撃破時間の短縮を図ります。
ギャァ! と急降下して襲い掛かってきたのは、動きがまともな方の女吸血鬼だった。
明らかに正気を失っており、他のコウモリなどと変わらない本能的な動きである。
オーディアはその場から動かず、パイルバンカーを正面に向けた。
「Fire」
ドン! と音を立てて射出された銀の杭が、女吸血鬼の頭を正面から撃ち抜く。
今回は、鎖を形成しないままだったので、杭はそのまま飛び去った。
「ーーーー!」
頭の上側が吹き飛んで視界が消え、下顎だけで声にならない声を上げながら女吸血鬼が姿勢を崩す。
即座に姿勢を整え、両手で握り直した戦鎚を、突っ込んできたソレの脇腹に横薙ぎで叩きつけた。
べキリと鈍い音を立てて吹き飛んだ女吸血鬼は、そのまま元々いた部屋の中……炎の中に飛び込む。
吸血鬼は炎に焼かれると傷の再生が追いつかなくなる為、視界を奪われたままの個体は外へ出る方法が分からず、闇雲に飛び回って壁や天井に激突し、館を揺らした。
轟々と音を立てる炎の音も相まって、非常に騒がしいそれに、シロンが容赦なくガトリングを叩き込む。
その内、沈黙するだろう。
その間に、別の女吸血鬼が目を不気味に光らせてこちらを見た。
魅了や金縛りを引き起こす、催眠の視線である。
「無駄ですよ」
オーディアは、静かに呟いた。
その手の攻撃は、人の精神に干渉するものであり、極小聖結界と魔導布の聖女服どちらもがそうした干渉を防ぐ効果があった。
意識があるヴァンパイアが、その様子を見てブワッと体積を膨らませたように見えた。
直後に、黒い霧になって瘴気の中に紛れ込む。
霧化と呼ばれる、吸血鬼の能力の一つである。
やはり『魔性』は、知性がある方が厄介だった。
ーーーイロカがいれば、対処も簡単なのですが。
彼女は、能力の性質上銃や強力な兵器を持てない。
その為、単騎で強力な個体に対処する能力には劣るが、広範囲に広がった敵の掃討に長けているのだ。
それは浄化の術しかり、イーたんの炎しかり、といったところである。
逆に今いる3人は、単体への対処に長けた前衛であり、館の中での室内戦闘を想定していた為に突入部隊に選ばれたのだが。
ーーーわたくしの失策ですね。
中で始末する方が良かったかもしれない、と思いつつ、オーディアは意識を切り替えた。
ないものねだりをしても仕方がない。
一秒程度でそう思考しながら、オーディアは二個目の聖水の瓶を引き抜き、頭から被るように振り撒いた。
直後、こちらの首と腕を掴んで、戦鎚を握る右腕に実体化したヴァンパイアが噛み付いてくる。
聖水と極小結界の効果でジュゥ、とソレの口と掌が焼けたが、代わりにオーディアの腕には聖女服を突き破った牙が突き立って、痛みが走った。
ヴァンパイアが降り注いだ聖水によってさらに背中まで焼けるのを気にせず、顎を絞めようとしてくる。
ーーーいい根性です。
そのまま骨まで噛み砕かれそうな噛みつきと、喉を握り潰そうとする膂力に抵抗する。
オーディアは拳を握り、ググ、と首と腕に力を込めた。
血を吸おうというのであれば、好都合である。
ーーー力比べは得意ですよ。付き合うつもりはありませんけれど。
牙が抜けないように力を込めて筋肉を絞めたまま、オーディアはパイルバンカーが嵌まった左腕で、腰に手を回した。
そこに差していた予備の銀杭を発射口に押し込むと、足を踏ん張って体を勢いよく捻る。
踵から膝、腰、肩、腕、と捻転の力を体に加えたオーディアは、寸勁と呼ばれる武術の要領で、勢いよく銀杭の先端を心臓に向かって突き込んだ。
完全に心臓を貫かれて、ヴァンパイアが、ビクン、と震える。
断末魔の悲鳴こそ上げなかったが……手足と顎が硬直して、さらにオーディアの首が締まり、腕の肉が噛み千切られた。
そこにクーロが駆け込んできて、聖気を込めた槍を首を握っているヴァンパイアの肩口に槍を突き立て、断ち落とす。
自由になったオーディアは、引き金を絞った。
心臓に突き立った銀杭を鎖付きで射出して、勢いでヴァンパイアの本体を吹き飛ばすと、首に垂れ下がった腕に手を添えて、治癒の力を注ぎ込む。
アンデッドは、反転属性を持っている。
治癒の力を受けた腕が瘴気の煙を上げ、ボロボロと黒い炭のようになって崩れ去ると、空中に溶けた。
オーディアは、そのまま噛み千切られた腕の肉も治癒の力で修復しながら、クーロに告げる。
「持ち場を離れないように。命令違反になりますよ」
彼女の役回りは、基本的に護衛である。
取り回しがしづらい、ガトリングを手にしているシロンの側にいて、動きやすいようにするのが役目だ。
「オーディア姉ぇが無茶し過ぎなんだよ」
「そもそも大した脅威ではないので、撃破を優先しました」
霧化したまま逃げられたり、飛び回られる方が厄介。
自分から近づいてきて実体化してくれるなら、それが一番簡単なのだ。
聖女が3人、死ななければ傷など幾らでも癒せるし、仮にオーディアが意識を失っていたとしても特に問題はない。
ようやく魅了が効かないことに気づいたらしい残りの女吸血鬼が、別の行動をしようと動き始める。
「遅すぎますね」
オーディアが口にすると、室内の個体を始末したらしいシロンが、銃弾で女吸血鬼を牽制しながら、こちらに近づいてくる。
「さっさと終わらせましょう」
ヴァンパイアの本体も、腕に続いて消滅していたので、伸ばしたままの鎖を手で掴み、ブン! と振るうと、空中の女吸血鬼に当たって銀杭の重みでグルグルと巻きついて拘束する。
「ギィ……!!」
聖気そのものである鎖によってダメージを受けた女吸血鬼が、翼ごと絡め取られても抵抗しようとするのを、グッと鎖を引いて引き寄せながら、鎖そのものも巻き取っていく。
落下するよりも早くこちらに近づいてきた女吸血鬼の心臓を、クーロが槍であっさり貫いて始末した。




