父の死
栄男の父・正信に、赤紙が届いた。
正信は、戦場へ向かうのだが……。
「畜生ッ!」
正信は右肩を撃たれた。おびただしい量の血が、どっとあふれ出た。
「アメ公めぇ……!!」
彼の勢いは、負け続ける日本軍に遡るように、増していった。
「ぬおおおおお!」
銃を一発撃てば、敵は一人倒れる。が、仲間も一人死ぬ。
戦友は爆風に足をもぎ取られた。
血しぶきの中、足のないままグルリグルリと廻った。
やがて、静かに倒れた。
静寂は一瞬だ。また敵の爆撃は始まった。
「くそうっ!負けてたまるかッ!」
正信は勢いよく飛び出し、銃声を鳴らし続けた。
しかし、後ろではまた、一人死んだ。
心臓から足の底まで、銃弾が貫いている。
声を上げて、倒れる者もいる。目玉は焼けていた。
まだ若い兵士は、「お母ぁさん……」と叫び、倒れた。胴体の形はほとんど無かった。
正信は思うのである。
(家族が家で待ってるが、ここで死ななければ、俺は戦友にどうやって詫びれば良い?どうも詫びることは出来ない。俺がここで死ねば、日本はきっと……)
手榴弾を握った。
倒れた仲間の者も、拾い集めた。
すっと大きく息を吸って、勢いよく飛び出した。
疾風のごとく彼は駆けた。
銃弾が体に食い込む。
痛さなど、無い。
ただ、自分の目の前には、死の道が広がっていた。
(栄男……栄男……栄男……)
心の中で、叫び続けた。長男のことを。
もう自分は帰れない。日本のために散るのだ。
日本の勝利の、先駆けとなるのだ……と。
「ぬおおおお!万歳!」
ドンッと大音がし、大地は砕け散った。
彼は、先駆者となったのだ。




