表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
12/32

51日目~53日目

51日目



 大寝坊して訓練の教官から大目玉をくらった。

 ちょっとデキるからといって調子に乗るなと、小一時間の説教。訓練もお預けとなり、隅で一日見学してました。

 高校生活じゃ寝坊の常習犯だった俺的には久々の感覚。あの頃はしょっちゅう体育教師から呼び出しを受けてたな。

 まあ、懐かしいからと言って、叱られるのは良い気分じゃないけど。

 というか、今更かもしれないがこの世界じゃ目覚まし時計なんてものは皆無。

 文明の利器に頼っていた現代高校生には、結構な死活問題。ゲン爺さんのところじゃ毎朝爺さんにたたき起こされてたし、竜の巣に来てから今まで寝坊しなかったのが奇跡的なくらいだ。

 といっても、朝早くから始まる実習が飛行訓練だけなのは幸いか。

 これからは毎週、ディノ(ドラゴンは基本早寝早起き)にモーニングコールを頼むことにしよう。


 しかし、今日ディノに何で起こさなかったのか問いただしたら、「気持ちよさそうに寝ていたから」て。

 おかんか、お前は。


 そういえば俺が見学してるとき、アメルのヤツが「ざまあみろ」とばかりに何度も舌を突き出してきたのが鬱陶しかったな。

 こないだ書庫でアメルの年齢が14歳と知ったときにも正直驚いたが、今日のあの態度を見たらホント14歳とは思えない。

 ドラゴンに関しては大人顔負けな真面目ぶりを発揮するくせして、精神的な部分は幼いというか何というか。まあ、遅刻した俺がどうこう言うのも大人げない気もするがね。

 年齢といえば、フィオさんの正確な年齢を聞いたことが無かったな。

 12歳かそこらだと思ってたけど、アメルのことを鑑みるに、俺の目算が外れている可能性が高い。帰ったら試しに聞いてみよう。

 というのも、実は今度の休みの日、爺さんの家に帰ろうと画策中。

 来週は騎乗訓練が急遽休みになって、二連休がとれるのだ。

 その二連休とディノのスピードをもってすれば、爺さんの家まで一泊二日で行って帰ってこれるんじゃないかと思い、今日、爺さんの家の位置と距離を確認するためにクラージアさんから地図を借りてきた。

 で、ディノの本気のスピードがどれほどになるのか分からないが、遅くて時速80キロと見積もっても、二日あれば十分行って帰ってこれる距離だと判明。陸路で行けば何日もかかる距離でも、空路なら大幅に短縮できる。飛行さまさま。


 ちなみに、今回爺さんのもとに帰ろうと思ったのは、爺さんに色々と聞きたいこともあるし、ぶっちゃけ今度の特別実習に向けて何か良いアドバイスをもらいたい、っていうのが本音。

 それに、たまにはディノの顔を見せに戻ると約束したし、色々と世話になった恩もあることだ。

 オタクな爺さんに、ここ数週間のディノの成長を見せつけてやろう。


 もちろん、フィオさんにも恩がある。

 そんなフィオさんのために、クラージアさんから地図と一緒に、最新のBL小説を入手しておいた。爺さんのとこじゃ、本も手に入りづらいだろうし、きっと喜ぶハズ。

 まだまだ足りないと思うが、二人には色々と世話になったので、しっかりと恩返ししていきたい。


 そんなことを考えながら、今から少し浮き立つ俺。経験したこと無かったけど、帰郷するのってこんな感じなのかもな。wktk



52日目



 「対魔物訓練」。

 今日は色々と萎えた。

 というのも、今日の魔物はRPGの王道モンスター、スライム。

 有名な某ゲームでは可愛らしい見た目と初心者向きの弱さに定評のある魔物だが、リアルなスライムは、まあ、俺が察した通り。

 ネバネバと不定形な身体で生物に纏わりつき、穴という穴から体内へ侵入してくる、という色々とエグいで有名な魔物らしい。所謂、アメーバ・寄生虫みたいな種で、即死性はないものの、生物の体内で少しずつ生命力を蝕んでいく魔物。

 で、今日はそのスライムの内、いくつかのものと戦うことになったのだが、最終的にとんでもない騒ぎになった。

 何でも、一部の生徒が誤ってスライムに増幅・増強魔法をかけてしまったらしく、スライムがステータス強化&無限湧き状態になってしまったのだ。

 教官が魔法で事態収拾に励んでいたが、健闘むなしく、多くのドラゴンと生徒たちが強化スライムに凌辱される事態に。主に機動力の無いドラゴンを所有する生徒たちが犠牲者。

 

 ちなみに、俺とディノはスライムパニックが起こるや否や、飛行して退避。一命はとりとめた。

 アメルも黄金竜に乗って逃げたが、地面でのたうち回る生徒たち、いや、ドラゴンたちを見ていて居ても立ってもいられなくなったのか、救助に向かってあえなく撃沈。

 最近、特攻ばかりしているあいつの才女たる所以がわからなくなってきている。

 ただの脳筋なドラゴンオタクでは?

 

 それはさておき、道徳的に見せられないよ!状態に陥ったアメル含め、眼下には色々とトラウマな光景が広がっていました。

 …一部の変態には需要あるかもしれないが、俺は勘弁。あれは思い出したくない。スライムによって生殺し状態のまま、レイプされているという表現が的確か。

 俺とディノも事態収拾を試みなかったわけじゃない。ディノのブレスで生徒たちを傷つけないようにスライムを焼き消していったのだが、増殖のペースに追いつかず、焼け石に水。

 生徒もろともブレスで焼けばどうにかなったかもしれないが、俺はそんなに鬼畜じゃない。

 それから急遽、魔法専科の教官が招喚され、生徒とドラゴンたちに逆戻し魔法とやらをかけて、やっとこさ事態は一応収拾したのだが、生徒の大半が精神的トラウマを負った様子。

 見学していた俺ですらトラウマなのに、当事者たちは察するに余りある。顔面蒼白だったアメルに合掌。

 というか、未だに増殖したスライムが構内を逃走中らしい。

 巣の屋内には結界で入れないっぽいけど、運動場や放牧場に隠れて逃げ回っているとか。

 魔法専科の教官の時空魔法で、何とかスライムの増殖は食い止められたらしいが、相当数?相当量?がまだいるという話。うへえ。


 そんなこともあってか、今日は夕食の箸(正確にはフォークとスプーン)が進まなかった。

 ディノは至って普通だったけども。


 明日は座学か。憂鬱。



53日目



 ひゃっほい。昨日のスライムパニックの影響で『起源』が休講になった。

 竜の巣の構内に逃げ出したスライムの除去作業に教官が駆り出されたとか何とか。スライムに感謝。

 てことで、今日の午後は先週できなかった座学の復習を書庫でみっちりやった。

 昨日のアレのせいだろうが、アメルは書庫に来ることもなく、平穏に自主学習が進められた。

 といっても、途中で飽きてドラゴンの小説を読んだりしたけども。

 ちなみに、ブツは200年ほど昔の天才女性ドラグナー、「ジェルミナ」の伝記。

 何でも彼女、この国(アースウェルド)の将軍だったらしく、第2次ドラグーン戦争で戦った際には、戦地に赴く度、全身返り血で真っ赤になって帰ってきたことから、「赤い死神」と呼ばれていたそうな。

 で、そのドラグナーの乗っていたドラゴンこそ、バルバドスゴルフィー、全身刃のオリジン種ドラゴン。歴史上、あのドラゴンの手綱を自由自在に操れたのは彼女ぐらいだとか。

 で、そのジェルミナさん、戦後は反戦のために各国を奔走したらしく、ジェルミナ協定なる平和協定を結び、それから現在まで、近隣国で戦争は起こっていないらしい。アースウェルドの傑女として今世まで語り継がれている女性。

 昔から伝記系は好きじゃなかったけど、あの本は面白かった。まあ、伝記といっても異世界人の俺からしたら、ファンタジー読んでるようなものだけど。

 

 明日は爺さんのところに帰る予定。明朝、夜明けと同時に出発しようと思う。

 一応さっき、所長のジルさんに報告はしておいた。外出許可証とかは特に要らないし、別に報告する必要も無かったのだが、一応ね。ホウレンソウ、これ大事。

 明日ゲン爺さんのところに行ってきますと伝えると、最初は少し驚かれたが、顔を見せに行っておいで、ついでにそのチビの成長もな、とか言われた。

 わざわざ報告しに行ったのは律儀過ぎたかと、今になって思う。


 しかしジルさん、スライムの後処理、とりわけ、生徒たちの父兄対応で忙しそうだったな。

 苦情の電話、ならぬ、苦情の魔法便を大量に抱えていた。どこぞのファンタジー小説のように、手紙を開くと同時に、子どもが酷い目にあった、巣の管理はどうなってるのか、賠償金の請求をしたい、等々、手紙が大音量で喚き散らすという代物。

 貴族の親たちのクレーム対応とか、よく分からないけど大変そう。教員や、それに準じる職業なんてどこの世界でも面倒極まりないってことを痛感。


 まあ、何はともあれ、明日に向けての準備は万全だ。

 鞍の点検はバッチリ済んでいるし、食堂で食料のパンやディノ用の干肉、それに水筒ももらってきておいたし、あとは寝るだけ。

 

 一応、ディノにモーニングコールを頼んでおいて、今日はもうベッドに入ります。


評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ