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65日目~67日目

65日目



 嫌な一日だった。

 原因は今日の飛行訓練。

 というのも、今日の飛行訓練は何故かドラゴン協会から特別講師を招いて実習する、という内容だったのだ。

 アメル曰く、飛行訓練の教官は所長から許可を得ずに講師を招いていたらしい。

 教官の中にも協会派は多数いるのだとか。ホント、四面楚歌で笑えない。


 ともあれ、飛行訓練で呼ばれた講師が、俺の後を付けまわしていた例の背の高いおっさんだった時点で、俺は何となく嫌な予感がした。

 ドラゴン協会の幹部の一人で、名前をギブソンというらしい。

 何か、協会の中でもドラゴンの使い手として有名らしく、紹介された時、クラス内でどよめきが起こっていた。


 そんなギブソンのおっさんが今日連れてきたドラゴンがオリジン種ドラゴン“メギルド”。

 一見すると細見のドラゴンだが、翼や鱗の隙間に精巧な鋼?が張り巡らされており、翼を広げると、鋼も孔雀のように大きく広がる。マナで自由自在に操れる鋼なんだとか。

 鋼と翼を組み合わせることで、飛竜としてかなり優秀なスピードを誇るらしい。


 で、そんなメギルドを紹介した後、教官からギブソンへ、実際に飛行させてみよう、という話が持ちかけられ、何故か比較対象として、クラスで一番早いドラゴンと飛行させることに。

 言うまでもなく、ディノが指名された。


 そして、生徒たちが見守る中でディノはメギルドと並んで飛行。

 最高速度で飛んだが、さすがにオリジン種の成竜だけあって、ディノはメギルドの速度に及ばず。

 しかし、それだけならまだ良かったのだが、途中からメギルドがディノの周りを翻弄するかのように飛び始め、メギルドの能力か分からないが、ディノの翼が突然思うように動かなくなったのだ。

 狼狽えるディノを嘲笑うかのように、メギルドは徐々に落下していくディノを追尾し、最後、無残に落下したディノの上に乗りあげて咆哮をあげた。

 同時に沸き起こる生徒たちの歓声。冷笑するギブソン。ドヤ顔の教官。

 そうした一連の展開に俺が腹を立てたのは言うまでもない。

 

 とりあえず俺はディノに怪我が無いか確認。

 その後、教官たちに謝罪を要求しようと考えていた。

 のだが、俺がディノの介抱をしている間に、アメルが教官たちに不平不満をぶつけていた。

 もちろん、教官たちは聞く耳持たずで、最後は「あれは事故だった。医務室へ行くことを許可する」だと。アメルも付き添いで医務室へ行け、との命令。

 とことん協会派は所長派をのけ者にしたいらしい。


 なんじゃそりゃ、と思いながらも付き合うだけ無駄だと判断して、俺は怒り心頭のアメルとディノを引きずって医務室へ。

 それからずっと医務室でサボり。アメルの愚痴を聞いて過ごした。


 最悪な一日だったが、アメルの話で何となく、国の状況、協会のしたいこと、ジルさんたちの立場、等々見えてきた。

 今日は眠いので、明日にでもまとめてみようと思う。

 

66日目



 魔物訓練は今日も休み。

 協会の圧力で教官の立場が危うくなっているとかいないとか。


 それはさておき、今日は昨日聞いたアメルの話をまとめてみようと思う。

 まず、国政状況。

 俺のいる国、アースウェルドは現在、周囲の各国と平和路線を歩んでいる。

 それはひとえに、各国間で結ばれた平和協定「ジェルミナ協定」に依るものだ。

 ジェルミナ協定が結ばれたきっかけは、200年ほど前に起こった第2次ドラグーン戦争。

 大戦では各国のドラゴンが総動員で駆り出され、戦禍は熾烈を極めた。

 各国の戦力は拮抗し、泥沼化した戦争だったが、ドラグーン戦争はとある“災厄”によって終結することになる。

 その災厄とは、“逆鱗”と呼ばれる邪竜カースドラゴン

 “逆鱗”は古い神話に登場する、いわばドラゴンの怨念の集合体。

 地上のドラゴンたちの怨嗟の念が集まると地上に召喚され、ドラゴンを仇なすもの、すなわち人間たちに災禍をもたらす、というヤバいヤツ。先の大戦では多くのドラゴンが酷使され、殺されたことによって出現したらしい。

 当時は“逆鱗”が単なる神話だと考えられており、各国の首脳は、まさか、と思ったそうな。


 で、逆鱗は各国の中枢を蹂躙。

 結局、戦争どころではなくなった各国の首脳陣は、主力を出しあい、協力して何とか逆鱗を封じ込めた。

 その際、多くのオリジン種ドラゴンと優秀なドラグナーが死んでしまったらしい。

 その後、逆鱗の封じ込めに最も貢献したドラグナー、ジェルミナを中心として、戦争の全面禁止等を謳った「ジェルミナ協定」を各国が結ぶことになる。

 言うなれば、この協定は再び“竜の逆鱗”に触れること、あるいは触れる可能性のある武力闘争を排除するための戒めだ。


 以後、各国は良好な関係を築いているが、最近アースウェルド内で勢力を伸ばしているドラゴン協会で不穏な動きが出始めている。


 何でも、ドラゴン協会が中心となって、隣国ヘキサルが機械魔工学を応用して、ドラゴンをベースにした軍事兵器の増強に勤しんでいる、という噂を国内に流しているらしいのだ。

 さらには、近々アースウェルドを攻め込むかもしれない、というところまで噂を広げているとか。

 ヘキサルは古くから魔工学に秀でた国らしいが、積極的な平和外交に努めており、軍事兵器の増強などは根も葉もない噂だ。

 むしろ、「兵器ドラゴン」等を秘密裏に開発しているドラゴン協会の方が軍事兵器の増強に勤しんでいる、という状態。なんじゃそりゃ。


 で、国の諮問機関の一つであるドラゴン協会は、攻め込まれる前に隣国ヘキサルを強襲すべし、という姿勢を王族・貴族たちに求めているらしい。

 もちろん、ジェルミナ協定を結んでいる隣国を強襲すれば国際問題に発展し、再び戦争が起こる可能性は高い。

「やられる前にやった」と言う侵略を他国が「はいそうですか」と了承するハズも無いし、武力行使である以上、協定違反であることに変わりない。

 しかも、ジェルミナの母国がジェルミナ協定を破ったとあれば、相当な顰蹙を買うこと間違いなし。

 そんなこんなで戦争が始まれば、先の大戦のようにドラゴンが動員され、再び“竜の逆鱗”に触れてしまうことも危ぶまれる。

 

 こうした状況で、ジルさんを筆頭とした一部の知識人層は“真偽の定かでない噂”に踊らされて、ジェルミナ協定によって結ばれた国家間の信頼を損なうリスクを背負うのは妥当ではない、と国に意見している。

 また、“逆鱗”に触れることの危険性、その危機意識の欠如も批判しているワケだ。

 しかし、協会側はジルさんたちの意見に聞く耳を持っていない。


 正直、円滑に進んでいる外交を壊してまで、戦争をしたがる協会の思惑は信じられないが、現在の協会のトップは金と権力にモノを言わせて、王族や貴族の多くを陰で牛耳っている強欲の塊。

 アースウェルド国内じゃ飽き足らず、世界をも手中に収めたい、という魔王思想の持主らしい。ドラゴンの兵器開発もそいつの差し金だとか。


 そのため、協会側からすれば、とりわけアースウェルドのドラゴン研究に大きく貢献し、国内でもトップクラスのドラグナーとして発言権を持つジルさんが協会を良く思っていないことは、今後政治を動かしていく上での障害だと考えているワケで。

 

 そういった経緯から、現在、協会が“竜の巣”を乗っ取ろうとしていることは、隣国を攻めるための戦力を確保するということ以上に、反協会派であるジルさんの権威を失墜することが第一目的としてあるらしい。

 そしてそのジルさんは現在、協会の筋書き通り、度重なる不祥事の事態収拾や協会側からの圧迫に悩まされ、運営もままならない現状に陥っている。

 

 …とまあ、昨日の話をまとめると、大体こんな感じ。

 で、そんな“竜の巣”の現状にアメルは「命に代えても、ドラゴン協会から竜の巣を守らなきゃ!」と豪語し、目を燃やしていたな。

 一応、具体的にどうするんだ、何か策はあるのか、と聞いてみたが、「無いけど、私と私のドラゴンたちがいればきっと何とかなる!スーパーバトラーもいるしね!」だと。脳筋乙。


 しかし、アメルのヤツ、バトラーを成長させてから余計に面倒くさくなったというか何というか。

 スライムパニック以来、若干薄らいでいた自尊心がまた復活してきている。

 今更ながらバトラーにマナを分け与えたことに後悔し始めている今日この頃。



67日目



 すべての実習、講義が休講となる異常事態。

 原因はおそらく、ジルさんと協会のいざこざ。

 ま、今日は座学だったから結果オーライ。

 しかし最近、巣内が慌ただしく、荷物をまとめて、巣を離れる生徒をちらほら見かける。

 どうやら、ドラゴン協会の勧告で協会派の生徒たちが続々と巣を後にしているらしい。ヘッドウィグの同好会でリーザさんから聞いた。

 協会が何を目論んでいるのか分からないが、雲行きが怪しいことは確かだ。何が起きても大丈夫なように、準備しておくべきか。

 最近は協会のストーカー連中も見なくなって逆に怪しいぐらいだし。

 …といっても、いつでも空へ逃げられるよう、常時ディノに鞍を置いておくことぐらいしか考えつかないけど。


 ちなみにリーザさんもクラージアさんも、ついでにオタクも所長派らしい。

 リーザさんとクラージアさんは平民出身なので、貴族を通じたドラゴン協会との接触は無いらしく、クラージアさんに至ってはジルさんに個人的な恩があるのだとか。

 オタクは意外にも、ジルさんと家族ぐるみの付き合いがあって、父親は有名な学者らしい。

 

 まあともあれ、政治関係で友人と仲を違えることが無くて、ひとまず安心。

 正直、付き合いが短い彼らを友人と呼んでいいのか分からないが、ひとまず「友人」としておこう(切実)。


 そういえば、今日はアメルを見なかったな。いつも巣内をウロチョロしているあいつだが、ジルさん関連で忙しいのか。

 まあ、俺は相手しなくて良いから楽で良いんだけどね。面倒にも巻き込まれないし。



 どうでもいいけど、クラージアさんから借りた魔法の本を大体読み終えてしまったので、寝る前に読む本が無くて辛い。

 覚えた魔法はディノを実験体にして色々試したけど、普通のドラゴンに効くのか分からないのがネック。一度、厩舎に行って色んなドラゴンに試してみたいところ。




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