長柄元の顛末
一年生の頃から、俺は池波志穂に気があった。池波は人見知りをするタイプなのか、あんまり傍に近寄らせてはもらえなかったが。
「ハジメちゃん、何、もしかして池波さんのこと好きなのか〜?」
「イクト、ちゃん付けで呼ぶなってんだろ!」
「はいはい、で?」
にやにや笑って俺に突っ込んでくるのは小学校の時からの幼馴染み、いや、腐れ縁だな、加納郁斗だった。こいつにはごまかしが通じないのでさっさと本音を語っておく。
「そうだ、悪いか?」
「悪くはないが、結構難しいぞ?」
「なにが?」
「池波さんは結構人見知りするタイプだから、慣れてもらうのに時間がかかる。その上で恋にまで進展させるのはなあ」
「うるさい、わかってる」
「わかってるならいいや、ま、がんばれ」
加納の気の無い応援の元、俺はじみ〜に池波へのアプローチを続けた。
そして月日は呆気無く過ぎ高校生活も2年目を迎えた。運良く池波と同じクラスになれたものの、攻めあぐねていた俺はため息をついた。
「ため息をつくと幸せが逃げると言うぞ」
「うひっ!」
後ろの席の声に振り返る。
「西片だ、一年間よろしくな」
「ああ、長柄だ。よろしく」
「いきなりで悪いんだが、長柄のため息のモトは池波さんか?」
「!」
「彼女は私の友達なんだ。良ければ協力するぞ?」
西片の強力なバックアップの元、俺は池波の視界に入るべく努力する日々が続いた。
ああ!そしてようやく!ようやく俺の努力の日々がむくわれた。昼休みに池波からチョコレートを貰ったのだ。しっかり彼女の手も握ったさ!
ああ、春だ、春がきた〜!
そっと、チョコの包をそっと開けると、中にカードが!
「♡♡♡♡♡♡」
薄いピンクの告白のカードに頬ずりをする。
「ハジメちゃん、幸せそうだね」
「ああ、幸せだ。今の俺は無敵なほどに幸せだ。お前がちゃん付けで呼んでもこの幸せ気分は無くならないぞ!やっと両思いだ!」
オレはそのカードを財布にしまい、チョコを元通りに包み直した。家で落ち着いて食べるんだ♡
「…あっそ。将を射んと欲すればまず馬から作戦成功おめでとう。これでお前は西片に大きな借りができたわけだ」
「ふ、お前が幾らこの俺の幸せに水を注そうとしても無駄だ。西片は全然貸したつもりなんかないからな。あいつは友達思いの物凄〜く懐の深いやつだ。誰かさんと違ってな」
「ふ〜ん」
「お前もさ、好きなやつからチョコ貰えばわかるって。いっぱい貰うより絶対これはうれしから」
加納は昔からチョコをたくさん貰っている。俺はそれが毎年うらやましかったが今年は違うぞ〜。
「お前に諭されるとは…。俺もやきがまわったか?」
「ほれ、イクト。部活行くぞ」
そして俺は、浮かれたまま部活をやり、家へと帰ったのだった。
「ただいま〜」
家に戻った俺は荷物を持ったまま居間に行きソファアに腰掛けた。
「にししし」
「何、無気味な笑いを浮かべてンだ?」
「ア、兄貴!チョコだよ、チョコ!」
「へーへー、よかったな。つーかさっさとシャワー浴びてこいよ。汗臭いぞ」
「うえ!?」
慌てて自分の匂いをかいで俺は風呂場に走った。
迂闊だった。風呂からお上がった俺を待っていたのは残り一つとなったチョコレートの箱の残骸を囲む母親と兄と弟だった。
「何やッてんだよ!」
「ハ?義理だろ?」
「そうよ、けちけちしなさんな」
「にいちゃん、これ美味しいぞ」
「バカ〜!そりゃ本命だ!」
「「「えっ!!!」」」
ぐれてやる〜!




