガドに喰らわせてやったのだ。

 それも、簡単な魔力吸収魔法ドレインを組み込み、ルガドが無限に放出するマナを、そのまま鋼鉄魔法を維持する魔力に転嫁する合成魔法。

 

 やっつけで放った魔法は上手く機能し、ルガドを巨大なドラゴンの石像に変えることに成功。

 これでルガドは自らマナを生産し続けるせいで、未来永劫、石像のままでいることだろう。

 無限ループって怖くね?


 まあ、その後ルガドの石像が、街を覆っていた障壁を突き破って街中に落ちてしまった件はやらかしたけど。

 すでに人々の大多数は城の中?に避難していたようで人災は出なかったっぽいが、北国の皆さん、すんません。損害賠償は俺特製の石像で勘弁して下さい。

 

 そんなこんなで、警戒するアイスドラゴンたちに、自分には敵意が無いことを伝える念波を飛ばし、俺たちのことを敵か味方か判断しかねているドラグナーを後目に、俺はその場を立ち去ろうとした。

 

 が、しかし。

 翼を広げた瞬間、どこからともなく現れ出た、フェアルドラゴンが俺たちの眉間にくっつき、顔を摺り寄せてきたのだ。


 我の姿を見て、怯えずに近づくとは、中々度胸があるチビ助よ。

 などと思いつつ、透明な羽とくりんとした瞳を見ながら、何となく見たことあるドラゴンダナーとか思っていたら、聞いたことのある声が「フェアル!」と叫んで、ハッとした。

 眼下を見下ろすと、何とリーザさんの姿。

 見慣れない民族衣装を優美に着こなし、自分のドラゴン、もといフェアルを見上げていた。


 どういうわけか、リーザさんとそのドラゴン、フェアルが北国フィラルドに居たのだ。

 何かの本でフィラルドの民は東洋系に近い、のっぺりとした顔立ちをしている、という話を聞いたことがある。

 アースウェルドじゃ珍しい東洋系のリーザさん。

 協会勢力が強まり、竜の巣が無くなるのであれば、近々亡命するかもしれない、というリーザさんの話も思い出し、そこらへんの因果が関係しているのだろうと勝手に推測。

 

 これ、すなわち、フェアルとディノの恋仲(一方的な)から導かれた、リーザさんと俺との運命的な出会い。

 もちろん、リーザさんは気づいていなかっただろうが。

 

 で、俺たちはとりあえず、ディノにベタ惚れのフェアルを顔から引きはがし、怯えているリーザさんに丁重に渡した。

 それから、俺は何を思ったか、気の利いた台詞()を付け加えて、その場を後にしたのだ。

 テンパっていたので、よく覚えていないが「自分のドラゴンは大事にしなさい」的な、今、思い出しても顔から火を噴きそうな台詞を吐いた気がする。馬鹿なの?死ぬの?


 …この記憶は俺の思い出から削除デリートしよう。そうしよう。

 リーザさんとフェアルに幸あらんことを。


 というか、ホント、アメルたちどこ。

 早く元の姿に戻って、全てを忘れて平穏に暮らしていきたいです(切実)。



 どうでもいいけど、最近何か調子が変。

 いや、別に調子が悪いとかじゃなくて、むしろ完全体になってからどんどん調子が良くなっている気もするんだが、何かこう、胸騒ぎがする。

 表現しがたいが、感情の昂ぶりを感じる。


 …うん。

 やっぱ、長いこと、慣れない体でいるもんじゃないな。

 明日は一旦、アースウェルドに戻って、竜質作戦を続けてみようと思う。

 アメルたち、アースウェルドに帰っているかも分からんしね。




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