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赤紙

 戦況が途端に苦しくなったのは、ミッドウェー海戦からだった。

 大日本帝国海軍は、アメリカ軍に初めて破れたのだ。

 しかし、日本の人々は知る由もなく、日本の戦況は優勢だと考えていた。アメリカはもうすぐ降伏し、日本は軍事大国として栄えるだろう・・・と。


 ちょうど、その時期だった。栄男の父・正信に、赤紙が届いた。

 登美子は、正直めまいがするほど驚いたが、日本を信じていた。

(日本軍にいれば・・・死ぬ事なんてない・・・)

 しかし、子供達にだけは、戦争に行って欲しくないと思った。女がいなかったので、怖れも十分あったが、一人は絶対いやだったのだ。


 父の出発の日、子供達は目を輝かせて、軍服を眺めた。

「かっこいー、かっこいーなぁ。僕も軍人さんになりてぇ」

 勲はそう言った時、登美子の顔が急に強ばった。栄男はそれがどうしてか分からなかったが、何となく察することはできた。


 しかし、栄男は悟った。登美子の思いを、必ず裏切ることになるだろう。この戦渦に巻き込まれるだろう。どう逃げようと、どうしようもないことである。

 第一に、彼は軍人になることが夢だったのだ。小さい頃から、軍人はかっこいいと思っていた。そして、父の軍服姿を見て、心の中で決心したのだった。

(軍人になってみせる・・・)

 日本は最強の海軍の持ち主だ。そこに入って、アメリカを負かしてやる!

 彼の心意気は、相当なものだった。が、母の寂しそうな視線は、ずっと変わらないままだった。

(……でもやっぱり、軍人になりたい)



 あちこちで、日の丸が靡いていた。

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