48日目~50日目
48日目
騎乗訓練の実習。
前回の反省を踏まえて、今日はどこぞの才女様の真上を飛ばないように気をつけた。
しかし、教官がやけに俺に対して指導してきたので、今日もおちおちフライトを楽しんでいられなかった。
こうした教官の熱烈なアプローチは、先週のアメルとのスピード勝負が影響しているっぽい。
何でもその教官はかつてドラゴンレースのトップ選手だったらしく、先日のレースを見て俺とディノの才能に見染められてしまったのだとか。正直、ディノが凄いだけで、俺の才能は関係ない気がしたのだが。
それはさておき、早速今日は、「宙返り」と「きりもみ飛行」の練習をさせられた。
で、これがジェットコースター以上のスリル。宙返りはまだしも、きりもみ飛行はホントにヤバい。何度、鞍から落ちかけたことか。
それでも人間やればできるもので、訓練の終わりには何となくコツは掴めた。
まあ、今日は超低空飛行で練習したから良かったものの、命綱は鞍のあぶみと手綱だけなので、それなりの高度でやったら恐怖でちびりそう。浮遊魔法とか覚えていれば、いざって時に落下の衝撃を緩和できるらしいが、俺はそういうの皆無だからね。
マナの影響で俺の身体は頑丈になってるっぽいけど、頭から地面に落下する、なんて想像するだけで怖いし、勘弁願いたい。
そんな感じで今日は肉体的にも精神的にも疲れた。
まあでも実習の終わりに教官からドラゴンレーサーのトップ騎手が使うような上等な鞍を譲ってもらったので、良しとしよう。この鞍、何でも貴重な魔道具?の一種らしい。
鞍嫌いのディノでもこの鞍だけは何故か気に入っている。つけ心地が良くなる魔法でもかかっているのか?
49日目
命令基礎の実習。
課題は前回に比べて難易度が上がって、「ドラゴンをわき見させずに目的ポイントまで徐行させる」というもの。
目的ポイントへのルートの途中にドラゴンの餌や小動物ならぬ小魔物など、ドラゴンを誘惑するギミックが置かれており、周りはドラゴンを御するのに苦戦していたが、俺たちは一発合格。テレパシーがある限り俺たちに死角はない。
で、残り時間は用意しておいた参考書の読書に充てました。
まあ、眠気に襲われて何度も落ちかけたのはここだけの話。
そういえば実習の後、変な女子から同好会の勧誘を受けた。
例の有名なボードゲーム、「ヘッドウィグ」の同好会。
何でも、馬車の中で叩き伏せた護衛のクラージアさんも同好会の一人だったらしく、クラージアさんが俺を推薦したんだとか。ちなみにあの人、普段は竜の巣の守衛とかやっているらしく、たまに食堂で会って挨拶する仲。まあ、その度にヘッドウィグの再戦を申し込まれるので、あまり懇意に話さないけど。
それはさておき、同好会には“竜の巣”の生徒だけでなく、教官や護衛さん、OBも参加するらしく、結構ガチめなクラブっぽい。
同好会は毎晩、竜の巣の談話ホールで行われているらしいので、気が向いたら顔を出してみるか。別に勧誘してきた女子が東洋系の美人で可愛かったから、というわけではない。断じて。
明日は特別実習の日なので早めに寝る。俺の作戦が通用するといいけど。
50日目
今日も疲れたー。まあでも、先週よりかはマシ。
というのも、俺の作戦が結構機能して、運動量が大分減ったからだ。
で、実習の経過は、というと。
最初、ジルさんの大笑いから実習は始まった。
まあ、クラスメイトが全員、魔道具らしき装備で身を固め、完全防御態勢に入っているのを見たら、そりゃ笑いたくもなる。ひどいヤツはテント型のシェルターまで持ち込んでいる始末で、こいつら実習クリアする気ないだろ、と思ったのは言うまでもない。
あのアメルも甲冑に身を包んではいたものの、その目は闘志に燃え、ギラギラしていた。話し合いでは鼻で笑われた特攻作戦を一人で試みるつもりなのだろう、と俺は思ったが、後にその予感は的中する。美しく散っていたアメルに合掌。
で、俺はディノに鞍をつけただけの裸同然。正直、最初は周りを見て、もう少し準備しとくべきだったかな、と焦った。まあ、それは杞憂になったけども。
それからは先週と同じようにティアマトのブレスと衝撃波を皮切りに、実習という名の戦争が開始。
俺は早速、ティアマトのマナと俺のマナを同調させ、ディノのテレパシーに共有させてみた。
やっつけだったが、これが奇跡的に上手くいった。
ティアマトのブレスと衝撃波の弾道が手に取るように分かり、必要最小限の動きで攻撃をかわせるように。この時は我ながら天才だと思ってテンションがだだ上がりだった。
そして作戦通り、隙を見てこちらからも攻撃を仕掛け、ティアマトにブレス直撃&課題クリアの手筈だったのだが、そうは問屋が卸さなかった。
何と、ディノのフルパワーブレスを当てても、ティアマトはびくともしなかったのだ。しかも完全に無傷。
至近距離で放てばまた違うのかもしれないが、キングオークの群れすら瞬殺するブレスをもってしても、ティアマトを動かすこと能わず。
そこで俺は遠距離からのブレスじゃ無理だと悟り、ディノから降りて、ディノにティアマトとの接近戦を挑ませた。
しかし、それもまた功を奏さなかった。
ブレスと衝撃波をかいくぐりながらディノは二、三回、近づいてブレスや体当たりをかましたものの、結局、ティアマトの防御力の前になす術はなく、実習時間は終了してしまった。
で、今日もジルさんから誉められはしたが、素直に喜べなかった俺。
ティアマトの攻撃を読む作戦は成功したが、攻撃力不足は完全に計算外だった。
被弾する心配がなくなった点については大きな収穫だけど、ディノの火力をもってしてもティアマトが動かない、となると先が思いやられる。
ちなみに、火力不足はディノのプライドを大きく傷つけたらしく、ディノは先週以上に悔しそうにしている。
今も丸まりながら「もっと自分に力があれば」とか呟いてるし、見ていていたたまれない。
…しかし、ホントどうするかなあ。正直、万事休す。
軍事レベルの重火器プリーズ。
そういえば他のクラスメイトとドラゴンは相変わらずジルさんから回復魔法をかけてもらっていたな。
準備してきた魔道具は全部大破して役に立たなかった様子。良い気味。
アメルもバトラーに乗って果敢に特攻して、他のヤツらよりかは頑張っていたみたいだけど、最後はティアマトとディノのブレス合戦に巻き込まれた。
先日聞いた愚痴のせいか、実習の後の悔しげなアメルの様子を見て、優越感よりも同情心を覚えてしまった俺。
…まあ、アレだ。俺に迷惑をかけない程度に頑張れ!(他人事)。
才女様のことはさておき、来週に向けて、また何か新しい作戦を考えねば。
ディノの火力不足を補えるようなナイスな作戦、あるいは火力の底上げができるようなマーベラスな方法。一週間の間に考え付けばいいが、望みは薄い。
…今日は疲れたのでもう寝ます。今晩は変な夢を見ませんように。