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神の隠し子〜教会の前で赤子を拾った退役聖女ですが、どうやらこの子狙われているようです。〜  作者: メアリー=ドゥ


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魔神の正体。

 

 オーディアは、悔恨かいこんを口にするフリギィオのことを。


 ーーー変わらないですね。


 と、そう思った。


 基本的に面倒臭がりなのに、人のことになると……それが喋ったことのない相手であっても……抱え込む辺りが、オーディアとは少し違うところだった。


「皆、どう思われますか? わたくしは、『コレ』はフリギィオであると感じますが」


 まだ聞きたいことはあるが、一旦オーディアはそう問いかける。


「っぽいなー、って思うゅ☆」


 イロカが賛同し。


「ボクは、まだ疑わしいな」

「ウチも、まだ疑わしいよ」


 双子が、先ほどの通りに疑念を呈す。


「サイエンはどうです?」

「フリギィオくんだと思うわ〜」


 サイエンは、ニコニコと応じる。


「事態の推移を考えたら、少なくとも敵じゃないだろうね」


 次いでマムがそう口にし、グラン・マに目を向けた。

 同じ状況で自分の処遇を決められたヤフレーがヴェルザと目を見交わす横で、いつも通りに、グラン・マは最後に答える。


「双子がネックレスの過去と、フリギィオの魂の未来を見れば、『コレ』がどっちかは確定するね。後で、そうおし」


 賛成でも反対でもない意見だったけれど、確かに、それが一番手っ取り早い。

 双子に『良いですか?』と目で問いかけると彼女らは頷いた。


「では、質問を続けますが」

『ああ』

「何故、魔神の魂は消滅させられなかったのです? あまりにも強大だったから、ですか?」


 聖剣の一撃で、心臓……あるいは、魔神の魂の台座が粉砕されたのである。

 その魂が全くの無傷、ということはあり得ないのではないか、とオーディアは思ったのだ。


 しかし、フリギィオの返答は予想外のものだった。


『いいや。消滅させられなかった理由は、魔神の魂が邪悪ではなかった(・・・・・・・・)からだ』

「邪悪ではなかった……?」


 あれ程に荒れ狂い、無数の魔物を生み出し、濃い瘴気を身に纏っていたのに。

 しかしフリギィオは、淡々と言葉を重ねる。


『肉体が瘴気の力でどれ程強大なものになったとしても、無垢の魂や聖気を纏う魂に、破邪の力は通じないからね』


 そうして彼が口にした魔神の『正体』に、全員が息を呑んだ。



『魔神の核になっていたのは、魔神を復活させる(・・・・・・・・)為の生贄に(・・・・・)捧げられた(・・・・・)無数の赤子の魂(・・・・・・・)だったんだ』



 それが、理由。


「……確かに、魔神の正体がそれなのであれば、無垢なる魂ですね」

『そうだろう? 魔神という存在がそうして生まれるなら、俺が今まで感じていたことや、世間で言われていたことは間違っているのかもしれない』

「どう感じていたのです?」

『あの時まで、俺は魔神を『魔性』や『魔獣』の一種だと思っていた。だが、魔神が世界を深淵の混沌に戻すモノだというのなら、それは『終わり』であると同時に『始まり』の存在なのではないか、と感じた』


 するとグラン・マが珍しく、自分から口を開く。


「……世界が混沌に戻るなら、それは人や生物にとっては破滅と同義。しかし魔物らにとっては、あるいはこの世界にとっては違うのかもしれぬの」

『そうだろう?』


 魔神は、人にしてみれば生存を脅かす『邪悪』である。

 しかし世界にとっては、全てが原初の状態に戻る……ただ、それだけの話だと。


 話を聞いて、オーディアは。


「では、正体が何であるにせよ、害ですね。どうでも良いことに思えます」


 そう口にした。

 すると、皆が驚いたようにこちらに目を向ける。


「何かおかしなことを言いましたか? わたくし以外の存在にとってどうであろうと、我々の生存を脅かすのであれば、相手が人間でも魔物でも魔神でも関係のない話です」


 魔神を復活させることが、即ちオーディアや仲間達、そしてミルの生存を脅かすのであれば。



「全部、戦女神の御名の下、サーチ&デストロイですわ」



 ヤフレーとヴェルザが呆気に取られた顔をしているが、他の面々は納得したような反応を見せる。


「赤ん坊を生贄に捧げるのは許せないゅ☆ だからその何とか協会は滅殺だゅ!」

「敵を潰すのは、確かにいつも通りだった」

「魔神の正体が、何であっても関係ないし」

「気合い入れて新しい装備でも作ろうかしら〜」

「【不死兵団】再結成か? 魔神はどこにいる?」


 切り替えの早さと同時に、マムは話を進めるのも早かった。


「魂の動向を探れるのなら、どこに居るかも分かるだろう」 

『相変わらず、恐ろしくて頼もしいね。が、認識の違いが二つある』


 フリギィオの笑みを含んだ言葉に、また皆がネックレスに目を向けた。


『一つは、今度の戦いは協会を叩き潰すだけでいい。おそらく、魔神と殺し合うことにはならない』

「もう一つは?」


 オーディアの問いかけに、フリギィオは『とっておきだよ』と言って、その情報を口にした。


『魔神は既に復活している(・・・・・・・・)。が、覚醒はしていない』 

「戦闘にならない理由になっていませんが」

『ある意味、戦いではある。が、殺し合いにはならないんだ。今の魔神は、殺そうと思えばすぐに殺せるけど、多分オーディアには殺せないよ。……さっき言った通り、魔神の完全復活の為に狙われているのは、『称号持ち』である君達自身だ』

「ええ」

『連中は、君達を殺そうと企んでいた。しかし魔神を一度は討伐している相手と、正面から戦って勝てる保証はないから、一計を案じたんだろう』


 魔神はつい最近復活し、一人の女性に預けられた。

 しかしその相手は、役目を拒否した。


『それが誤算だったのか、それとも策略通りだったのかは分からない。もしかしたら、最初から女性が討伐(・・)されて、魔神は君達の側に置かれる予定だったのかもしれない。連中にとって確実な誤算は、俺がここにいることだ』


 と、フリギィオが口にして……オーディアは察してしまった。


「まさか……」

『そう。魔神は今、君の腕の中で眠っている。無垢なる魂を備えた無力な存在として』


 ーーーミルが。


 復活した魔神だという子の顔を、オーディアは見下ろす。


 灰色の髪に紫の瞳。

 まるで、オーディアとフリギィオの子であるような特徴を備えた〝神の隠し子〟。


『俺は〝破邪の勇者〟として、罪なき無数の魂を捕らえていた瘴気の殻を打ち破った。それがきっと、戦女神から与えられた俺の役割だったんだ。そして今度は、君の番なのかもしれない、と感じた』


 フリギィオは、オーディアに助けを求めた魔神の尾の一撃を受けて、そう思ったのだという。


『〝破邪の聖女〟は、この子が世界を滅ぼさないよう、誰かと共に在ることの楽しさを……『生きることの素晴らしさ』を伝える為に、その役目を与えられたんじゃないか、ってね』


 だから、魔神と殺し合いにはならない、と。


『これから君が臨む戦いは、人類の生存闘争ではあるけれど、殺し合いじゃない。子育て、っていう戦いだよ』


 オーディアは、目を閉じた。


 破邪とは、邪悪を打ち破ること。

 ミルを、人類にとって邪悪な存在とならないよう、慈しみ、邪悪の宿命から解き放つこと。


『長い戦いだよね。……今まで挑んだどんな戦いよりも、もしかしたら過酷かもしれない』

「そうですね」


 慣れない戦いである。

 しかしそれは、悲しみや怒りに支配された戦いではなく……愛だけをもって挑むことの出来る戦いだと、思えた。

 

「幸せな戦いです。授かると思っていなかった子を授かったのですから」

『そっか』

「ですが」


 と、それはそれとしてオーディアはフリギィオに目を向ける。



「正体を明かすつもりがなかった、ということは、貴方はその戦いから逃げるつもりであった、と」



 場の空気が、ピリッとしたものに変わる。


『いや……そんなつもりは』

「ありましたね? 戦いから逃げるなど、言語道断です」


 面倒だと思ったのだろう、とオーディアは冷たく睨んだが。


『……この状態で、何が出来るんだ。魂だけで、動けもしないんだぞ。何の手助けにもならないのに、ノコノコ姿を見せてどうするんだよ』


 だからヤフレーに説明を頼んだのに、と嘆くフリギィオに近づき、その宝玉にデコピンする。


『あだっ!』

「痛いのですか?」

『いや、ノリでつい』


 痛くはないらしいので、オーディアは彼に声を掛ける。


「何も出来なくとも、側に居て、わたくしや成長したミルの話し相手になることくらいは出来るでしょう」

『……?』

「生きていなくとも、側にいるだけで十分です。少なくとも、わたくしは貴方と共にミルを育てながら(・・・・・・・・)生きる(・・・)ことが出来ます。〝破邪の勇者〟の役目も、まだ終わってはいないのです」

『……!』


 フリギィオが絶句するのに、オーディアは彼と再会してから、初めて笑みを浮かべた。

 彼が昔、『オーディアの表情の中で何よりも好きだ』と言ってくれた、笑顔を。


「お帰りなさい、フリギィオ。少し遅かったですが、わたくしは嬉しいです」

『……ごめん。ただいま』


 ちょっと潤んだような彼の声に、オーディアはそっとミルの顔を見せる。


「わたくし達の子です。親もいないのであれば、この子は〝神の隠し子〟ですから」


 これから先、じっくり見る機会もあるだろうけれど、出会いは大事だ。

 まだミルの目はほとんど見えていない筈だが、声に反応してうっすらと目を開く。


「ミル、貴方のお父様ですよ。声だけですが」

『ミル、っていうんだな』

「はい。『始まりの幸福』を意味する言葉……貴方が教えてくれた、言葉ですよ」


 何も知らなかったオーディアは、彼との出会いで全てが変わったのだ。

 共に過ごし、笑い、字を習い、振る舞いを教わり、今のオーディアになった。


『……可愛いな』


 その言葉と共に。

 オーディアには、ミルを慈しむように見つめる彼の姿が、見えた気がした。

 


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