68日目~70日目
68日目
今日も全ての実習・講義は休み。
というか、巣内の生徒と教官が大分減ってしまっていて、実習どころじゃない。
巣内のドラゴンも外部から委託されたドラゴンは全て出払い、残っているのは生徒のドラゴンや竜の巣が所有しているドラゴン。といっても、ドラゴンはまだ結構な数がいそうだけど。
で、実習もなく暇だったので、今日は一日、人気の無い談話室でリーザさんとヘッドウィグしながら雑談していた。
リーザさんの話によれば、生徒の中には、協会派でなくとも、いつ授業が再開するのか見通しが立たないので、故郷へ戻る者も出てきているとか。
まあ、俺はディノを快適に養えているので、竜の巣にはできるだけ留まりたい。
ディノのヤツは馬鹿みたいに食うので竜の巣の食事には助かっている。バケツ何十杯って量だから、ホント冗談じゃない。
それに加えて、運動場や広い寝床、書庫などの設備を無料で使えるのもありがたいし。
それと同好会のメンバーは全員竜の巣を離れるつもりはないらしい。
オタクなんかはそろそろドラゴンの卵が孵るとかで、巣を離れる訳にはいかないんだと。
今日から厩舎にカンヅメらしい。ディノが生まれた頃が懐かしい。
そういえば、今日はリーザさんのドラゴンを初めて見た。
“フェアルドラゴン”という小柄なドラゴン。1メートルぐらいのサイズでどこか妖精チックな外見のヤツ。名前はまんま“フェアル”。
フェアルはオリジン種ではないが、オリジン種と亜種ドラゴンの混血種。
独特な鱗粉を使って幻覚を見せたり、大小様々な障壁を張ったりできるらしい。“魔鱗粉”というもので、傷口を癒す効果もあるのだとか。
しかし、ディノのヤツ、どうやらフェアルに一目惚れされたらしい。
終始くっつかれて、ディノは嫌そうな顔をしていたが、モテた試しのない俺からすれば、一目惚れとか羨ましすぎるぞ。
まあ、飼い犬をダシにして飼い主同士がゴールインするようなテンプレもあることだし、ディノがフェアルと良い感じになってくれれば、俺にもその可能性が無いわけでも無い。
彼女いない歴=年齢の虚しい妄想は留まることを知らず。
悲しくなる前に今日はもう寝ます。
69日目
ヤバい事件が起きた。
我ながら、結構派手にやっちまった。
というのも、今日はリーザさんとクラージアさんと一緒に、厩舎の一室で引きこもっているオタクの様子を見に行ったのだ。
もちろん刷り込みがあるので、オタクと卵のいる一室の中には入らず、外から状況を聞いたり、食事の差し入れ等々したワケ。すでに卵を「マリアンヌ」と名付けて愛を注いでいたオタクにドン引きしたのは言うまでもない。
しかしその後、俺たちが厩舎を後にしようとした時、厩舎にやってくるドラゴン協会のヤツらと出くわしたのだ。
しかも例の「兵器ドラゴン」を何匹も連れており、ただならぬ雰囲気。
で、クラージアさんが協会の奴らに何をしにきたのか問いただした。
ギブソンのおっさんもその中に居て、クラージアさんに返した答えが「厩舎に残っているドラゴンを回収しに来た」だと。
リーザさんもクラージアさんも呆気にとられて、「所長の許可は取ったのか」と聞いたが答えは「NO」。
すでに所長に権限など無い、竜の巣が所有しているドラゴンは我々協会のものだ、こちらは急いでいる、というようなセリフをギブソンが告げた後、黒服と兵器ドラゴンたちが俺たちに襲い掛かったのだ。
後で知ったが、協会はドラゴンの兵器開発に必要なドラゴンの素材を集めるために、竜の巣のドラゴンを押収しに来たらしい。もちろん、竜の巣がまだジルさんの手を離れていない、のにも関わらず、だ。
そしてあっという間にクラージアさん、リーザさんが取り押さえられ、俺は咄嗟にディノに咥えられて間一髪で免れたが、厩舎内には黒服と兵器ドラゴンがなだれ込んでしまった。
俺はヤバいと思って、ディノにマナを分けて奴らを駆逐しようと思ったのだが、卵にメロメロなオタクのことを思い出して厩舎内で暴れるのはマズいと思ったワケで。
そして俺が取った行動。
まず、失神魔法で兵器ドラゴンどもを全員行動不能にして、厩舎を覆うようにしてドラゴンたちに鋼鉄変化魔法をかけたのだ。
以前、ディノで一回試したやっつけ魔法だったが、無事成功。マナは結構消費したが、バトラーのときに比べれば少量。
結果、兵器ドラゴンは全部白目を剥いてひっくり返り、厩舎内のドラゴンは全て超重量の鋼鉄に変化させ、いかなる魔法も受け付けない状態にした。
黒服たちは当惑して、ギブソンのヤツも鋭い目を丸くしていたな。
で、俺はすぐにクラージアさんとリーザさんを抑えつけている黒服をディノに吹き飛ばさせて、協会の奴らにすぐに帰るよう忠告した。
正直、何か反撃されそうで怖かったが、ギブソンは苦々しげな表情を浮かべて、兵器ドラゴンを部下たちに回収させて厩舎を後にしたので一安心。
しかしホッとしたのもつかの間、クラージアさんとリーザさんが唖然とした表情で、さっきの極大魔法は何だ、俺がやったのか等々、質問攻めにあった。
さすがに、クラージアさんが貸してくれた魔法入門書にあった「害虫用!お手軽失神魔法」と「漬物石に便利!お手軽鋼鉄変化魔法」だとは言えなかったので、がむしゃらに魔法を使ったらできました、と言っておいた。もちろん、納得はされなかったけど。
その後、事態を知ったアメルがバトラーに乗ってすっ飛んできて、何故か俺が怒られるハメに。
「どうして協会のヤツらを消し炭にしなかったの?」と凄い剣幕で言われた。
一応、「厩舎を守ったことは誉めてあげる」とは言われたけど、相変わらず無茶苦茶なヤツ。俺は人を消し炭にできるほど鬼畜じゃない。
その後、ひどくやつれた顔のジルさんもやってきて、厩舎からドラゴンを守ったことを感謝された。
しかし、どうにも引っかかるのが、最後、ジルさんがポツリと「やはり、カミス君は私たちが見込んだ通りだ」と言ったこと。
「私たち」とは…?
70日目
爺さんとフィオさんが竜の巣にやってきました。
突然のことにびっくり。
今日も竜の巣は絶賛休業中で、俺はガラガラの食堂で食事を取った後、ディノとのんびり空を遊泳していたのだ。
そしたら、竜の巣に入ってくる鳥車が見えて、何か見覚えのある鳥車だなー、と思っていたら、爺さんの鳥車だった。一回、近くの村までシルビスを物々交換しに行ったときに乗ったアレ。
で、案の定、鳥車には爺さんとフィオさんが乗っていた。
何かジルさんが爺さんのことを呼んだらしい。
協会との抗争関係かも知らんが、少しの間、巣に留まる予定だとか。
で、巣に着いて早々、爺さんはジルさんと話があるとかで、さっさと事務所の方へ行ってしまい、俺はフィオさんを連れて、巣内を案内することに。
フィオさんを後ろに乗せて、ディノに二人乗りで巣内を案内した。
最初、フィオさんは空を飛ぶことに警戒心マックスだったが、慣れてくるとキョロキョロと辺りを見回しながら遊覧を楽しんでいる様子だった。
まあ、書庫で大量の本を見たときの目の輝きが一番だったけど。
そういえば、オタクの卵が孵ったらしい。
厩舎に寄った時、オタクが騒いでいた。
予定よりも一週間以上早い孵化だったらしく、ドラゴンの雛、もといマリアンヌの状態をいたく心配していた。
昨日、厩舎全体に俺のマナを浴びせた影響かも、という考えが頭をよぎったが、それで問題が起きたら嫌なので、思考停止。俺は何も知らん。
明日は何かジルさんから、爺さんを交えての大事な話があるらしい。
嫌な予感しかしないのは気のせいだろうか。