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54日目~55日目

54日目 



 無事、爺さん家に到着。

 ディノは予想を遥かに凌ぐスピードで飛んでくれて、夕方には着いてしまった。ホント優秀なヤツ。

 で、久々の部屋で日記を書いている。

 ディノはサイズ的に屋内に入れそうもなかったので、窓の外。生まれてからずっと同じ部屋で寝てきたので、寂しいのか、時折鳴いている。何とも子どもらしい。

 しかし、この一か月で随分大きくなったもんだ。

 こっちに着いたとき、爺さんもディノを一目見て、その成長に目を丸くしていたな。

 相変わらず、ディノの成長速度は異常。


 で、俺は早速、俺が爺さんの孫という設定になっていたことについて、爺さんに糾明した。

 手っ取り早く竜の巣に入れるにはその方が都合が良かったから、と思っていた通りの解答。

 まあ、ジルさんから優遇されているような気もするし、別に非難はしなかったけどさ。

 今更だが、ジルさんもフィオさんも割と東洋系の顔なので人種的に疑われることが無くて幸いだった。といっても、フィオさんも爺さんも整った顔立ちをしているので、俺とはデキが違うのだけども。


 それはさておき、爺さんにはディノの成長報告、といってもブレスが強くなった、飛行能力が上がった程度の説明、それにテレパシーの進歩、等々話しておいた。当然、特別実習のことも。

 で、ティアマトを動かす方法について、爺さんに助言を求めたところ、現段階では到底無理だろうと一蹴された。

 オリジン種の成体ドラゴン、それもアースウェルドで最高峰のドラゴン、ティアマトを動かすには、地面をひっくり返すか、せめて、訓練を積んだ成体のオリジン種ドラゴンで応戦するぐらいしか方法は無いらしい。

 昔のよしみで爺さんだけが知ってる、ティアマトの弱点とか期待していたのだが、爺さん曰く、「そんなもんあるわきゃ無い」。

 いきなりラスボスレベルのドラゴン相手に弱点なしとか無理ゲーにも程があるだろ!

 ゲームだったら糞ゲー認定、速攻電源を切ってる。

 

 そんなこんなで思考停止しかけた俺。しかし、爺さんからある提案が。

 何でも、俺がテレパシーの話をしたときに思い付いたらしいが、俺が持ってるマナを、テレパシーの容量でディノに送り込み、ディノのマナを増幅できないのか、という提案。

 何それ詳しく、と爺さんに聞いてみると、魔法の種類によっては物体を強化したり、植物の成長を促進するものがあるらしく、ドラゴンにマナを乗せることのできる俺ならドラゴンにそういう類の魔法で応用が効くんじゃないか、と爺さん談。


 夕食の席で、そうした魔法について爺さんから相変わらず専門用語バリバリのちんぷんかんぷんな説明を受けたが、案ずるより産むが易し。

 早速、明日試してみようと思う。

 平たく言えば、マナの接合部分からマナを送り込めばいいという話だ。

 難しく考えてはいけない。というか、俺は難しく考えられる脳みそをあわせもっちゃいない。

 

 ちなみに、久しぶりに会ったフィオさんも相変わらずで、淡々と家事をこなしていた。

 BL小説を渡すと、無表情な瞳に光が宿り、若干頬に赤みが差した。そして小声で「ありがとう」頂きました。やったぜ。

 で、料理の方はやはり絶品。しかし、俺が戻ってきたからなのか、小説に喜んだせいか、ステーキやらシチューやらポポムの実のパイやらご馳走が並んで、舌鼓を打った。迷惑千万な金髪少女を見ていたせいか、フィオさんの女子力に心癒されました。

 しかし、ディノがフィオさんに甘えて、頭を撫でられていたとき、おいそこどけと思ったのはここだけの話。


 そういえばフィオさんの年齢が14歳だと発覚。アメルと同い年という事実。

 フィオさんの物静かさをアメルも見習ってほしいもんだ。



55日目



 あまりにも強大な力を手に入れてしまった。

 図らずも核兵器を手に入れてしまった気分、とでも言うべきか。


 というのも、今朝、爺さんから言われた提案を実行してみたのだ。

 山の麓の開けた場所で爺さんとフィオさんに見守られながら、ディノのマナを接合し、マナを送り込んでみた。イメージとしてはガスの栓をほんの少し捻る感じで。

 結果として。

 ディノ、さらに急成長しました。成体に近いほどの大きさになり、翼も一枚増えて、顔つきも禍々しく変化。身体能力も見た目相応に向上しており、空中でブレスの射程や威力が強化されたことも確認した。さながらバハムート。

 しかし、マナの結合を解除するとたちまちディノは元の姿に戻ってしまうので、こうした成長は一時的なものらしい。思っていた以上に簡単だったのと、その成果にびっくり。最初からこれに気づいていれば、実習もどんなに楽だったかと悔やまれるほど。

 しかし爺さん、ディノの進化を見るや、ホントに腰を抜かしてしまい、フィオさんに支えられていないと立っていられない状態になってしまった。自分が提案したくせに、マナによる異常なドラゴンの急成長を目の当たりにして、度胆を抜かれたのだとか。なんじゃそりゃ。

 

 とまあ、成果が見られた実験だったのだが、真価はこの時ではなかった。

 というのも、腰を抜かした爺さんを介抱しに、フィオさんが爺さんを小屋に連れていってる間、俺は試しにディノにありったけのマナを注ぎ込んでみたのだ。俺の中のマナの元栓を全開にする感じで。

 そして、予想もしなかった結果にみまわれた。


 経過を記しておくとこんな感じ。

 まず最初に、突然、自分の意識が無くなるような浮遊感を覚えて、次に視界が開けたときに見えたのが、眼下に気絶している自分の姿。それから、頭の中で自分の声とディノの声が重なりながらガンガンと響き合って、焼けるような熱さと頭痛に襲われた。

 たまらず俺は、麓の脇にある池に直行、熱さから逃れようと頭を水に突っ込んだ。

 

 それから体感的に数分。徐々に熱っぽさも引いて、頭の中の声も和らぎ、自分の声とディノの声が分化して聞こえるようになってくると、俺は頭を持ち上げて空気を存分に吸った。そして、見下ろした水面に驚愕。

 …何とも凶悪そうな巨竜が水面に映っているではありませんか!

 ディノっぽい面影を残す二枚翼は元々のそれを何倍も強靭にして一回り大きくしたものとなり、顔つきはティアマトの迫力を遥かに凌駕した強面。ギラリとした眼光が四つもついている始末。

 図鑑でも見たことの無い凶悪そうな姿に俺は思わず飛びのき、恐る恐る、自分の姿を確認した。もちろん何度も。


 そして、こう結論づけた。

 すなわち、俺がマナを全部流し込んだとき、マナごとディノに意識をもっていかれたのだ。

 自分で書いておいてややこしいが、まるで幽体離脱をしてディノに憑依する形になってしまった。正確には一つの身体でディノと意識を共有している感覚。

 そしてその結果なのかは分からないが、俺の全マナと意識をディノに乗せた状態、仮に“完全体”と呼ぶとすれば、完全体になることでディノの身体は最凶と呼べる進化を遂げてしまったのだ。

 大量にあるくせにまるで使えなかった俺のマナが、ディノを通じて開放された結果があの姿というわけ。自分で自分が恐ろしい。


 それから俺(正確には俺とディノだが)は試しに飛行したり、空に向かってブレスを吐いたりしてみたが、ヤバい。もうそれしか感想が出ない。

 羽ばたき一つでジェットストリーム。何百メートルも空を切り、ブレスに至ってはため息レベルでギガフレア。

 おそらく、俺たちがブレスを吐いたそのとき、付近で空を見上げた人たちは空に向かって放たれる謎のイカズチを見たことだろう。それほどにヤバかった。

 アレは本気出したら国を消せます。

 ブレスを吐いた後、俺はこのあまりにも強大な力を封印するかのごとく、結合していたマナを慌てて解除した。

 そして、無事に俺の身体にマナと意識が戻り、一先ず安堵。


 しかし、今思い出しても身震いする力だった。爺さんにあの姿見せたら泡吹いて卒倒するかもしれないし、正直、俺自身怖いのが本音。

 あの完全体は、ちょっと行動するだけで世界の一部を簡単に破壊してしまうだろう。そう確信するには十分な力だった。ホント、冗談抜きで。

 “完全体”はなるべく、できれば二度と使わないようにして、周りには秘密にしておこうと思う。周囲に歩く最凶兵器認定されたらたまったもんじゃない。


 結局、爺さんにも完全体のことは言わずに、アドバイスしてもらった礼を言って、竜の巣へ戻ってきた。


 しかし、日記を書きながら、何ともいえない気分。そわそわして落ち着かない。

 善良な一市民が最凶兵器を手に入れたら、こんな謎の焦燥感に襲われるのかも。

 次回の特別実習ではもちろん、あの完全体ではなく、マナを少しだけディノに分けた状態で挑むつもり。 ある程度、俺のマナをディノに分けてやればクリアできるだろう。


 とりあえず、今は完全体のことは忘れることにして、明日から普通に授業をこなしていこう。

 眠れないと思うけど、もうベッドに入ります。



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