姿を見せませんね。
吸血鬼らを始末した後、ある程度コウモリの数を減らすと、そちらも出てこなくなった。
そこでオーディア達は、警戒しながら弾薬の残りなど、順番に装備の確認をしつつ待っていたのだが。
「……出てきませんね」
館は燃え続け、炎が半分程度まで回っているが、真祖は一向に出てくる気配がなかった。
「もしかしたら、先に逃げてたかな?」
「それとも、さっきの三体だけかも?」
双子がそれぞれ口にするのに、オーディアは首を横に振る。
「どちらも、考え難いですね。もし先ほどの三体のみである場合、コウモリもその時に消滅していますし、雲は晴れる筈です。根源が絶たれていますから」
コウモリは出てこなくなったが、それは吸血鬼らの後であり、月を赤く染める薄い瘴気雲は晴れていない。
「イロカの結界が張られる前に逃げていたのなら、遠ざかれば傀儡人形は動きを止めるでしょうし、近くに潜んでいるのなら、こちらより人数が少ないマム達と戦闘になっているでしょう」
傀儡人形は侵入こそして来ないものの、まだ動き続けていた。
それに、あの二人が抵抗も出来ず、こちらに合図もせずに始末されるとは考えづらい。
遠くから音すら聞こえて来ず、イロカの結界は相変わらずホロビタの街を包んでいるのだ。
「あり得るとすれば、わたくしどもが既に幻惑の中に囚われているという可能性ですが……であれば、もう殺されていてもおかしくないでしょう」
吸血鬼が人を支配する方法は、吸血鬼と人間が視線を合わせた上で精神に侵食することなのだ。
姿すら見せず、鏡にも映らない存在に、自分たちが支配されるとは考えづらかった。
「なら、炎の影響がないところにいるとかかな?」
「真祖が住んでるのが、この館じゃないとかも?」
「そちらの可能性はありますね」
そろそろ夜半過ぎである。
判断を迫られているが、材料が少ない。
が、そんなのはいつものことだった。
「傀儡人形が動きを止めていないのは、側にいるから、と判断します」
であれば、次はどこにいるのか、だ。
小領主に依頼された、という旅人の言葉からこの館に狙いを定めたが、それ自体が罠である可能性も捨て切れない。
無駄足を踏んだと思わせたり、誘き寄せて時間を稼がせることで消耗を待っているのか。
再度外に出るとなれば、傀儡人形の相手をする必要があり、そうなるとシロンの残弾が心許なくなるだろう。
「クーロの口にした可能性、この状況で炎の影響を受けない場所であれば……地下室でしょうか」
小領主の屋敷は、床が石で固められていそうな土台ではある。
吸血鬼は、炎や陽の光に弱くとも、熱に弱いというわけではないので、その点については一考の余地があった。
「水責めというわけにもいきませんしね」
一応、地下に潜んでいても、水を嫌う性質がある為にそうやって炙り出すことは可能だ。
けれど、オーディアらは魔導士ではない。
使えるのは魔術ではなく聖術であり、水を大量に発生させるような類いの術は扱えないのだ。
聖水を作ることは可能だが、コップ一杯程度である。
そもそも館が燃えているので、地下への扉を探すことは現状出来ない。
火事が収まるまで待つわけにもいかなかった。
「井戸とかは、ないのかな?」
「どうやって汲み上げるの?」
クーロが首を傾げると、シロンも同じように首を傾げながら反論した。
ーーー井戸……。
水自体は、腐っていても関係ない。
なので探してみてもいいけれど、シロンの懸念以外にも、滑車などが未だ備えられているか、枯れていないか、などの問題はあった。
ーーー穴の底から、大量の水を……。
そこでオーディアは、ふと気に掛かることがあった。
自分が何に引っかかったのかを考え直す。
ーーー穴、ですか。
「館が燃えても問題なく、水を嫌う……逃げてもいないし、地下室がある、とすれば」
「何か思いついたの? オーディア姉ぇ」
「何かピンときたの? オーディア姉ぇ」
「ええ」
コウモリ達の動きや、対処によって出てこなくなったことも考え合わせると、おそらく相手はこちらが見えており、向こうもどう対処したものかを判断しかねている可能性がある。
眷属である吸血鬼らが始末されて、それ以上姿を見せないことから、あれで全員なのだろう。
コウモリでは攻め手に欠け、傀儡人形は屋敷に入らないようにという指定を解除出来ないのかもしれない。
だから警戒して姿を見せない、あるいは隙を窺っている、のだとすれば。
「事前に見た地図では、館には裏庭がありましたね」
「うん」
「ええ」
「そちらへ回りましょう。もしかしたら石造りの建物があるかもしれません。それと、地面や壁を注視して下さい」
オーディアは、先ほど思い至った自分の推測を双子に伝える。
「この館は、元々人間の領主の館です。貯蔵庫ではなく潜めるような地下室がある場合、入り口や出口が屋敷の中だけということはないでしょう」
吸血鬼自身は空気穴からでも出入り出来るが、人間はそうではない。
そしてホロビタの街は、トアル王国の中では、そこそこ魔物の生息域に近いのである。
だからこそ侵攻を受けて壊滅した経緯があり、小領主自身も危険を認識していた筈だ。
であれば、屋敷の中以外にも多分、『入り口』や『逃げ道』が用意されている。
「なるほど、あり得るな」
「それを探しに行くのね」
「はい。館の周りを、茂みなども含めて探しましょう。松明を準備します」
ランタンは壊れやすいので、こうした場合に用意するのは【ヒカリ石】という、聖気を込めると光る石を先端に仕込んだ魔導具である。
単純に、木の棒に油を染ませた布に火をつけてもいいのだが、サイエンがこうしたものをきちんと準備してくれているので、オーディアは予め数本分携帯していた。
魔力を持つ者であれば、光源を自ら生み出すことも出来るのだが……実は聖気同様、魔術を扱える程膨大な魔力を備えた者も数は多くないし、勿論オーディア達は使えない。
「では、行きましょう」
オーディア達は周囲を観察しながらなのでゆっくりと、しかし特に邪魔をされることもなく、館の周りを半周した。
そして裏庭に到達すると、館の炎に照らし出されて大きく影を落としているものが、裏庭に立っているのが見える。
表からは、暗さや館、炎の揺らめきなどに邪魔されて見えなかったが……。
「塔だな」
「塔だね」
「もう少し、早く気づくべきでしたね」
石造りで、火では絶対燃えないだろうモノが、そこには建っていた。
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