赤子のお世話をお願いしました。
「あらあら〜、それならいいものがあるわよ〜♪」
食堂に訪れたサイエンに、旅人や双子の見たものの話をすると、ふんわりとした笑顔でそう告げられた。
「良いものというのは?」
「こっちに来てくれるかしら〜。あ、アクス〜? スルスとミルちゃんをお願いしても良いかしら〜?」
「おう」
答えたのは、表の掃き掃除を終えて戻ってきた筋骨隆々、日焼け肌にスキンヘッドの大男……サイエンの夫であるアクスである。
二人は、【不死兵団】所属当時『美女と野獣』と呼ばれた夫婦であり、やっかみ混じりに『なんでコイツなんだよ!』とアクスが罵られるのが常だった。
しかし彼は言葉こそ粗野ではあるものの、非常に気が優しくマメな性格の男性なので、オーディアは昔からお似合いだと思っている。
「じゃ、お願いね〜♪」
「よろしくお願いします」
アクスは、両手に赤子を抱えて嬉しそうに『任せとけ』と答えた。
双子とオーディアを先導して、鼻歌を歌いながらサイエンが店の奥へと歩き出す。
「こっちよ〜♪」
サイエンは、茶色の髪に同色の瞳、垂れ目で優しそうな顔立ちをしている。
喋り方だけでなく動きも緩やかで、子どもを産んだばかりということもあり、元々大きかった胸元はさらに膨らんでいた。
おそらくは『母性的』と言われるタイプの女性だ。
彼女は常におっとりとしており、正直戦場の最前線にいるには全く向かない人材だと思われていた女性である。
が、彼女には非常に優れた点が二つあった。
一つは、常に笑顔を絶やさず、物事に一切動じないこと。
それは平和な時……例えば安全な場所で皆で歓談しているような時だけではない。
腹を抉られて内臓が溢れているような重症者を前にしても、死にかけた恐怖のあまり錯乱して暴れているような兵士を前にしても、全く変わらないのである。
『大丈夫よ〜、すぐに治してあげるわね〜』と、その動きからは考えられないような的確さで、重症者の治療にあたり、あるいは暴れている相手を慣れた手つきで縛り上げる。
そうして、肉体や精神を治療していくのだ。
確かに戦場にいるには向かない人ではあるけれど、彼女の明るさと動じなさは皆の心の平穏に必要なものだった。
もう一つは、彼女の〝加護の聖女〟としての能力を生かした、ある趣味である。
「ここが〜♪ 隠し倉庫よ〜♪」
と、案内されたのは、食料を補完する倉庫の奥にある、地下への階段だった。
少々狭いそこを降りると、上の宿と居住スペースを合わせたくらいの空間が広がっている。
そこに所狭しと並んでいるのは……爆弾や銃、剣などの兵器や、ローブに鎧、果てには小型のゴーレムなど、ありとあらゆる装備品だった。
「新しい魔導陣を組み込んだ、新型の杭打ち機を作ったのよ〜♪」
ニコニコとサイエンが持ち上げたのは、銀の杭を装填した、腕に巻きつけるタイプのパイルバンカーだった。
オーディアが前線に立つ際に持っていた、主兵装である。
「杭を発射すると、魔力で出来たチェーンを作り出す機構で〜♪ チェーンを消せば手元から離れるし〜、付けたままなら相手も引き寄せたり巻き付けたり出来る優れものよ〜♪」
恍惚として語る様子が、〝加護の聖女〟サイエンのもう一つの顔だった。
『物品に女神の加護を与える』というのが、〝加護の聖女〟の持つ力である。
その天啓を与えられた彼女は、元々貴族、それも高名な魔導具師の家の生まれであり、重度の魔導具オタクだったのだ。
その知識と才覚を生かした趣味によって、サイエンは『魔銃』を生み出したのである。
弓よりも簡単に扱え、かつ殺傷力を持つその兵器は、全軍に行き渡るような量産は不可能だった。
聖気を込めたり加護を与えたり魔導陣を極小で描いたり、と、様々な制限があって彼女にしか作れないことや、材料が基本的に高価な破邪銀であることなどが理由である。
しかし軽く取り回しやすく、かつ強力なそれらの武装は、身体能力を強化する防具も含めて、オーディア達『加護持ち』の聖女に多大な戦闘力をもたらしてくれた。
戦場の最前線で、【勇者小隊】と並んでも見劣りしない程の力を。
今、教会に住む聖女達が身につけているシスター服も、彼女の作り出した魔導防具の一種である。
研究を続けていることは知っていたけれど、まさかまだ改良したものが出てくるとは思っておらず、オーディアは驚いていた。
「助かりますが……良いのですか?」
「どうぞ〜♪ オーディアには〜、退役の時にも結婚式でも、いっぱいお金を貰ったもの〜♪」
「そういうつもりで渡したわけではなかったのですが」
オーディア自身は、教会に住むことが決まったこともあり、そこまで多額の金銭が必要ではなかったのだ。
故に、自分が退役に際して国王陛下にいただいたものを、ほぼ全てサイエンの祝いごとの時に譲っていたのである。
「私も楽しいし、良いのよ〜♪ あ、クーロちゃんとシロンちゃんも、銀の弾丸が必要ならいっぱい持って行って良いからね〜♪」
「サイ姉ぇ、凄く助かるよ」
「サイ姉ぇ、ありがとうね」
双子が頭を下げるのに、オーディアも同じように頭を下げた。
「助かります。それに、丁度良かったです」
「丁度いいって〜?」
サイエンが首を傾げるのに、オーディアは微笑みを浮かながら答えた。
「今回の相手は、吸血鬼のようですから。破邪銀の杭で心臓を貫けば、それだけで始末出来るでしょう?」
その言葉に、サイエンは納得したように頷いた。




