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神の隠し子〜教会の前で赤子を拾った退役聖女ですが、どうやらこの子狙われているようです。〜  作者: メアリー=ドゥ


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勇者との出会い【後編】


 貧民街の劣悪な環境でオーディアが生き抜けた理由は、『聖女の素質がある』という幸運に恵まれていたから、だった。


 慰霊像の下からは、フリギィオの問いかけ通り、聖女が来る来ないに拘らず何故か常に聖気が発せられていて、むしろその聖気を取り込んで力を増すことが出来た。


 後々、オーディアが聖気を取り込んでいたから貧民街全域の瘴気浄化が行えていなかったことも知ったが、当時は全く何も知らなかったのだ。


 そもそも、聖気を取り込むことが出来るのも聖女や聖人だけだと、後々知った。


 その聖気は病だけでなく、劣悪な環境下でも体調を崩しもしない程に、体を守ってくれた。

 食事が少なくとも、聖気が代わりにオーディアの健やかな成長を助けてくれた。


 さらに、オーディアにとって幸運だったのは、後に『称号持ち』になる聖女の中でも『生きる』ことに特化した力を与えられていたことだった。


 〝破邪の聖女〟の力は、イキモノを殺す(・・)為の力だったのだ。


 桁外れの治癒の力を備えていたオーディアは、自らの傷も病も瞬く間に癒せた。

 ただ力を放つだけで、寝所の瘴気を浄化することが出来た。


 あまりに強い治癒の力だった為、滅ぼせるのは瘴気を糧とするイキモノだけではなかった。

 オーディアの体に触れた他のイキモノに力を流し込むだけで、自然治癒能力を暴走させ、命を奪ってしまう程だったのだ。


 幼い頃に、食い扶持を奪おうとした浮浪者も。

 力に目をつけて、捕まえて売り飛ばそうとしてきた暴漢も。

 美しく育ったオーディアを犯そうとしてきた強姦魔も。

 稀に襲いかかってくる魔物も。


 全員、触れた箇所から破邪の力を流し込むだけで、物言わぬ屍になった。

 だから別に、フリギィオにも恐れは感じていなかった。


『ここは死体が随分多いな』


 慰霊像のところに案内する道すがら、フリギィオがちょっと複雑そうな口調で話しかけてくるのに、オーディアはいつも通りに答える。


『オーディアは強いイキモノ。だから生きる。他は脆いイキモノ。だから死ぬ』

『人の死は、あまりなんとも思わない?』

『思わない。触れるのなら(タッチ・オーディア)追い詰めて(サーチ&デス)殺す(トロイ)。それが決まり』


 死なないで済むだけの力、殺されないで済むだけの力を持って生まれた、強いイキモノ。


 それが貧民街でのオーディアの扱いだった。


 けれど周りはあまりにも死が身近で、どれだけ生きても最後には死ぬのだと、呼吸をするようにそう思うようになっていた。


 だから『生死』に意味を見出すことはなかった。


 怪我や病気や事故や捕食や天災や老衰で、ただ死ぬ為だけに生きているモノが、オーディアを含むイキモノという存在だった。


 だから、自分の命にすら興味も関心もなかった。

 他のイキモノは、害をなさない限りそこにいるだけのモノだった。


 ただ、浄化しておかないと魔物が寄ってきて煩わしいから、貧民街を浄化して回っていた。

 ただ、腹が減れば食物を食べ、喉が乾けば水を飲み、眠くなれば寝ていた。


 けれど、自分の為に気まぐれに浄化をし、死なれると処理は面倒だから傷や病を癒すオーディアを、崇める者もいた。


 貧民街に王国の法はなかったが、それでも最低限の人の営みと野生に近い規律はあり、貧民街の者たちは強いイキモノ……オーディアを恐れ、あるいは勝手に従っていたのだ。


 オーディアから何かを命じることはなかったが、たまに助けてくれと声をかけてきた時は、助けてやった。

 けれど、そうした全ての事象に興味を抱くことはなく、ただ生きているだけだった。


『ついた。ここが寝ぐら』


 慰霊像の前に辿り着くと、フリギィオは一つ頷いた後に、ニヤリと笑った。


『今から、一つ提案をしたいんだが』

『何』

『俺は今から、この聖気の発生源を引き抜いて持ち去る。そうすると、君は困ったことになると思う』


 そう言われて、オーディアは本能的に『それは困る』ことを悟った。

 だから『害』と判断し、彼に手を伸ばしたが、するりと避けられてしまう。


『殺そうとしないで、話を聞いてくれ。代わりの提案だ。ここを出て、聖気の源と一緒に、俺について来ないか』

『……?』

『死が悲しくないなら、別にこの場所に未練はないんだろう?』


 と、フリギィオはぽん、と甘い果物を投げて寄越す。

 美味しいやつ、と受け取ると、彼はさらに続けた。


『ついて来れば、それ以上に美味しいものもたくさん食べられるし、着る物も水浴びも、もっと上等な環境を用意できる。代わりに、今までのように聖気を取り込んで、強いイキモノである君の力を貸して欲しい』


 オーディアは、初めて興味を惹かれた。


 ーーー美味しいものを、たくさん。


 貰った果物以上に美味しいものがこの世にあるのなら、それは食べてみたい、と初めて思ったのだ。

 

 この時のオーディアは、ただ生きているだけの存在だった。

 それは何も知らず、何も与えられず、衣食住の全てが劣悪で、仲間がいなくても何も不自由せず、そこに意味や価値を見出せなかったからなのだと、後に知った。


『行く』


 フリギィオの言う通り、オーディアに貧民街への未練はなかったのだ。

 生まれ育った場所のことを『悲しい場所』なのだと感じるようになったのは、もっとずっと後のことだった。


 彼はオーディアの返事を聞くと、慰霊像の足元に跪き、地面に手を当てて何かぶつぶつと言い始めた。


『戦女神の御名の下、力在る者は守り手たれ。功罪に報いを、人に絆を、剣と情の天秤を定めし者よ。その魂は永劫となる』


 フリギィオの体を聖気が包んで渦巻くと、地面の下にあったものが同調して、徐々に迫り上がってくる。


 やがて出現したのは、真っ白な聖剣だった。


『ここの王家の伝承でね。必要になる時まで、必要とする場所に埋めて封印されていたものだ。今の君に言っても分からないとは思うけど、俺は勇者ってやつらしい』


 はは、とフリジィオが笑った通り、その時のオーディアには意味が分からなかった。

 

※※※


 数日経ち、服や環境などが一変した状況にようやく慣れてきた頃。


 フリギィオは、一目見てオーディアが『称号持ち』と呼ばれる類いの聖女だと気づいたそうだ。

 実際にすぐ、教会で初めてグラン・マと出会い、きちんとそれを認められた。


 でも、彼がオーディアを誘った理由は、それではなかったらしい。


 宿屋に滞在して王都で旅の支度を整えながら、何も知らないオーディアに様々なことを話してくれたフリギィオは、その日ふと、自分の話をしてくれた。


『俺は故郷を、魔物に壊滅させられてね。生き残りはほとんどいなかった。すごく悲しかったよ』

『だから?』

『悲しかったっていうことは、それまでその人達と一緒にいて楽しかったし、幸せだったってことなんだ。どうでもいい相手や嫌いな相手が死んでも、そんな気持ちにはならないからね』


 貧民街での君みたいに、とフリギィオは続けた。


『この王都も、放っておくといずれ同じようになるだろう。君はそれに対して、何も感じないと思うが』

『そうね』

『俺は、君の言う脆いイキモノのそうした状況を、悲しいと思うようになって欲しいって、勝手に思ってるんだよ』

『何故?』

『言っただろう? 別れが辛いということは、それまでにたくさんの、楽しい思い出があったってことなんだ』


 フリギィオは、そう言って笑みを浮かべたまま、片目を閉じた。


『君は、生きていることに意味を感じていないように見える。それは凄く勿体ない、って俺は思うんだ。だからいらないおせっかいかもしれないけど、オーディアには楽しい思い出をいっぱい作って、いっぱい笑って、いっぱい幸せになってみて欲しいと思う』

『どんな意味が?』

『楽しいとか嬉しいって、小さいことだと、食事が美味しいっていうのも、その一つだ。オーディアは食事の時、いつも幸せそうに見える』


 言われて、オーディアはフリギィオと出会ってからの食事を思い浮かべた。

 それを食べている時の気持ちが幸せというものだと言われて、率直な感想を述べた。


『ご飯は美味しい。それは、とても良いこと』

『そうだろう? 楽しいとか幸せってのは、良いことなんだ。良いことだから、無くした時に悲しいけど……将来無くすかもしれない悲しさより、今楽しいことの方がよっぽど大事だと思うんだよ』


 フリギィオは笑い、最後にこう続けた。


『そうしてオーディアが、幸せがどういうものかを知って、俺みたいに皆とそれを分かち合いたい、と思えるようになったら……俺が君を誘ったのは大成功、ってことなんだ』

『よく分からない』

『今はそうだろうね。もし全てが終わった時にお互い生きてたら、その答えを聞かせて欲しいな。良かったか、悪かったかをね』


 ーーー良くもあり、悪くもありましたよ、フリギィオ。


 サイエンから弾薬とパイルバンカーを受け取り、双子と共に教会に帰る道すがら、オーディアは空を見上げて内心で告げる。


 彼の言う通り、オーディアは幸せの意味すら分からない、狭い世界で生きていた。

 楽しい、嬉しい、そういう気持ちを知って……フリギィオとの別れがあって、胸が引き裂かれるくらいに、悲しくて。


 そうして今、だ。


 ーーーフリギィオ。わたくしは、今なら貴方の言葉の意味が、分かります。


 かつては、脆いイキモノとしか思えなかった者たちを『人間』として認識出来たこと。

 そんな脆いイキモノの筆頭である赤ん坊を……ミルを初めて見かけた時に、オーディアは思ったのだ。


 いたわしい、と。

 そして、愛おしい、と。


 そう感じられるように、なっていたのだ。


 ーーーフリギィオ。貴方がいたから、今のわたくしがあります。


 楽しさと嬉しさと、幸せをたくさん知ったから。

 悲しみも辛さも同じくらい、たくさん知ったから。


 オーディアは、あの子の守り手になれる存在に……〝貧民街の不可侵暴力(アンタッチャブル)〟から、〝破邪の聖女〟に、変われたのだ。


 フリギィオと共に、生きたから。


 だから今、ミルを狙う邪悪を退ける『神の兵士』として。

 また、〝神の隠し子〟の母として、この場にいられる。



 ーーー功罪に報いを。ミルを狙うモノには……戦女神の御名の下、サーチ&デストロイですわ。

 

 


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