44日目~47日目
44日目
今日は飛行訓練。
体中が筋肉痛でヤバかったが、ディノに課題のコースを教えながら、俺は日蔭で休息安定。
他の生徒は例によってせわしなく隷属魔法を使いながら走り回って大変そうだった。
アメルも昨日の今日で辛そうだったな。包帯みたいなものを頭に巻いていたし。
ちなみに隷属魔法は魔法の及ぶ範囲に結構制限があるらしいが、俺とディノのテレパシーの範囲は際限が無いんじゃないかってくらいに広い。
今日も大体500メートルぐらい離れていても普通に会話できたし、マナを強めにリンクさせれば相当な距離でも会話可能だと思う。まあディノは常時俺にくっついている状態なので、試したことは無いけど。
で、訓練の後に事案が発生。
アメルが声をかけてきて、提案、という名の命令をしてきたのだ。
来週の特別実習の対策をするために、クラスで集まって話し合いをするから、それに参加しましょう、という提案。何でもアメル主催の話し合いらしい。
いつものように上から目線なのが気に食わなかったが、「別に認めたわけじゃないけど、戦力的には私とあんたが主力なんだから、絶対参加しなさいよね!」という意味合いのセリフに突き動かされて参加することに。
才女様の高慢な性格は嫌いだが、美少女のツンデレは正義。異論は認めない。
話し合いは『ドラゴンの種類と起源』の講義の後に行われるらしい。
しかし、座学を思い出して今から憂鬱になる俺。
今日はまた刺身が出た。ウマー。
45日目
『対魔物訓練』の日。
先週と同様、先輩たちの戦う雄姿を見学しようと思っていたのだが、アメルが教官に無理を言って、俺とディノは無理矢理戦闘に引っ張り出されてしまった。
アメル曰く、「特別実習のために実戦はできるだけ多く積んどいた方が良い」んだとか。所長の孫の権力に脱帽。
まあ、ディノの欲求不満の解消にはなるので、こちとら不平は無かったんだけども。
で、今日の魔物はニトロワームという巨大芋虫。
ワームは身体を無数に分裂させ、切り離した身体の断片を爆発させてくる魔物。一つ一つの爆発の規模はそれほど大きくないものの、連鎖爆発を起こすので侮れない。
無暗に攻撃すると連鎖爆発して周囲に被害が出てしまう恐れがあるため、最初、攻撃の差し込み方に幾分迷ったが、「任せて」というディノに放任することに。
結果、ディノはワームの断片を全て丸呑みしました。
飲み込むたび、ディノの腹がボンボンいっていたが、ディノ曰く、「全然平気」とのこと。
ペロンペロンと舌を使って上手く飲み込んでいくディノの姿を見て、某有名ゲームのドラゴンを思い出したのは余談か。
ちなみに、教官とアメルは目を丸くしてディノの戦闘、というか、一方的なワームの搾取を眺めていた。
アメルなんか俺に、あんなことをやらせてドラゴンは大丈夫なのか、という柄でもない心配をしてきたが、平気だと言ってやった。
あの不安げな表情を思い出すに、あいつ、ドラゴンに対しては優しいのかも、と今更ながら思う。まあ、特別実習の戦力を慮っての気づかいだったのかもしれないけど。
というか、明日は座学。気分が重い。
46日目
『ドラゴンの種類と起源』。
相変わらずちんぷんかんぷんで、もうね、ここまで来ると晴れやか、というか、開き直れる、というか、意味の分からない異国の音楽を聴いている気分。つまり錯乱状態。
一応黒板の文字はノートに書き写したけど、単語の一つ一つが辞書を引かなければ分からないレベル。外国語をやっている感覚に近いので、内容を理解する以前に、辞書を引いて文章を解読せねば。
そんな絶望的な講義の後、アメルの予定通り「特別実習」の対策を標榜したクラスの話し合いが食堂で行われた。
で、行われたはいいものの、全然まとまらなくて草。
アメルも大概だが、エリートクラスの連中は高飛車が多いこと。
ある者が意見しても、他は聞く気なし。
意見は大抵、逃げに徹して実習を乗り切る、だの、全員の魔法で結界を張って耐える、だの、基本的に逃げ腰だった。
唯一アメルだけは、特攻作戦を提案して周りから顰蹙を買っていたが、俺はむしろ好感をもった。まあ、八方から闇雲に攻める計画性の無い特攻案だっただけに賛同はしかねるが、その心意気や良し。
しかし先日、あれだけボロボロにやられたくせして、自分の意見が正しいと言わんばかりに主張するクラスメイトの傲慢さとまとまりのなさよ。
最終的にはお互いの家柄や身分を貶し始めて散々なことになっていた。貴族って怖い。
話し合い中、主催者のアメルは終始頭を抱え、俺はテーブルの隅でディノとポポムの実をつまんでました。面倒に巻き込まれたくなかったしね。
まあでも、今日の話し合いでいくつか分かったことがある。
まずクラスの中で、純粋なオリジン種なのはアメルのバトラー(今日知ったがアメルの騎竜の名前)と俺のディノだけ、ということ。
その他は基本混血で、能力もオリジン種には劣るっぽい。中には治癒能力や身体硬化能力?などを備えているものもいるらしいが、先日の結果を見る限り、個別では実習に耐えうるほどの能力は無いのだろう。まあ、アメルのバトラーでもキツいんだろうけど。
次に、クラスメイトの協調性の無さと期待値の低さ。
アメルの想定していたように、お互いに協力できれば、特別実習に向けて少しは対策ができたのかもしれない。
しかし、あの面子と様子を見る限り、一週間や二週間かそこらでまとまるわけもない。話を聞くと貴族間の派閥とかもあるらしいし、お互いに埋められない溝もあるのだろう。それを見越した上で、話し合いを画策したであろうアメルの積極性は認めるが、少し希望的観測すぎた。あれじゃあ、協力なんてできる状態じゃない。
結論としては、信ずるものは己のみ。俺はディノと二人で実習をクリアする方針で考えます。
あと、それとは別に今日は新しい発見があった。
話し合いを放棄していた俺は、ここぞとばかりに、アメルの連れていたバトラーにこっそりテレパシーを試みたのだ。
そして、何とバトラーの思考を読み取ることに成功した。
まあ、成功した、と言っても、曖昧な感情の察知に限られたが。
ディノのように思考を言語化して、明確に読み取れるのではなく、漠然とした空腹感やアメルを慕う感情を読み取れる感じ。
それに、バトラーの場合はこちらからの一方的な思考の把握に限られ、テレパシーが完全に成功したとは言えない。
つまり、隷属魔法の影響か知らないが、バトラー側のマナに何らかの「障碍」があるせいで、こちらからバトラーに思考を伝えられなかったのだ。
一応、自分のマナをバトラーのマナに接合できることはできるのだが、強引というか何というか、一方的に接合する感じで、ディノのように双方向的な感じで接合はできない。
うまく表現できないが、俺とディノの場合はお互いのマナの入力端子と出力端子を両方差し込めるが、バトラーの場合は俺の出力端子とバトラーの入力端子がかみ合わないって感じ。
ちなみに、同席していた他の混血ドラゴンにも同様にテレパシーを試みたが、これは不可能だった。混血たちはそもそもマナが弱すぎて、接合しても思考の信号を受け取れない結果に。
まあそれはさておき、これで上手くすれば、オリジン種であるジルさんのドラゴン、ティアマトの思考も読める可能性が出てきたわけだ。
そこで、俺はある作戦を考えた。
ぼくのかんがえたさいきょうのさくせんそのいち。
すなわち、相手の思考を読めさえすれば、攻撃も読める、というバトル漫画お約束の単純思考を生かして、ティアマトから受け取った思考をディノとのテレパシーに共有させ、相手の攻撃を読みながら避けつつ、さらに隙を見てディノに攻撃させる、という大胆かつアグレッシブな作戦である。
完全に机上の空論に根差した、行き当たりばったりな作戦だが、やってみる価値はあると思う。
というか、俺の頭じゃ他に考えつかないし、最悪この前みたいに逃げ回って、「いのちをだいじに」で致命傷を避けるのもアリだ。大事にできる保証は無いけど。
なんて妄言を書いたところで、今日はもう寝る。
明日は休みだが、座学の復習をしなければ。ひたすら憂鬱。
47日目
今日は書庫に篭って、みっちりと昨日の復習をする予定だったのだが、何故かアメルに捕まって台無しに。
何でも、さすがの才女様も、昨日のグダグダな話し合いは身に応えたらしい。このままじゃ成績が落ちるだとか、お爺様に良いところ見せられないとか、私情を交えつつ、クラスメイトが皆自分勝手で鼻持ちならなくて最悪だ、実習が円滑に進まない、という愚痴を延々と聞かされたのだ。
正直、愚痴を聞きながら、オマエモナー、と何度も思ったが、もちろんそんなことはおくびにも出さず、へえ、とか、ふうん、とかわざと適当に返事しながら、俺は「早くいなくなれえええぇ!!」と念じていた。
しかし、粗末な返答が逆にアメルに好印象を与えたらしく、結局夕方遅くまで俺はアメルのカウンセラーと化した。
最後は俺げんなり、アメルすっきり、みたいな表情。
アメルが去り際に「また話に来てあげる」とか言ってきたので、「遠慮しときます」と言っておいたが、疲労のあまり小声だったので、聞こえていたかどうか。
書庫の貸し出しは冊数が限られているから、自室で復習するにも限度があるし、来週以降どうすべきか、と今から頭が痛い。
どうでもいいけど、結構前にゲン爺さんの脅し文句に出てきた、バルバドスゴルフィーってドラゴンの一種らしい。印象深かったから名前を覚えていたけど、今日、図鑑で見つけた。
オリジン種の中でも滅茶苦茶惨忍なことで有名っぽい。全身鋭利な刃物で、自分の身体の一部に早贄を刺しておく習性があるんだとか。うへえ。
明日から投稿時間が少しずれるかもしれません。よろしくお願いします。