#1 開幕
目を開ける。
見慣れない景色。一面白の不気味な部屋。
ベッドと思われる背中に感じる肌触り。
生きている。
僕はマンションから飛び降りたはずだ。
ここは病院か?いや、そういう風には見えない。
一体ここはどこなのだろうか?と、とりあえず起き上がろうとした。
しかし、不意に右腕に重みと温かみを感じて右を見る。
僕の右腕には、見覚えのない女の子がしがみついて眠っていた。
銀髪で整った顔立ちの美少女。
制服姿だがどこか少し大人びていて、自分より年上なのだと分かる。
ここで、自分の状況を冷静に考える。
「えっ・・・えええええええええええ!?」
僕は顔を真っ赤にしながら叫んだ。
何で僕はこんな所で知らない女の子と二人っきりで寝てるんだ。
しかもめちゃくちゃ可愛いし、案外タイp・・・いやいや冷静になれ。クールだ。クールになろう。まずは落ち着いて素数を数えよう。2、4、6・・・いやいやこれじゃただの偶数じゃn
「ふぁぁ・・・おはよ・・・」
銀髪の女の子が目を擦りながら起き上がる。
「あ、あの、ご、ごめんなさい!起こしちゃいました?」
僕が震え声になりながら言う。
「ううん、気にしないでいいよ。というか、ここどこ?きみだれ?」
銀髪の女の子が首を傾げながら尋ねる。
さっきまで見えなかった、人間離れした赤色の瞳が僕の心をより一層揺さぶる。
「あ、あの、その、及川流生って言います。僕も今さっき起きたばかりで何がなんだか・・・」
また震え声になりながら僕が言う。
「ふむふむ・・・あ、流生っていうならりゅうくんって呼んでいい?」
「りゅ、りゅうく・・・は、はい。別に構いませんが・・・」
初対面であだ名を付けられるとは。何だか不思議な人だ。
でも悪い気もしないし、何故か初めて会った気がしない。
・・・こんな人見覚えないんだけどなぁ。
「あの、君は?」
「私?う、うーん・・・」
銀髪の女の子は何故か悩み始めた。
「うーんじゃないですよ。名前とか覚えてることとか聞いてるんですけど。」
「その名前が分からないのよ~ 何も思い出せないし」
銀髪の女の子はいたって真面目に答える。
名前が分からない。何も思い出せない。・・・ということはつまり、記憶喪失ってことか!?
冗談じゃない。悪い冗談に違いない。
「え、嘘でしょう?自分の名前も思い出せないんですか!?」
「うん、そうみたい。りゅうくん、好きな名前で呼んでいいよ~」
銀髪の女の子は笑顔でそう答える。
記憶喪失をここまで何の問題もないように言われると流石に拍子抜けする。
それにしても、いきなり好きな名前で呼べって言われてもな・・・。
そこでふとある名前が頭の中で浮かび上がる。
「夕姫」
僕の、今はもうこの世に居ない、姉のような人の名前。
夕姉は1つ年上の幼馴染で、高校の生徒会長をしていた。
しかし、半年前に重病で入院。僕の目の前で息を引き取った。
そしてそんな大事な人の名前が、目の前のこの女の子にはぴったりだと思った。
雪のような色の髪、夕日のような目の色、そしてなにより、雰囲気が夕姉と似ていたからだ。
「じゃあ・・・夕姫って呼んでいいですか?夕日の夕に姫って書いて夕姫。」
「うん、いいよ。じゃあ私は今から夕姫ね。よろしくね、りゅうくん。」
「あ、はい。夕姫・・・さん」
その屈託のない、とても魅力的な笑顔に心を奪われる。
というか、いきなり姉の名前を付けたりして何をしてるんだ僕は。
無神経にも程がある。
「と、とりあえずここがどこか調べませんか?もしかしたら記憶とかも元に戻るんじゃないですか?」
「うん、そうだね~。」
夕姫がそう言った瞬間、アナウンスのようなもので若い男性の音声が部屋中に響き渡る。
「ごきげんよう、皆さん。お目覚めかな?
おや、何故自分がこんな所にいるのか聞きたげな表情だね?
俺が招待したのさ。君たちに"チャンス"を与えるためにね。
今から君達10人にはゲームをしてもらう。
ここは日本から数百km離れた無人島にあるゲーム会場、タルタロスの地下10階だ。無事に地上まで出ることが出来たら、最大賞金10億円を差し上げるよ。
でもただ脱出するだけじゃつまらないから、君達全員にナノマシンを入れさせてもらったよ。
そのナノマシンには潜在能力を発現させる効果があってね、君達は今常人には使うことが出来ない特殊な力を使うことができるんだ。俺に感謝して欲しいな。
その力を使って地上までに配置されている罠や敵を退けて、見事地上へたどり着いて見せてよ!
詳しいルールは机の上の端末に載せておくから、それを見ておいてね。
じゃあ俺は地上で待っておくとするよ。君達に会えるのを楽しみにしているね!ククク!ハハハハハ!!!」
ここでアナウンスの音声が途切れる。




