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神の隠し子〜教会の前で赤子を拾った退役聖女ですが、どうやらこの子狙われているようです。〜  作者: メアリー=ドゥ


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双子の力です。

 

「行ける? シロン」 

「大丈夫よ、クーロ」


 真祖の動きを見て、手を繋いでいた双子がパッと手を離し、クーロが前に出る。


「正面に防御結界。その後、右に跳んで」


 ガトリングを左腕だけで脇に構えたシロンが、クーロに指示を出した後に、口に火をつけた棒を咥えた。

 

 クーロが指示通りに槍を構えて結界を展開すると、霧化したノスがそれを避けるように左から回り込んでいく。

 移動速度はオーディアの足では追い付けない程だったが、シロンはその動きを完璧に読み切っていた。

 

 彼女は霧の向かってくる先に、ポン、と瓶を二つ放り、ガトリングの引き金を一瞬だけ絞る。

 弾丸を喰らって砕け散った瓶が中身をぶち撒けると、そこに突っ込んだ霧からブワッと煙が上がった。


 クーロは霧が避けて通った後、指示通りに右に跳んでおり、館の壁際……炎に炙られるギリギリのところで身を伏せる。

 シロンは後ろに下がりながら、口に咥えていた火の棒を手にして、地面を滑らせるように放った。


 するとそこに、狼に姿を変えたノスが寸分違わず着地した。

 瞬間、足元と顔の辺りの毛皮がゴゥッ! と音を立てて燃え上がる。


「アォオオ……!!」


 シロンが投げた二つの瓶は、一つは聖水、もう一つは油だったのだろう。 


 双子は、〝神託の聖女〟。

 シロンは人の未来を、クーロは物の過去を『視』る。

 

「クーロ、行けるよ」

「オーライ、シロン」


 手を繋いでいる間に十数秒後の(・・・・・)クーロの未来(・・・・・・)を読んだシロンは、真祖ノスの動きをある程度把握した上で、必要な行動を取ったのだ。


 それが、双子の戦い方である。


 シロンは不測の(・・・・・・・)事態に弱いが(・・・・・・)決まったことを(・・・・・・・)こなすのは(・・・・・)得意なのだ(・・・・・)


「貴様ァアアアアアッッ!!」


 シロンに激昂しながら、吸血鬼の姿に戻ったノスは腕を振るって風の魔術を行使し、炎を吹き払う。

 

 形態変化モーフィングは身につけた物ごと変化する強力な魔術である。

 しかしあくまでも魔術の一種であり、同時に別の魔術を発動することは出来ない。


 それぞれの術式が干渉し合ってしまう為に、魔術は一度に一つしか使えない、というのが、あらゆる魔術士や魔物に共通する弱点だった。


 クーロはタイミングを正確に見極めており、手にした槍を腰だめに構え、低い姿勢で飛び出す。


 館を包む炎の明るさと、ノスの引き起こした風で舞い上がる砂埃。

 それらを利用して潜伏ハイドしたまま、彼女はシロンに意識の大半を割いた敵の死角から迫り、足首を貫いた。


「ッ!?」


 魔物化したとはいえ、真祖ノスは元・人間であろうと思われた。


 そして人体の形をしている以上、その構造的な弱点はほぼ同一である。

 意識の外から足元に一撃を受けて姿勢を崩したノスに、クーロは槍を引き抜こうとはせずに手を離し、そのまま駆け抜けた。


「これ、貰うね」


 彼女は駆け抜けざま、槍で裂けたノスのズボンの裾を引き千切って握っていた。


 クーロは面倒(・・・・・・)臭がり故に最適解(・・・・・・・・)を出し(・・・)目の前の状況に(・・・・・・・)即応する(・・・・)


 彼女の瞳に、紫の光が揺らめいた。

 

「殺……ッ!」


 踏み止まったノスが、瘴気と魔力を腕に収束させながら、今度はクーロの背中を狙うが、その前にシロンがガトリングの引き金を絞り、ありったけの残弾を叩き込んで妨害する。


「目標が定まってないわ。そんな行き当たりばったりでどうにかなる訳ないでしょ」


 ふん、と鼻で笑ったシロンは、クーロが茂みに飛び込もうとしているのを確認し、弾が切れたガトリングを放り出して退避し始める。

 指摘されたのに、双子ともに違う方向に逃げたののどちらを追うか、ノスに迷いが生まれたところで。



「ーーー敵は、3人ですよ?」


 

 シロンの弾幕が切れるのを待って、背後からノスに肉薄したオーディアは。

 そのまま、脳天から叩き潰すように全力で戦鎚を振り下ろした。


 グシャリと、肉と骨が潰れる感触。

 首が折れて体ごと叩き潰すところまでは行かなかったが、聖水を振り撒いた上で聖気を込めた全力の一撃は、流石に真祖と言えど再生に時間が掛かるだろう。


「ナメ、ル、ナ……!!」


 ついに地面に倒れ伏しながらも、ノスは牙を剥いた。


 その背中から大きくコウモリの翼が広がり、骨格の先端、一つ一つが瘴気のきりと化して周囲の空間全てを刺し貫くように荒れ狂う。


「ゴォアァアアアアアアッッ!!!!」


 意図も何もない、ただただ怒りに任せて暴れるような攻撃。

 しかし真祖の力を持って振るわれるそれは、庭の地面を抉り、館を破壊し、オーディアの体を吹き飛ばした。


 腹を下から刺し貫こうとする瘴気の錐を、咄嗟にパイルバンカーの銀杭と戦鎚の柄を交差させて受ける。

 が、凄まじい威力によってそのまま上空に高く運ばれ、放り出された。


「っ……!」

「オーディア姉ぇ!」


 息を詰まらせながら宙を舞ったオーディアに、館の角に駆け込んで【聖光榴弾】をノスに投げたシロンが声を上げる。

 落下の直前、塔の中にチラッと金色の煌めきが見えて、赤い目と目が合った気がした。


 しかし、今はそれどころではない。


 滑落感と顔を叩く風の勢いを感じながら、オーディアは戦鎚を斜め下に向けて投げ下ろし、シロンに『逃げろ』と手を振る。

 そのまま、榴弾の炸裂に合わせて聖女服の裾を大きく広げた。


 大きく広がった布で爆風を受けて多少勢いを殺すと、そのまま受け身を取って地面を転がり、地面に突き刺さった戦鎚を引き抜く。


 瘴気の錐で作られた嵐が止むと、館に異変が起こった。

 度重なる衝撃を受け、破壊されて燃え落ち、さらに真祖の一撃で柱にトドメを刺されたのだろう。


 館はメキメキと音を立てて、下部から崩落を始めたようだった。

 裏庭の方に向けて傾いてくる二階部分は、言っている間に、燃えたまま頭上から降り注いでくる。


 多少の打ち身は即座に治癒の力で修復し、オーディアは声を上げた。


「クーロ!」

「視えたよ、オーディア姉ぇ! 塔の中に遺物はない! そいつの大事なモノはいる!」


 ネスのズボンの裾の破片から、真祖の過去視を行ったクーロが言うのなら間違いないだろう。

 守護者がいないのであれば、突入を躊躇う理由もなかった。


 ーーープリセイア、と先ほど口にしていた名前の主が、真祖の弱点(・・・・・)でしょう。


 ミルを教会に届けた女吸血鬼。

 どんな相手かは分からないが、オーディアは利用できるものは利用する主義である。


 何せ真祖は、これだけの攻勢を受けてなお、館を破壊する程の力を振るう余力があるのだ。

 さらに、砕けた頭と折れた首まで、予想よりも早く再生を始めている。

 

 強力な『魔性』に弱点があるのなら、利用しない手はないのだ。


「人質を取ります! 貴女達は、一度安全圏へ!」


 オーディアは、塔に向かって駆け出し始めた。


「ふざけた真似をォ……許すと思ウなヨォオオオオッッ!!!」


 再生を終えたノスが、グルァッ!! と牙を剥いて狼化すると、先ほどとは逆にオーディアを追って来た。

 

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