#26 約束
―地下3階 12/24 午後1時 残り22時間―
ひんやりとした室内。
氷塊と化した化物を背に、もう一人の化物は歩き出す。
マスターとは一体何なのか。
この能力は一体何なのか。
問題は山積みだ。
まずは部屋から出ようとするが、扉が凍り付いて開かない。
仕方ない斬って開けるかと思った時、扉から目視で出来るほどの電気がチラッと見える。
まさか。
そう思って飛び退いたのが正解だった。扉が盛大に吹き飛ぶ。
「・・・」
扉があった場所から夕姫が近寄ってくる。顔は俯いているために見ることができない。
そして、僕の目の前で立ち止まる。
「夕姫・・・」
何も言わずに部屋に置いてきたのだ、何を言われても仕方ない。
僕は怒鳴られる覚悟を決め、目をつぶった。
しかし、
「良かった・・・無事だったんだね・・・」
怒鳴られず、逆に抱きしめられて心配されてしまった。
「う、うん・・・」
目を開けて夕姫を見る。
泣いていた。また、泣かせてしまっていた。
僕は・・・僕は・・・
そのままどれくらい経ったか覚えてはいない。
その後、夕姫に全てを話した。
夕姫は黙って、怒らずに聞いてくれていた。
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―地下2階 12/24 午後4時 残り20時間―
僕達はあの部屋から離れ、地下2階へ進んでいた。
そういえば、あの大型のロボットはどうしたのかと夕姫に聞いたが、夕姫が行ったときには跡形もなく消えていたらしい。
不可解だが、無用な戦闘は避けられたのは幸運かもしれない。
地下2階は他の階と比べて狭く、部屋が数カ所しかない。
地下1階、最終階にはルールによればボスがいるようなので、いわばこの階はそいつと戦う準備する為の階層なのだろう。
僕達はその部屋の一つで休息をとっている。
ソファーベッドにテーブル。そして、冷蔵庫。
壁の違和感を除いては、リビングのような空間だ。
あとは地下1階のみ。残り20時間もあるので、まだ余裕がある。下の階から他のプレイヤーが来る様子もない。今はゆっくり休んでおこう。
二人でソファーに座ってくつろぐ。
すると、夕姫が話しかけてくる。
「ねぇ、りゅうくん。」
「何?夕姫?」
「ねぇ・・・もし、ここから出られたら・・・りゅうくんはどうする?」
「・・・」
ここから出られたらなんて考えたこともなかった。
これまで色々なことがあって余裕がなかったし、そもそも今の僕の生きる理由が"夕姫を守ること"だ。
僕は何もかも失った。幼馴染も。両親も。
だから僕は自殺した。
もう外の世界に興味はなかった。
「私はね・・・ここから出たらりゅうくんと一緒に暮らしたいなって。」
「え?」
「私には記憶もないし、行く当てもない。私にはりゅうくんしか居ないの。
ううん、それだけじゃない。
私、りゅうくんが好きなの。だから一緒に居たい。駄目、かな?」
心臓が高鳴る。
夕姫。
夕姫。
僕は・・・
僕は夕姫を抱きしめる。
「僕も、夕姫が好きだ。
だから、僕も一緒に居たい。」
「りゅうくん・・・」
夕姫の体温、心音、何もかもが伝わってくる。
今抱きしめてるこの人が愛おしくてたまらない。
「泣いてる?」
「ううん。」
「りゅうくんこそ泣いてないの?」
「泣いてないよ。」
態勢を戻して、顔を向かい合わせる。
「「嘘つき」」
「ふふふ・・・」
「ははは・・・」
お互いに泣いていた。笑っていた。
そして、真面目な顔でこう告げる。
「僕は夕姫が好きです。ここから出たら、結婚してください。」
「はい、喜んで。」
誓いの口づけを交わす。
時間は数秒に満たなかったが、2人にとってはそれは永遠にも感じられた。




