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神の隠し子〜教会の前で赤子を拾った退役聖女ですが、どうやらこの子狙われているようです。〜  作者: メアリー=ドゥ


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不審者を捕らえました。


 明け方に近い深夜。


 オーディアらは、侵入してきた不審者に奇襲を仕掛けて拘束し、礼拝堂の真ん中に転がした。

 

 美麗で勇猛な女戦士の姿をした女神像の見守る前で、トントン、と刃の腹を左の手のひらで叩くと、その表面に天窓から月光が照り返す。



「神は仰っています。死ぬこと以外は(・・・・・・・)些事である(・・・・・)と……」



 猿轡さるぐつわを噛ませ、喋ることも出来ない不審者に対して、〝破邪の聖女〟オーディアはおごそかに告げた。


「私も、同じように思っておりますわ。死にさえしなければ、幾ら傷ついても癒して差し上げられますから」


 すると、不審者が顔を引き攣らせる。

 まだ少年っぽさの残る若い男だが、その目的を吐かせなければならなかった。


「教会は、神の聖域。そこで無礼を働くのであれば、当然ながら罰が降されますわね。そう……手足の一本、目玉の一つくらい、無くしても死にはしませんわ。そうでしょう?」


 脅しながら、ゆっくりと一歩近づくと、不審者はブンブンと頭を横に振る。


 ーーーなるほど、死や痛みは怖いようですわね。


 オーディアは、彼の態度を冷静にそう分析した。


 死に対して恐怖を感じるのであれば、自ら舌を噛んで死ぬようなことはないだろう。

 魔薬で意識を朦朧とさせたり、死ぬ気が失せるくらいに痛めつけるのも、不必要に思えた。


 不審者の猿轡を外してもいいだろう、と判断したオーディアは、後ろを振り向く。

 自分同様、結界を踏み越えた不審者を察知して集まっていた『称号持ち』の聖女達に、目で『どうします?』と問いかける。


「あーしはぁ、オーたんの思う通りで良いゅー☆」


 最初に答えたのは、ネグリジェ姿のまま現れた、褐色肌に金髪碧眼の美女である。


 〝奉納の聖女〟イロカだ。

 オーディアと同い年の彼女はニパッと笑顔を浮かべ、両手でチョキの形を作ってその指先を下に向ける、独特なポーズで腕を突き出す。


 彼女に続いて答えたのは、双子の姉妹。


「ボクは、先に罰は与えるべきだと思うかな」

「ウチも、先に罰は与えるべきかと思います」


 〝神託の聖女〟クーロとシロンである。


 15歳の彼女らは、人形のように整った容姿と赤い瞳は瓜二つだけれど、髪色と服が異なっている。

 髪はクーロが漆黒、シロンが純白で、身につけている聖女服も髪と同色だった。

 

 四人の意見が割れたので、オーディアは残りの二人に目を向ける。


 一人は、女神像の足元で紙巻きにした『浄化のお香』をくゆらせる、年齢不詳の〝聖母(マム)〟サンチ。

 顔にも腕にも深い傷跡や火傷痕が刻まれた彼女は、片眉を上げて隻眼の金瞳で不審者を見る。


「好きにしな」


 その横で片手に杖をつき、ニコニコとしている老女……〝聖女長(グラン・マ)〟ドンドーラが、穏やかな口調で最後の一票を入れた。


「外しておやり」

「では……」


 賛成3、反対2、棄権1で『猿轡を外す』と決まったので、オーディアがダガーを振るうと、不審者の口に噛ませていた布が切れて地面に落ちた。


「ゲホっ……」

「大人しく質問に答えるのであれば、拷問は許して差し上げましょう。何の為にこの教会に潜入したのですか?」


 すると、咳き込んでいた不審者は顔を上げ、ダガーの刃先を向けるオーディアを見てごくりと喉を鳴らした後に、目的を口にした。


「こ、ここにいる赤ん坊を連れて来い、って依頼を受けたんだ……!」

「なるほど、罪人ですね。ではやはり始末しましょう」

「待て、待て待て待て! 違う! 拐われた(・・・・)灰色の髪の赤ん坊を取り戻してこい、って言われたんだよ!」

「……拐われた?」


 オーディアは、不審者の言葉に眉根を寄せる。


「では、貴方の狙いはあの子だと?」

「どの子か知らねーが、赤ん坊だよ!」


 オーディアは、ダガーを握っているのとは逆の手を顎に添えた。


「もしあの子が本当に拐われた子なのであれば、由々しき事態です。……ですが、貴方は明らかに親ではありません。教義に従い、渡すことは出来ませんね」


 教義において、渡す相手はあくまでも『親』である。


 不審者は旅装であり、明らかにどこかに定住している人物ではなく、髪も赤ん坊とは違う金色。

 首元には、どこか外見に不似合いな高価そうなネックレスのチェーンが覗いており、そもそも彼自身が『依頼を受けた』と口にしていた。

 

 現状、信用には値しない相手だ。


「貴方の言葉が真実であるかどうかを確かめる為に、一時拘束致します」

「もう捕まってるが!?」

「牢屋にぶち込むと言っているのです。それが嫌なら、この場で女神の御元に旅立ちますか?」


 ダガーを近づけると、不審者は身をよじった。


「お前ら本当に聖女か!? 物騒過ぎるだろ!! 慈悲の心はどうした!?」

「? 我々は『神の兵士』です。無辜の民は庇護の対象ですが、罪人はーーー」


 妙なことを言う不審者に、オーディアは首を傾げる。



「ーーー戦女神の御名の下、サーチ&デストロイですわ」

 


 ねぇ、と後ろの仲間達に目を向けると、彼女達もうんうん、と頷いた。


「……コイツらヤベェ……」

「何か仰いましたか? あまり無駄口が多いようであれば、口を封じますよ」

「黙りますッ!!」


 そうして本当に黙った不審者の行動は、実際、十分裁きに値するものである。

 神の聖域に不穏な方法で侵入した、という点については事実だからだ。

 

「この方の『拐われた子を依頼を受けて取り戻しにきた』という言葉が本当であれば、その点については情状酌量の余地があります。どうでしょう?」

 

 仲間達に問いかけると、それぞれに返事がある。


「事実なら、だゅ☆」

「ボクは、信用には値しないと思うかな」

「ウチも、信用には値しないと思います」

「殺すのはいつでも出来る」

「もう少し、情報が欲しいところよの」


 それぞれの意見を受けて、オーディアは、改めて不審者の目を覗き込む。


「口を開くことを許します。調査の上、貴方の発言が事実であれば、罪状は軽くなるでしょう。貴方は、どこの誰からその依頼を受けたのですか?」

「……ここの南にある、ホロビタの街の小領主からだ」


 その答えに、オーディアは、冷たく目を細めた。

 身をかがめ、今度は不審者の首元に添えるようにダガーを突きつける。


「……!」

「戦女神は、似姿の石像にあまねく宿り、全てを見ております。虚偽の証言は許されません」

「う、嘘じゃねーよ……!」


 あの街は、教会があるこの場所、フーインの町の隣にある街だ。

 だが。 



「ホロビタの街は、もう五年も前に魔獣の侵攻によって壊滅していますが?」



 それによって小領主どころか住人がほぼ死に絶えており、地図からも名が消えている。


 あの場所を復興するという話や、新たに小領主を立てる、という話は聞いていない。

 不審者は『存在しない街の、存在しない人物の依頼を受けた』と口にしているのだ。


「真実を述べぬのであれば……」

「本当だ! 俺が流れ着いたのはつい最近だが、街は壊滅なんかしてなかったぞ!?」

「……おかしな話ですね」


 その必死さから、どうやら嘘ではなさそうだと判断して、オーディアは一旦刃を引いた。


 ーーーホロビタの街は、フリギィオの故郷……。


 ホロビタの街の壊滅によって、あの人は魔神討伐に旅立ったのである。


 肉体は戻らなかったけれど、彼のお墓もあの地に立て、幾度も足を運んでいる。

 つい三ヶ月ほど前にもオーディアは訪れたが、その時は荒廃したままだった。


 ーーーその間に、街が復興することはあり得ない……。


 もし何らかの異変が起こっているなら、それも確かめなければならないだろう。

 オーディアは身を起こし、ベールの隙間から垂れた銀髪を耳に掛けた。


「あの子に、護衛が必要ですね」


 赤子は今、この教会にいなかった。

 フーインの街にいる〝加護の聖女〟サイエンに預けているのだ。


 オーディア自身が、毎日世話の手助けには赴いている。

 けれど、サイエン自身も出産を終えたばかりだったこともあり、あまり急いで動かすのも、と思っての措置だったが。


 ーーーあの子が狙われている、というのなら、話は別です。


 彼女と話し合い、元々赤子の乳離れまで教会に移って過ごして貰うつもりではあったが、時期を早める必要があるかもしれない。


「わたくしは先に向かいます。どなたか、夜明けを待って彼を連行して下さい」


 まだ皆眠っている時間であり、大勢でゾロゾロと向かっては迷惑だろう。

 オーディアが声を掛けると仲間達が頷いたので、そのまま不審者を放置して教会を出た。


 ーーーあの子のみならず、サイエン達にも手は出させません。

 

 今は、酒場兼宿屋を経営する夫婦は、魔神討伐の中核部隊で唯一、恋人も養い親も失なわずに添い遂げた、幸福の象徴である。

 

 それらを含む、あの人が望んだ平和を脅かす者がいるのなら。



「ーーー戦女神の御名の下、サーチ&デストロイですわ」


 

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― 新着の感想 ―
オーディアはしおらしい感じの女性をイメージしていました。 その口から「サーチ&デストロイ」という物騒な単語が出て来るところが面白く、印象に残りました!
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