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Chocolate  作者: 丁 謡
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山瀬宏美はのどかな放課後を

放課後、わたしは、図書室の奥の机で西片語録を書いていた。

「山瀬さん、何を書いてるんだい?」

頭の上から好い声が降りてくる。心持ち頭をその方向へ向けて応える。

「皆藤先生、これは西片語録です」

言われた先生はハトが豆鉄砲をくらった顔をしている。まあそうだろう。

「はい?」

「同じクラスの西片亜紀の言った発言をまとめてるんです」

先生は眉を顰めてさらに難しい顔をした。

「西片さんの発言?向こうでお茶飲みながら話してくれる?」

先生はそういっていつものように、司書室へとお茶に誘ってくれた。先生は紅茶を出してくれた。

さて、西片語録であるが、友人であるニッシーはしょっちゅう穿った物の見方をする。そしてそれをためらうことなく口にする。

ま、もっとも言った内容を実行することはないのでその点は良識人だとは思うのだが。存外その発言がわたしの物書きの発想をいたく刺激し、自分がかく話しにかなりの味を与えてくれる。

「面白いんですよ、彼女のブラックな発言の数々」

「黒いの?」

「ええ、ブラックユーモアです」

ためらいがちに先生は口を開いた。

「例えば?」

「そうですね‥?昨日のテレビ番組の話からだと…」

「うん」

「『彼、夫に言われてかちんと来た台詞』って言うのでですね、朝、旦那を起こし損ねた奥さんが言われた台詞で、『壊れた目覚まし時計はいらないんだよ!』って言うのがあったんですけどね」

「ひどいなあ。自分で起きれば良いんじゃないのか?」

「まあ、そう思いますよね。もしくは大事な用があって絶対起こして欲しいなら前の日にちゃんと言っておくべきだとかね」

先生はそうだねと頷いている。

「ニッシーはそう思った上でさらに報復の手段をそこで口にする訳ですよ」

「ほ、報復なの?」

「ええ。相手にとって一番打撃が大きいのはどの発言且つ状況だと思うかとにやりと笑って聞きます」

「…。」

「その1。言われたその場で速攻『では修理にでてきます。』とにっこり笑って家を出る。その2。『姑く修理にでています』と帰宅した旦那が書き置きを見つける。その3。『直してくれる人のところにいきます』と旦那のメールに入ってる」

さらに彼女はそれぞれのシュチュェーションなんかを微にいり細にいり言っていたがその部分は一応端折っておく。池ちゃんもそれを聞いて目を丸くしていたから、おそらく似たようなタイプの先生にはちと聞かせられない。

「…どれも物凄く痛いような気がするんだけど?」

「そうでもないですよ?その1ならその場で関係の修復をはかる可能性が他の場合より大きいです。すぐにその場で引き止めて自分の発言を謝れば事なきを得ます。まあ、謝らなかったり捨ておいた場合は目もあてられませんけどね。その2に関してはまあ実家に帰ったか、友人のところにでもいる可能性が高いですからあたりがつきやすいですから謝りにいけばこれもまあ、なんとか関係改善は得られます。3に関してははっきり別の人のところにいくもんねと言い切ってますからまあ改善の修復は困難かなと。」

「…」

「そしてあいつは最後に笑っていいきりやがりましたが」

こわごわと先生はこちらに視線を向ける。

「旦那が帰ったら机の上に妻の部分が書き込まれた離婚届が置いてあるってのが一番痛かろうと。前の3個に関しては一応コミュニケーションを取ろうとしてますからね。無言でバッサリはもうおしまいかなと」

「…そうだね。でもいくらなんでも、問題発言で離婚っていうのは?」

「時と場合に拠ります。ずーっと旦那の暴言に言い返さず堪え難きをたえ忍びがたたきを忍んできた奥さんならキャパを越えたらそうなることだってあると思いますよ?まあ、相手に不満を溜めさせないのが長く付き合うコツだと内の両親が言ってました」

「はあ。なんか、物凄く重みのある発言だね」

「ええ。ニッシーの発言を聞いて内の親夫婦ならばどうなるかシュミレーションできましたから」

「うん」

「父が、ポロッとそんなこと言ったら、母はその場で速攻切り返してますね、直ぐに修理に行ってきますって。それで父はハッとして謝り倒して、母の好物なりを買ってきて懐柔をはかると思われます」

「なるほど」

「『テメエで起きろや』と言えば角が立つけどにっこり笑って『ほな修繕にいってきま』と言う方が相手は謝りやすいかと」

「そうかな?にっこり笑うその目が笑ってなくて、もしかして自分は捨てられてしまうかも知れないと思わせるところが技なんじゃないかな?」

「あはは、そうですね」

「…肯定な訳ね?」

「?」

「まあいいや。僕は間違ってもそんな俺様発言しないから」

にっこり笑って、けれどいたって真剣な目で先生は宣った。はて?

「ところで山瀬さんは今日誰かにチョコをあげたの?」

さり気なく先生がヴァレンタインネタを振ってきた。

「ニッシー達と友チョコ交換はしましたね。父には家に帰ったらブランデー入りのをあげる予定です」

「ふーん」

何やらつまらなそうに先生が返事をする。む?これは期待されてるのだろうか?

「先生は貰ったんですか?」

「誰もくれる人が居ないんだよ~」

何やらおくれと言われている気もしなくはないが?

「長柄もそういってちゃっかり池ちゃんから本命チョコゲットしてましたね」

「え、そうなの?長柄のやつ上手くやったなあ~」

「ああ、そうだ。チロルチョコならありますよ?」

そういって鞄をごそごそあさって、コンビニで買ったチロルを先生の掌に落とす。

「ありがとう。?」

何やらうれしそうに笑っている。ふむ、世話になってるからもっとましな物をあげれば良かったか?何やら首をかしげているのでどうしたのか聞く。

「チロルチョコってこんなに大きかったッけ?僕の子供の頃はもう少し小さかったような気がする?」

「ああ、コンビニのはバーコードを印刷するためにサイズが大きいんですよ」

バーコードには規格サイズがあって従来の¥10のチロルには印刷できないのだそうだ。

「そうなんだ!知らなかったな~。一つ賢くなったなあ。山瀬はいろんなこと知ってるんだなあ」

そういって先生はいそいそと包装紙を剥いて、チロルを口に放り込んで幸せそうににんまりと笑っている。なんだかこっちもほのぼのしてしまう。

「はあ、どうも」

私は入れてもらった紅茶を口に含んだ。昼休みとは違って穏やかな放課後の時間が流れていく。

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