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56日目~58日目

56日目



 「命令基礎」の実習。

 思えば竜の巣に来てかれこれ三回目の実習。月日が経つのは早い。

 今日は悪天候のせいで、いつもの運動場ではなく、ドラゴン厩舎で実習が行われた。

 で、実習内容は厩舎内での餌のやり方やドラゴンの落ち着け方など。

 最近知ったのだが、ドラゴンって狭い場所が苦手な種類が多いらしい。なので、非常事態のために狭い厩舎でも慣れさせておく必要があるのだとか。

 ちなみにディノは室外でも室内でも平常運転。思い切り飛び回れる外も好きだが、静かに本を読める室内も嫌いじゃないらしい。

 読書を嗜むドラゴンなんて、世界中探し回ったってお前くらいだろうよ。


 それはさておき、今日は実習中に事案発生。ドラゴンが暴走しました。

 原因は分からないが、厩舎で休んでいたドラゴンが突然暴走。しかも、普段は大人しいが、荒れると凶悪、で有名なアスウォールドラゴン。

 トリケラトプスのような身体をぶんぶん振り回して暴れ、そこかしこから悲鳴が上がった。


 まあ、俺やディノが近くにいたため、ドラゴンは速攻沈めたけど。ティアマトに比べれば楽勝。

 しかし、人の負傷者は出なかったものの、ドラゴンの初撃で、すぐそばにいた生徒のドラゴンが首を大きく裂かれ、致命傷を負ってしまった。


 すぐさま教官が駆けつけて回復に急いだが、傷が深く、医療班が駆けつける前に事切れる恐れがあった。

 ドラゴンの所有者である女子生徒は泣き叫び、教官は脂汗を滲ませて回復魔法を急ぐ、そんな事態に俺はピンときた。


 俺のマナを送ってやれば少しは治りが早くなるんじゃないか、と。


 マナの道筋を作ってやることなら、基本どんなドラゴンでも可能だ。もちろん、ディノの場合と違って、俺サイドのマナの一方通行になるため、俺のマナが消費されてしまうリスクはある。

 しかし、そもそもマナというのは魔法を使う上で必ず消費されるモノだ。俺とディノの場合のように、交換可能なマナの道筋が成立したり、意識まで共有できてしまうほど、お互いのマナと精神が癒着している事態はかなりイレギュラー。…なハズ。

 …ま、詳しくは知らないんだけどね。専門家でもないし。マスタードラゴンのみぞ知る。


 つまるところ、ドラゴンにだけマナを乗せられる、という俺の能力を活かして、適当にドラゴンにマナを送れば、スペシャルな魔法効果が生まれるんじゃね?

 という安易な期待が頭を支配していたのが正直なところ。

 で、思い立ったが吉日、早速俺はドラゴンに微量のマナを送り込んでみた。教官の後ろから、こっそりと。


 で、実際やってみて感じたのは、ディノの時と違って送り込む、というよりは覆う?感覚だった。

 かじった程度の知識だが、身体の備える治癒能力を増幅・促進させてやる回復魔法をイメージしてマナを放出。ぶっちゃけ、ジルさんや教官が使っていた回復魔法の見様見真似。


 結果は見事成功。

 ドラゴン、あっという間に全快しました。

 名付けて、ドラゴンヒール。

 異世界に来て初めて魔法に成功(たぶん)したのでテンション上がった。

 それに応じて、少しマナを消費した気がするが、蚊に吸われた程度。正直、消費したのが分からないぐらい。俺のマナの貯蔵量をなめちゃいけない。

 

 ちなみに、治したドラゴンの生徒は教官に泣きながらお礼を言っていた。

 教官は何故いきなり完治した!?みたいな顔をしていたが、俺は知らぬ存ぜぬを通したけど。

 

 何はともあれ、先日の完全体に比べて、今日のなんちゃって魔法は実用的というか何というか、良い収穫だった。

 これを機にドラゴン専門の治療師でも目指すのも良いかもナー。楽観的展望。

 

 それに今日の成果を鑑みれば、俺のマナも使いようによっちゃドラゴンに色々な魔法をかけることができるかもしれない。しっかり勉強すれば、有象無象のドラゴンたちを強化・成長させるのも夢じゃない。

 今後のために魔法の勉強を始めるべきか。正直、座学の勉強で手一杯だが、魔法の勉強と来れば俄然やる気も違う。すなわち、これ、現実逃避。

 まあ、暇ができたらクラージアさんから簡単な魔法でも教えてもらうか。難しいのはパスで。

 


 そういや、明日は特別実習だ。

 準備は万端だが、正直、周りの目が少し気になる。

 いきなりディノを成長させたら、周りの生徒が俺とディノを訝しむこと請け合いだ。爺さんも腰抜かしてたし、やっぱ俺の力は異常なんだろう。

 できれば、俺の力はあまり人に見られたくない。体面的にもそうだし、今後の動きやすさを考えれば目立たないに越したことは無いしね。

 能ある鷹は何とやら、だ。


 しかし、俺ってばいまだに友達が一人もいない。東洋系の顔立ちってのもあるけど、ディノのポテンシャルのせいで敬遠されてる気がする。

 部屋もVIPだし、オリジン種持ちゆえの孤独か。おかげ様で、一人寂しく部屋の中で日記を書くのが捗ること捗ること。

 そういえば、あのアメルも友人と一緒にいるのを見たこと無いな。


 …後でヘッドウィグの同好会にでも顔を出すか。クラージアさんも俺を勧誘してきた美女もいるしネー。

 …友達づくりのためとかじゃないぞ。断じて違うぞ。


 57日目



 とりあえず、特別実習の課題クリア。

 ほとんど俺とディノのワンマンプレイだったのでクラス実習の体を成していなかったがね。まあでも、他の生徒に俺の能力を見られなかったので上出来。

 というのも、今日の実習、最初からディノにマナを分け与えず、クラスメイトがノックダウンされるのを確認してから、能力をお披露目したのだ。名付けて、能ある鷹作戦。

 

 しかし、能力を使ったときは思い出したくない。何を血迷ったか、俺は「マナディストリビューション!」なんて格好つけて言いながら、ディノにマナを分配したのだ。

 テンション上がってたのか知らないが、勢いで何となく名付けてしまった。

 今から黒歴史になる予感がビンビン。「分配」をただの英語に変えただけで特に何の捻りもないのだが、異世界なら英語もないし、それっぽく聞こえるハズ。というか、今更引けない(白目)。


 で、それから俺のマナでドーピングしたディノがティアマトを動かすのには一分とかからなかった。

 ディノはティアマトの衝撃波を難なく受け流し、いつもより何倍も強烈なブレスを放った。

 最初こそティアマトはブレスで応戦していたが、そのうち六枚羽で身体を覆うようにして防御態勢に入ったので、これはイケる、と思い最後はディノに体当たりをさせた。

 最高速度+きりもみ回転のコークスクリュータックル。

 ティアマトは態勢を大きく崩して、その場に倒れ、実習課題クリア。


 それからはジルさんに驚かれ、誉められ、俺のディストリビューション()について聞かれたり、等々。

 まあ、適当に答えておいた。大体、爺さんにした話と一緒。

 しかし、ジルさんから「君の力が羨ましい」とか言われると、調子狂う。

 こちとら異世界に召喚されて、訳も分からないまま現在に至るので、羨ましがられる立場でもないんだがなあ。もちろん、そんなことは言わなかったけど。


 まあ、何はともあれ、課題はクリア。

 次からは俺は実習に参加せずに、実習の後の時間にジルさんから直接指導を受けるらしい。

 他の生徒は相変わらずティアマトを動かす課題を続けるのだとか。俺とディノだけでティアマトを動かしたようなもんだし、この措置はやむなしといったところか。

 ジルさんから優遇されて、約一名から凄い嫉妬心を燃やされていた気もするけど。

 アメルよ、十分に研鑽をつみたまえ。


 

58日目



 今日は遅刻せずに飛行訓練に参加。

 しかし、いつもと違う雰囲気で居心地が悪かった。


 というのも、教官と一緒に黒づくめの男が二、三人立ち会っており、訓練中、じろじろと観察されているような、いやーな視線を受け続けた。

 気になったのでアメルに聞いてみると、黒づくめはドラゴン協会の人間らしく、竜の巣のパトロン。逆らったらマズい部類の人間だとか。

 昨日のことで妬いていたのか、ぷりぷりしっぱなしのアメルは詳しくは教えてくれなかったが、「たまに竜の巣にやってきては、好き勝手にドラゴンやドラグナーの引き抜きや教育方法に対して横槍を入れてくる面倒な奴ら」と罵っていた。

 うむ、なるべく関わりたくない。

 

 で、今日は例のヘッドウィグの同好会とやらに顔を出してみた。久しぶりにヘッドウィグがしたくなった…というわけでも無いけどサ。

 時間は食堂の夕食時間を過ぎた頃合い。談話ホールの片隅で異様な熱気を放つ集団を見かけ、もしやと思って近づいてみたら、案の定ヘッドウィグ同好会だった。

 

 真剣なまなざしで盤面に向かう漢。男。オトコ。

 

 アレー?可愛イ女ノ子タチワー?

 なんて首を傾げていると、脂っぽいロンゲ&分厚い眼鏡の男が俺の腕をいきなり掴んできて、「ボクと対局しろ」と。

 そのまま何故か俺はそいつと対局することに。

 何でもその男、名をオタク(名前を聞いたとき、噴きそうになった)と言って竜の巣でヘッドウィグの強者に与えられる称号、「ヘッドウィグ七星」の一角を担う猛者らしい。ちなみに、クラージアさんも七星の中の一人だとか。

 そのクラージアさんから俺のことを聞いて、オタクから俺に直接対局を申し込んできたってワケ。

 で、オタクは盤面で対峙するや、中指で眼鏡を押し上げながら「クラージアは我ら七星の中でも最弱」とか言いだしたので、また噴き出しそうになるのをこらえるのに必死だった。

 いやはや、現実でそのセリフを聞くことになるとは。

 

 まあ、対局した結果は俺の圧勝です。

 正直、クラージアさんと変わらないレベル。相手の詰めの甘さが中盤に出て、難なく勝利をもぎ取りました。

 それから「もう一局だ!」としつこいオタクを無視して、途中から同好会に顔を見せたクラージアさんと無事合流。例の俺を勧誘してきた女子とも会うことができた。名前をリーザさんというらしい。

 ちなみに、リーザさんはドラゴン医療学の生徒で、オタクはドラゴン体系学の生徒。前者は名前の通り、ドラゴンの治療を専門とする分野で、後者はドラゴンの種類や特性を調べ、体系化していく座学的な分野。いかにもオタクっぽい。


 で、それから俺は何局か彼女たちと(それと何故かオタクとも)ヘッドウィグに興じた。もちろん、全勝。手を抜くという言葉は俺の辞書には無い。

 

 久しぶりの良い息抜きになった感じ。

 これからたまに顔を出そうと思う。クラージアさんから簡単な魔法について教えてもらえるし、今日は魔法の入門書を貸してくれる約束も取りつけられた。ドラゴンに応用が効きそうな魔法はどんどん覚えていきたいところ。

 それに何やかんや談笑するのも楽しかったしね。まあ、話す内容は大体ヘッドウィグの攻防に関するガチめな議論なので、キャッキャウフフな感じじゃないので、アレだけど。


 そういや、明日の対魔物訓練は中止らしい。

 先週のスライムパニックの件が原因の様子。

 まあ、俺は座学の復習に当てられるから、全然良いんだけど。

 




 ブックマークありがとうございます。

 拙い文章ですが、今後ともよろしくお願いします。


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