表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
2/32

8日目~14日目

8日目



 気がつけば異世界に来てから、もう一週間が過ぎた。

 異世界の野良仕事に馴染みつつある自分に危機感。

 今朝も地面から出てきたドラムワーム(緑色のでかいミミズ)を無意識のうちに潰していたし、うっとおしいニーモ蝶(1メートルぐらいの蝶)も何匹か鍬で切り落とした。

 初めてこいつらを見たときはまともに仕事できるか不安だったが、慣れればただの害虫に等しい。作物に害を与えるだけの生物。

 異世界の生物といえば、今日、川へ野菜を洗いに行ったときゴブリンと遭遇した。

 遭遇時はちょっとした感動があったが、爺さんが魔法でゴブリンを一瞬で粉微塵にしたので、軽いトラウマ。

 後で護身用の魔法を教えてやる、と爺さんは言っていたがあんなエグい魔法は遠慮します。でも、魔法を使えることに今から心浮き立つ俺。

 

 ドラゴンの卵はというと、動く周期がずいぶん短くなった。というより、今では断続的に痙攣している状態。

 爺さんによれば、卵の胎動期に入ったとのこと。

 卵の胚が骨組織の生成と筋肉の収縮を促し、内側の卵殻を滑るように胎動しているのだ、とか生物の授業みたいなこと言っていたが、興味ないので適当に頷いておいた。

 フィオさんはえらく興味津々な様子だったが、あれはドラゴンの興味というより、あんなに熱心に物を語る爺さんに興味津々って感じだったな。

 爺さん、基本的に必要なことしか喋らないしね。

 

9日目



 今日は畑仕事の合間に爺さんから魔法を教わることになった。

 仕事のノルマを速攻で終わらせてテンションMAXで爺さんの指南を受けた。

 

 が、自分の才能の無さに、ただただ絶望。

 爺さんに「マッチ一本の火もつけられない」とまで言われた俺の才能よ。

 しかし、魔力自体は俺の中に内在しているらしく、それも「異常な程の量のマナ(魔力のこと)が溢れている」とこれまた爺さん談。

 この世界の魔法とは、簡単に言えばマナを何らかの媒体に乗せて行使する術であって、常人であれば、手の平や専用の魔法道具などの媒体にマナを乗せれば、どんなに微量なマナでも、熱を帯びたり、物を微動させることが可能らしいが、俺の場合そもそも、マナが媒体に「乗らない」のだとか。

 そんな魔法の大前提をクリアできない俺って一体。

 で、そんな俺を「魔法が使えずとも、ドラゴンは育てられる」と慰めてきた爺さん。普段厳しい人の優しさってホント辛い。

 

 そのドラゴンの卵だが、いまだに胎動しっぱなし。

 鬱陶しくて仕方がない。ああああ魔法使いたかったああ。

 

 やけになってフィオさんが摘んできたポポムの実とやらをつまみ食いしたら、平手打ちを食らった。

 でも美味かった。

 

10日目



 やる気が出ない。

 爺さんとフィオさんと三人でクローザという山菜を摘みに行ったが、途中、不細工なデカイノシシに出くわした。

 突然体当たりされたので、ついカッとなって殴り返したら、一発でのした。

 ボッドノズルという、結構ヤバいイノシシだったらしいが、無傷で済んだ。

 爺さんが俺の異常なマナの力が物理的に身体を強化しているんじゃないか、とか言っていたが興味なし。 フィオさんがちょっと見直した目で俺を見ていたことぐらいしか良いことなし。

 

 卵、胎動。

 もう寝る。


12日目



 日誌をつけるのが一日空いてしまった。

 昨日は忙しくて書く暇がなかった。

 

 というのも、昨日、ドラゴンが孵化したのだ。夕飯のシチューを食べ終え、部屋に戻った直後、パリンと良い音を立てて卵が割れた。タイミング良すぎて草。

 で、ドラゴンの雛だが、思ったよりも、普通のでかいトカゲ。背中に羽根の前触れみたいな小さな突起が出ているあたりは、何となくドラゴンっぽいかな。

 すげーと思いながら雛を抱えて爺さんに見せに行ったら顔面蒼白になって、早すぎる!急いで熱湯と火の支度をしろ!とか叫んで、それからは目の回るような忙しさだった。

 

 まず、雛を逆さまにして腹のあたりから熱湯をかける。そして、むせるような鳴き声がしたら今度は火にあぶる。

 雛を火にあぶるなんて馬鹿みたいな話だが、生まれたてのドラゴンはドロドロの羊水を丸々飲み込んでいる状態なので、これを押し出す必要がある。体内の羊水が冷えてゲル化しないよう、常に熱湯で温めながら逆さまにして羊水を吐き出させる。そして、吐き出しそうになったところを火であぶって器官に刺激を与えつつ、羊水を液化させて吐瀉させる。

 ちなみに野生の母ドラゴンは雛を尿(!)で温めたり、発熱させた舌を使って吐き出させるらしい。うえ。

 

 俺はこのサイクルを昨晩からやり続け、今日の昼まで続けていた。

 正直、途中から爺さんやフィオさんに代わってもらいたかったが、爺さん曰く、今から嫌というほど刷り込まなきゃ後で痛い目を見る、らしい。

 まあでも、熱湯や蝋燭、羊水入れの桶などなど、一晩中道具の取り換え徹してくれた二人には感謝している。後で何かお礼しなきゃな。

 

 今はすっかり落ち着いて布団の中ですやすや寝てるドラゴンを見てたら、俺もかなり眠くなってきた。

 ので、寝ます。

 

13日目



 ドラゴンの雛が自分の殻を食べている。

 ぱりぱりむしゃむしゃと良い音を立てて食べること。

 

 で、俺は今、部屋の中でただひたすら雛を見守り続けるという苦行を強いられている。

 異常がない限り、一週間はドラゴンの雛と部屋の中から出るなと爺さんに命令されてしまったのだ。うおお、鍬を持ちたい。

 お天道様の下で労働に励みたい。

 

 しかし、この苦行の辛さの本質は働けないことじゃない。もちろん、ドラゴンを見守ることでもない。


 自 分 の 排 泄 物 で 満 た さ れ た お ま る を 、ド ア 越 し に フ ィ オ さ ん に 渡 す と き の 苦 痛 た る や 。

 

 もう死にたい。でも一切不満を言わないフィオさんマジ天使。

 おかげでフィオさんお手精のサンドウィッチが、涙が出るほど美味いです。

 

14日目



 殻を食べ終わったドラゴンに、今度は血を飲ませている。

 色々な動物の血らしいが、詳しくは知らない。爺さん特製ブラッド。

 

 で、真面目に雛の観察をしてみると、最初は閉じ気味だった目が少しずつ開いてきて、今では大きなエメラルド色の瞳をせわしなく動かしている。

 牙はまだ無く、爪も柔らかい。皮膚は少しヌメヌメしているがカエルや爬虫類の類は嫌いじゃないので、気持ち悪いとも思わない。

 早く火を噴かないかなー。火を噴くのかは知らんけど。

 

 ああああ労働がしたい。



評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ