画面の中
それはただの遊びでした。本当に、偶然の、ちょっとした発見から始まったことです。
わたしの運動会の様子を、お父さんがDVDで撮ってくれました。お父さんの趣味みたいなもので、わたしの学校の行事や、弟の保育園の行事を、とにかく撮影するのです。家族の思い出なんだって。そして、ビデオカメラをテレビにコードでつないで、家族みんなで観るのが、これまた楽しいんだそうです。一度で二度おいしい、なんていつもお父さんは言います。
もう何度もしてるから、ビデオのつなげ方をわたしは覚えました。だから最近はわたしがテレビにビデオをつなげます。
いつものようにコードでつなげて、ふとテレビを見ると、面白いものが映っていいました。
テレビの画面の中にたくさんテレビがつながって見える。
それは鏡を合わせた時に見えるのと同じでした。
なんでこんなの出来るの? と思って調べたら、ビデオカメラがテレビの画面の方を向いていたからでした。
おもしろ~い!
テレビの画面の中にテレビの画面があって、その奥にまたテレビの画面があって、そのまた奥にやっぱりテレビの画面がある。その画面の列は少しカーブになって、無限に奥までつながっているのでした。
面白いからわたしは時々そうやって遊ぶようになりました。
その日はお父さんとお母さんが親戚の家に行って、わたしと弟は留守番をしました。退屈だったので、またビデオで遊ぶ事にしました。
弟とテレビの中のテレビを数えていると、奥の方のテレビに小さい黒いモノが映りました。
なんだろうと思って観ていると、画面からはみ出して、次の画面に映りました。画面をくぐるようにして出て来て、また次の画面に……。
それは人、みたいでした。
でも、顔はよくわからない。なんだか黒い人の影。
だんだん怖くなってきました。
だって、今この家にいるのは、わたしと弟だけなんだもの。
手前から四つ目くらいのところまで来た時に、わたしはビデオのスイッチを切りました。
画面は青くなって、何も映らなくなりました。
弟は残念そうに、あ~あ、見えなくなっちゃった、なんて言ってましたが、わたしはなんだか胸がどきどきして手が震えてきました。
だから急いでビデオを片付けました。
それからしばらくはビデオを観ませんでした。だって、気持ち悪かったから。
二カ月くらい経ってから、お父さんが弟のサッカー大会の様子をビデオで撮りました。それをいつもみたいに家族で観ました。
画面の端っこに、黒い頭が映っていました。その頭は時々大きく映っていて、画面の邪魔になりました。
「邪魔、この人の頭。撮ってる時は気がつかなかったんだけどなぁ」
お父さんがぶつぶつ文句を言いました。
でも私にはわかりました。
あの人だ。
画面の奥から出てきた人だ。
それからうちのビデオを観る時は必ずその人が映っています。音楽会の時は、歌っているわたしの隣に立っていました。
お父さんのお友達の結婚式の時には、花嫁さんの周りをうろうろしていました。
きっと、画面の中に住んでいるんだと思います。一人だとさびしいから、うちの家族と一緒に楽しんでいるのかもしれません。これからも映っているんだろうなぁ、と思うと、ちょっと怖いです。
おわり
たまたまうちの子供がテレビとビデオで遊んでいる光景から思いつきました。
ちょっと鳥肌が立つくらいのホラーですが、暑い晩にはちょうどかしらん(笑)。