79日目
79日目
色々あって疲れた。
しかし、未だに俺の身体が見つからないとはこれいかに。
経過を書いておくと、まず、協会連中と交戦中のジルさんを発見した。
協会連中は兵器ドラゴンやオリジン種ドラゴンをわらわらと連れて、ジルさんを追い詰めていた。
ジルさんは傷だらけのティアマトで応戦していたが、さすがに防戦一方。
俺たちがジルさんを見つけたのは、ちょうどティアマトとともに吹っ飛ばされ、もはやこれまでか、という瀬戸際だった。
その後、気絶して倒れていたジルさんに向けて放たれた、ドラゴンたちのブレスを、颯爽と現れた俺たちが受け止める、という漫画のような展開に。
案の定、協会連中は呆けて俺たちを見た。
黒い煤の研究所に乗り込んだときと同じような、驚愕と恐怖の入り混じった視線。
間髪入れず、俺は自らを“竜の逆鱗”だと名乗り、人類に制裁を加えに来た云々、練習しておいたキメ台詞()を言い放った。
協会連中は最初、震え上がっていたが、協会を率いていたデブ(たぶん、協会の頭のアンガス)が「世迷い事に耳を貸すな!こやつは我らに仇なす悪の権化である!」と周囲に喝を入れたので、協会連中はドラゴンたちをけしかけて、次々に襲い掛かってきた。
さすが、協会の頭。肝が据わっている、と思ったのもつかの間、襲い掛かってきた兵器ドラゴンたちを、両翼の一薙ぎで一蹴した。
その他、オリジン種ドラゴンたちは研究所で見かけた魔道具で武装しており、凶暴性とマナの量が増し増しだった。
禍々しい模様をした兜や世紀末を感じさせる鎧に身を包んで、元が何のドラゴンだったか分からない状態。
魔道具の副作用なのかもしれないが、ドラゴンたちが涎やら嘔吐物やらをまき散らして、苦しんでいる様は目も当てられなかった。
で、俺たちはまず、先頭の二又の頭を持ったドラゴンを肘打ちで沈め、両サイドから襲い掛かってきたタンクのようなドラゴンを死なない程度にブレスで焼いた。
その直後、土の中から触手が伸びてきて俺たちの足をとらえると、頭上を飛んでいたドラゴンから雷のブレスが降り注いだ。
ドラゴンたちのマナが強化されていたせいか、首のあたりが少しピリピリして、黒い煤の奴らの魔法攻撃よりかは効いたが、その程度。
俺たちは尻尾を土中に突っ込んで、モグラのようなドラゴンを引きずり出し、空を飛んでいた雷竜にぶつけ、これもブレスで焼いた。
そんな感じでドラゴンたちを殺さないように細心の注意を払って、戦闘不能状態にしていった。
仮初にも竜の逆鱗を謳っている以上、ドラゴンを殺すわけにはいかなったし。
それから、一通りドラゴンを沈めて、協会の戦力を根こそぎ削いでやった。
しかしその後、アンガスのヤツが最後の悪あがきと言わんばかりに、懐から謎の水晶を取り出し、それを自分のドラゴンに飲み込ませてから、少しヒヤリとさせられた。
アンガスの連れていたドラゴンは“ルガド”というオリジン種ドラゴンで、マナと空気中の水蒸気?を使って、爆発を起こすのが得意な飛竜(だったハズ)。
オリジン種の中でも攻撃的で、機動力も優れるボマードラゴンなのだが、言うまでもなく、完全体の俺たちの敵ではなかった。
しかし、そいつがアンガスの水晶を飲むと、俺でも驚くほどの異常な量のマナを放出し始めたのだ。
咄嗟にヤバいと感じて、俺は障壁魔法を展開。ジルさんとティアマトを包み込んだ。
で、案の定、ルガドは咆哮と共に、とんでもない規模のエクスプロージョンを巻き起こし、周囲一帯を灰の海にしてしまった。
アンガス含め、協会の人間やオリジン種ドラゴンたちさえ無に帰すほどの威力。
俺たちは持ち前の丈夫さで受け切れたが、障壁魔法を展開していなかったら、ジルさん&ティアマトも灰の一部になっていたことだろう。正直、完全体でも少々ダメージを受けたレベル。
で、そんな大爆発を起こした後。
ルガドは俺たちには目もくれず、まるで何かに吸い寄せられるようにこれまた素晴らしいスピードで北?の空へと飛び発っていってしまった。
アンガスの隷属魔法?が解けたせいなのか、やけに開放的な飛びっぷりで。
俺たちはそれを呆然と見送った。
まあ、アンガスがルガドに何を飲ませたのか知らないが、そのせいで自らを破滅に追い込んだ訳だし、世話のない話だ。
俺たちに敵意も無かったみたいだし、飛んで行ったルガドの後を追うこともしなかった。
何よりもまず、爺さんたちの行方や俺の身体が優先だったし。
しかし、今一度思い返してみると、ルガドのマナの量、ハンパ無かった希ガス。後々、脅威にならなければいいけど。
ともあれ、それから俺たちはテレパシーを応用して、ティアマトの記憶を念視。
完全体になってテレパシーの性能も上がっているらしく、ティアマトと簡単なコミュニケーションも取ることができて、軽く驚いた。
そして、爺さんやフィオさん、アメルの行方を探った。それと俺の身体の行方も。
で、分かったことはフィオさんやアメル、爺さんは俺の身体を運びながら、バトラーの透明化の魔法を使って、例のジルさんの友人がいるという亡命先に向かったということ。
一方のジルさんはアメルたちと分かれ、協会の奴らを引きつけたらしい。
爺さんもジルさんと共に戦おうとしたらしいが、孫たちの保護という名目で渋々分かれたそうな。
ギブソンの分隊もアメルたちを追っている、ということまで情報を得ると、ティアマトを回復させてジルさんの保護を任せ、俺たちは爺さんたちが向かった方向へと飛んだ。
その後、ちゃちゃっとギブソンを叩き潰して、俺の身体を取り戻そう、とか思っていたのだが、そうは問屋が卸さなかった。
というか、正直に言うと、俺が少し調子に乗ったせいでややこしい事態に。
というのも、爺さんとギブソンの分隊は苦もなく見つかったのだ。
俺が見つけたときには、すでにアメルとフィオさんを先に逃がした後で、爺さんVSギブソン隊という構図だった。
ちょうど、ジルさんと同じような状況。
で、アンガスのときと同様に、“竜の逆鱗”を演じて協会連中をびびらせようとしたわけだ。
もちろん、ギブソン一行は震え上がり、ギブソンや、前に散々ディノを痛めつけてくれたメギルドもびびりまくりで、俺氏、ドヤ顔。
というような流れだったのだが、その後の爺さんの行動が想定外だった。
“竜の逆鱗”が再来した、という事実を理解するや、爺さん、不思議な呪文を唱え始めて、みるみる自分のドラゴンを変形し始めたのだ。
元々は割と戦闘能力が高い混血種のドラゴンで、爺さんにしては地味な種類のドラゴンダナーとか思っていた。
しかし、ポップクリンに化けさせていたのにも驚いたが、爺さんのドラゴン、さらにもう一段階変身を残していやがった。どこのフ○ーザだよ!
で、爺さんはドラゴンの最終形態をお披露目。
それがまさかの“バ ル バ ド ス ゴ ル フ ィ ー”。
先の大戦では赤い死神ジェルミナが乗りこなしたとされる最凶最悪のドラゴン。
図鑑で見た通り、胴も、手足も、翼も鋭い刃で覆われ、刃の光で妖しく輝くその巨体は禍々しくもあり、息を呑む美しさも兼ね備えていた。
竜の逆鱗と渡り合った、と噂されるのも納得の威圧感。
そんなバルバドスゴルフィーと対峙して、俺が
何でそんなドラゴン連れてんの!?
とツッコむ間もなく、爺さんは血走った目で、「この世界を、フィオを、殺させはせん!」とか言いだして、俺たちに向けてバルバドスゴルフィーをけしかけてきたのだ。
ちょ、まっ、みたいな感じで俺は爺さんにタンマをかけたのだが、問答無用。
一応、口早に俺たちの正体を明かしはしたのだが、爺さんは聞く耳持たずで、あれよあれよという間に始まった戦闘。下手に竜の逆鱗とか演じずにいれば、争わずに済んだものを。
このとき調子に乗ったことを後悔しました。
…ともあれ、バルバドスゴルフィーを相手にしてみての感想。
さすが最凶のドラゴン。
マナで強化された鋭利な刃は、完全体の鱗ですら傷をつける鋭利さを誇り、さらに巨体とは思えない身軽さで縦横無尽に駆ける。舞う。薙ぐ。
加えて、チェーンソーのような鈍い響きとともに吐き出される真空吐息は、触れたもの全てをミンチにするエグい仕様。
殺傷能力MAXな能力の数々は、言うなれば、“死神の業”。
テレパシーでゴルフィーの動きを読めなければ、体中切り傷だらけになっていたことだろう。
というか、動きを読んでいても、ゴルフィーが少し動くだけで体中の刃から真空波が放たれるので、予断の許さない状況が続いたという事実。
最初は、力をセーブしながら、軽く気絶させてやろうとか考えていたが、途中で計画変更。
俺たちは割と本気でゴルフィーを仕留めにいった。
まず、たっぷりとマナをつぎ込んだ障壁魔法を周囲に展開し、ゴルフィーの身体から発せられる真空波を徹底防御。
真空吐息はさすがに危ないので的確に避けつつ、ゴルフィーの懐に接近。
しかし、そのまま肉弾戦でやり合えば、こちらが傷だらけになるだけなので、これまたマナをたっぷりとつぎ込んだ鋼鉄魔法で両腕を強化し、ゴルフィーを抑えつけた。
さらに抑えつけたゴルフィーの肩の間接に爪を刺し込み、そこから失神魔法を流し込む、というフルコース。
その後、至近距離で力をセーブしたブレスを放ち、試合終了に持ち込みたかったのだが、そこはさすがにバルバドスゴルフィー。
こちらの抑え込み&失神魔法に怯むことなく、俺たちの首元に噛みついてきたのだ。
ダメージこそ少なかったものの、噛みつきは強力で、暴れても離れないしつこさ。
しかし、失神魔法が効いていたのか、顎以外の身体には力が無かった。
そうしてとどめのブレスを当てられなくなった状況で、俺たちが移した行動。
すなわち、そのまま空高く飛びあがり、身体を超重量の鋼鉄に変えて、ゴルフィーを下にして地面に激突するという、即席「地球投げ」だ。
あえなくゴルフィーはノックダウン。
ちなみに、激突したときにゴルフィーは体中から嫌な音を立て、致命傷に至るダメージを与えてしまった。
咄嗟にドラゴンヒールでつぶれた内臓を修復して、一命はとりとめたが、爺さんのドラゴンだったし、殺しちゃマズいと内心ヒヤヒヤだった。まあ、上手くいって助かった。
てな感じで、ゴルフィー戦は無事に終わったのだが、正直、ゴルフィーの攻撃を避けながら、
こんな凄いドラゴンを連れているんだったら、最初から隠さずに、こいつを使ってドラゴン協会を潰せよ!爺さん!
と、俺は心の中で叫んでいた。
しかし、戦いの後で、何故爺さんがバルバドスゴルフィーを隠し兵器?にしていたのかが、何となく分かった。
というのも、戦いの後の周囲は見るも無残な荒れ果てた荒野。
まあ、最後の地球投げでちょっとしたクレーターができてしまったのは俺たちのせいとしても、山間の森で、起伏があったハズの大地は平らになり、木々・生物の残骸だけが転がっているという凄惨さ。
バルバドスゴルフィーは動く度に、何ものをも切り裂く衝撃波を放つし、真空吐息は高圧縮したハリケーンそのものだ。
すなわち、敵味方問わず、周囲を壊し、殺し、切り刻む、という殺戮と破壊。
そんな能力を備えるバルバドスゴルフィーとは、まさしく“死神”のドラゴンだった。
こんな山奥であれば、被害は木々や土地の破壊に留まるが、近くに人里や街がある場所で戦ったとすれば、その後の惨状は察するに余りある。
この規格外の強さを懸念して、爺さんはゴルフィーを無害な生物に変身させ、力を抑制させていたのだろう。
俺たちが完全体を隠していたように、バルバドスゴルフィーは本当に奥の奥の手だったのかもしれない。
まあ、なぜ伝説のバルバドスゴルフィーを爺さんが連れていたのか、という謎はまだ残っているんだがね。その点は是非、本人に問い詰めてみたい。
で、当の爺さんだが、あの荒れ狂う戦いの傍らで死なずに生き延びていた。
ジルさんよろしく、体中傷だらけで気絶していたが命には別条が無い様子。
ちゃっかり、強力な魔道具のペンダント?で真空波の攻撃を無効化していたあたり、爺さんのしたたかさがうかがえる。
ちなみに、ギブソンが連れていた協会連中は、バルバドスゴルフィーの真空波に巻き込まれ、死に絶えたようデス。合掌。
しかし、ギブソンとメギルドの姿がなかったのが気になる。
まあ、正直俺たちの敵ではないので、放っておいて構わないだろう。フィオさん&俺の身体の行方が最優先だ。
で、今の状況なのだが、ジルさんと爺さんが目覚めるのを待っている。
ティアマトとバルバドスゴルフィー(気絶させたまま)、それにギブソンの分隊で辛くも生き残ったドラゴンたちとともに、爺さん二人を囲んでいる、という謎な状況。
正直、透明化したバトラーに乗ったアメルたちを探すなんて藁の中から針を探すような作業だ。
それよりも爺さんたちの目覚めを待って、事情を説明し、アメルたちの行先を聞き出してから、アメルたちを追おうと決めたのだ。
今更ながら、ジルさんから亡命先をちゃんと聞いておけばよかったと後悔しているが、こんな追跡劇になるとは思わなかったので、こればかりは致し方ない。
しかし、この爺さんズ、水をかけたり、つついたりしても中々起きない。
俺のマナが人体に乗れば回復できたのだろうが、ドラゴン限定なので自然回復を待つのみ。
酷使した隷属魔法の副作用?なのか、目覚めるまで少しかかりそうなので、暇つぶしに日記を書いている。
ドラゴンの胃袋に収めていても溶けない強度を持つ、この日記の材質は非常に気になるところだが、それはマスタードラゴンのみぞ知る。
あと、協会のドラゴンたちは、協会の連中の隷属魔法が解けた?後、何故か俺につき従っている感じでここを動こうとしない。
どこへでも行け、とテレパシーで命令してはみたのだが、何故かくっついてくる。
あのバルバドスゴルフィーの真空波の嵐を耐えたのだから、それなりに粒揃いのドラゴンのハズ。
野良でも十分に生きていけるだろうが、どういうわけか群れのリーダーとして崇められている感じ。
まあ、何となく邪険にできないのでこのまま竜の巣まで連れていけたらいいナー、なんて考えている。
…というか、アレだな。
念写、楽。
考えるだけで文字も書けるし、消すのも自由。
たまにディノの思考が漏れるのが欠点か。
もっと強えヤツと戦いたい!
とか、どこの戦闘民族だよ。ドラゴンって生物は皆こんななのか?
まあいい。とにかく、爺さんたち、早く起きてくれえええ。
何もしていないとさすがに不安になってくる。
こうしている間にも俺の生身の身体に何か起きているんじゃないか。
フィオさんが盗賊や悪漢に目をつけられて、襲われてやしないだろうか。
アメルは…まあ、あいつのことだし大丈夫だろう。心配するだけ無駄だ。
今はひたすら、アメルとバトラーがしっかりと俺の身体とフィオさんを守ってくれていることを祈るばかり。