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#28 残酷な結末

「君達は意図的に連れてこられたんだよ。この実験場に。」


「どういうことだ!?夕姫はともかく、僕は飛び降り自殺をしたはずだ!」


僕はマンションから飛び降りて自殺したはずだ。

なのに意図的に連れてこられた。


「だから、それはそうなるように仕組まれていたんだよ。俺達によってね。


つまり、"一ノ瀬夕姫と君の両親は僕達が殺した。"」


「どういうことだ!説明しろ!」


冗談じゃない。

夕姉と父さんと母さんはこいつらに殺されただって!?


「両親は分かるだろ?事故に見せかけた謀殺。ありきたりすぎて困るな。」


「夕姉は病死だったはずだ!」


「流生くん、君は彼女の病名は知っていたのかな?」


「そ、それは・・・」


病名は知らなかった。ギリギリまで夕姉は隠していたし、余命だけ言われて絶望してしまっていた。


「病死に見せかけて殺したのさ。まぁ彼女自体元々病を患っていたのだけどね。それを意図的に悪化させてさ。」


「・・・」


声も出なかった。

僕の人生を狂わせた相手が目の前にいるのだ、今すぐ殺してやりたかった。

怒り。憎しみ。それだけが僕の中に渦巻いていた。


「そうそう怖い顔するなって。君の素質が悪いのさ。

君はあまりにもこのナノマシンに適応しすぎていた。能力を使う才能もあった。

だから、君を絶望させ、壮大な願望を持たせようと試みた。そして、それは成功した。

もし、他の人があんな能力を持ってもナノマシンに耐え切れずに身体が破綻するよ。」


僕の能力。

確かにそれはこれまで会ってきたプレイヤーと比べたら、場違いの能力だ。

いや、場違いというレベルではない。


「壮大な能力過ぎてナノマシンもレベル3になるまでほとんど能力を表さなかったけどね。

そして、予想通り、能力を使いこなして俺の目の前に来てくれた。計画は8割方成功だよ。」


全てこいつらの計画通り。

僕達はこいつらの手の平で踊っていたに過ぎなかったのか。

・・・殺してやる。今すぐに。

自分の能力を使おうとしたその時だった。


「そんな君にご褒美2個目だ。一ノ瀬夕姫は死んだ。しかし、生き返らせるものがあったのではないか?」


「・・・何が言いたい。」


そして武藤は指をさす。

夕姫に。


「彼女はナノマシンによって生き返らされた一ノ瀬夕姫本人だ。もっとも、一ノ瀬夕姫だった頃の記憶はほとんど残っていないがね。」


「「え?」」


夕姫が夕姉・・・?

でも、夕姉とは容姿が違う。少なくとも、銀髪ではない。


「クックック。名前を覚えていない彼女に、夕姫と名付けるなんて、運命を感じるねぇ。それとも、心の中では気づいていたのかな?

ああ、容姿が若干違うのは彼女には別の実験体になってもらったからだよ。」


「私が・・・りゅうくんの幼馴染・・・?」


「夕・・・姉・・・?」


武藤の声は最早聞こえていなかった。

夕姫を見つめたまま、思考が完全に停止していた。



「さあ、ショータイムだ!」




「うっ・・・く・・・頭が・・・痛い・・・」


突然、頭を押さえて夕姫が苦しみだす。


「夕姫!?」


「りゅう・・・くん・・・来ちゃだめ・・・」


「武藤!何をした!」


「クックック。流生くん、最後の試練だ。


"最愛の人を殺してレベル5になれ"」


「武藤!お前は!!!」


銃を構えて、躊躇なく武藤に向かって引き金を引く。

しかし、


バチバチバチ


弾は見えない壁にぶつかり、蒸発してしまう。


「電磁バリアだよ。君達の周りに張らせてもらった。君の能力でもこれは通れまい?

彼女はもう助からない。しかも、この電磁バリアは中の生命反応が1つ消えないと解除されない。もう選択肢は一つしかないね?いや、2つあるか。」


「クッ・・・!」


夕姫を殺させる。この男は僕にそう迫ってくる。

そんなこと、出来るわけがない。


「りゅうくん・・・わたしは・・・」


「彼女の意識はしばらく残しておいてあげるよ。でも、しばらくすれば自我を持たない化物になる。どちらが彼女のためかな?クックック・・・」


「武藤!!!」


武藤は背を向けて立ち去ろうとする。

無駄だと分かっていながら、銃を乱射する。

絶対に許さない。僕から全て奪った元凶。


「りゅう・・・くん・・・」


「夕姫!」


「わたしを・・・」


苦しそうな声で夕姫が話しかけてくる。

夕姫がこの状況で言うことなんか、安易に予想できる。


「夕姫!それ以上言っちゃ駄目だ!2人で生きてここから出るって約束したじゃないか!」


「でも・・・わたしは・・・りゅうくんに・・・いきていてほしい・・・」


「夕姫に置いていかれて!僕はどうやって生きていけばいい!?それならここで2人で死んだほうがマシだ!」


約束したじゃないか。2人でここを出て、一緒に暮らす。

夕姫が夕姉だろうが、それは一緒だ。


「りゅうくん・・・」


夕姫の目から涙がこぼれ出す。

僕も、たぶん泣いている。


「りゅうくんと・・・過ごした時間・・・短かったけど・・・楽しかったよ・・・」


「僕も楽しかった・・・でも、もっと!」


「ううん・・・これで十分・・・」


「いや、十分じゃない!僕達はこれからももっとずっと一緒に!」


「りゅうくん・・・お姉ちゃんを困らせないで・・・」


夕姫の顔が思い出の中の夕姉と重なる。

そして、今までの記憶がフラッシュバックする。

僕は・・・僕は・・・


「夕姫・・・夕姉・・・僕は・・・僕は・・・!!!」


そして、世界が止まった。


流生編完結です。

次編はタイトルを変えて投稿します。

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