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神の隠し子〜教会の前で赤子を拾った退役聖女ですが、どうやらこの子狙われているようです。〜  作者: メアリー=ドゥ


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勇者との出会い【前編】


 ーーー10年前。


 オーディアは物心ついた時から今まで、常に死と争いの側に居た。


 その争いは、戦争ではなかった。

 生存競争という、容赦無く苛烈な、生存本能に根差した争いの中にいたのだ。


 親は知らない。

 家族もいない。

 食べるものにも窮する場所で、オーディアは、ただ生きていた。


 だからフリギィオと出会った時も、周りには地獄の底のような景色が広がっていた。


『君は、何故こんな場所で生きているんだい?』


 そこは、貧民街だった。


 家もない人々が無造作に土の上に寝そべり、その横にはそのまま死体になった者が転がっているような場所。

 腐臭が漂えば、場所を空ける為に川か肥溜めに投げ込まれるような、そんな景色が日常茶飯事だった。


 家も家で、細い柱に支えられたそれらには屋根がなく、雨風がなくともいつもどこかで倒壊が起こり、そこで潰された死体が転がっていてもやはり誰も気にしない……そんな場所だった。


 特に、王国の人々が高台から残飯やゴミを放る場所の周りは、飢餓との戦いも頻繁に起こっていた。


 ハエが無数に舞う中で、少しでも食べられそうなものを漁るガリガリに痩せた子どもを、大人が蹴り飛ばして食い扶持を奪う。

 そこにも幾らでも死体が転がっていて、鳥が死肉を啄み、街の人々からすれば鼻が曲がるような臭いが全体に立ち込めている。


 極め付けは、そこが氾濫地……雨で増水した川が街を流さないよう、予め水没するように定められた土地であることだった。

 少しでも雨が続けば、人も、建物も、全て水が押し流して一度綺麗(・・)になる……そんな『当たり前』が日常だった。


 貧民街の民は勝手に集まった人々であり、王国の人々にとって『住人』ではなかった。 


 森が近く、魔物もしょっちゅう『餌場』として襲い来るのに、逆に魔物を殴り殺して肉を喰うような……貧民街は、そんな地獄だったのだ。


 だから、『何でこんなところで暮らしているのか』と、フリギィオは問いかけたのだろう。

 けれどあまり人と関わることがなかったオーディアは、『生きている』という部分の意味を取り違えて、こう答えた。



『ここに居るイキモノの中で、一番強いイキモノだから。だから殺されないで生きてる』



 その答えに、彼は目を瞬いた。


 たまに見かける聖女や兵士ら、あるいはこの貧民街の住人になる為に足を踏み入れる者のように、小綺麗な格好をしている男。


 何故か話しかけてきた。

 オーディアは彼のことをそう認識し、ただそれだけだった。


 自分以外のイキモノは、食料を奪うか奪わないか、害をなすかなさないか。

 この頃はそれだけが重要で、それ以外はどうでも良かったのだ。


『一番強いから、か。それは意外な答えだな……よければ、名前を教えてくれないか?』

『オーディア。他のイキモノは皆、そう呼ぶ』


 名前の由来に興味はなかった。

 この頃のオーディアは、自分というイキモノを認識するのに、他のイキモノがそう呼んだ、という事実を知っていただけだった。


『オーディアか。俺はフリギィオ。この辺りに聖気を発するものがあると思うんだが、君は何か知らないか?』

『セイキとは』

『聖気が分からないか……ええと、君が纏う、その力のことだ』

『知っている』


 彼の質問に、オーディアはそう答えた。


『イキモノの形をした石の下に、この力を発するモノがある』


 オーディアが住んでいたのは、唯一決して、川の氾濫で流されないものの近くだった。


 その頃は知らなかったが、戦女神の慰霊像の前だったのである。


 戦場となった場所やオーディアの住んでいた貧民街など、多くの『死と苦しみ』が立ち込める場所には、瘴気が淀みやすい。

 その為、空気を浄化する慰霊像だけは建てられていて、王国の兵士らが管理しており、聖女が手入れをして、定期的に聖気を込めていた。


 しかし、オーディアの目から見て、それは全然『足りない』ものだった。


 確かに女神像の周りは、瘴気が薄まり清浄な空気に触れられるが、それだけ。

 聖女が来ても、貧民街の半分くらいまでしか力は届かない。


 土地に淀む聖気を完全に瘴気を浄化し切ることが出来ず、多くの者が争いだけでなく、瘴気を原因とする病に倒れていた。


『その石のところに、案内して貰えないか? 謝礼は支払う』

『シャレイとは』

『それも分からないのか……? カネは分かるか?』

『知らない』

『参ったな……』


 フリギィオは頭を掻き、う〜ん、と悩んだ後。

 オーディアが手にしているものを見て、ふと腰に手を伸ばした。


 そこから取り出したのは、何か丸いものだった。


『これは食べ物なんだが、こういうのはどうだろう? その手にした残飯よりは美味しいと思うんだが』


 オーディアは、彼が差し出したものを見つめた。

 たまに残飯の中に混じっている、腐りかけの甘いものに似ている。


『果物なんだけどね。一個あげよう。美味しかったら、案内してくれたらもう一つ、でどうだろう?』

『分かった』


 オーディアは残飯を一度捨てて、フリギィオからそれを受け取った。


 毒が仕込まれていても、全く問題なかった。

 果実は食べたこともないくらいに美味しく、満足したオーディアはフリギィオを案内した。

 

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