領主の館に突入します。
ーーーマムですわね。
オーディアは、傀儡人形の頭が吹き飛んだ方角から射出角を推測した。
攻撃が放たれたのは、ホロビタの街の広場中央にある見張り台の鐘の上からである。
後方支援を務める、マムの放った【聖気投射式狙撃魔銃】の一撃だ。
その個体が貫かれると、周囲の数体がビクン、と動きを止めて倒れ伏した。
そのまま、次々とオーディア達から少し離れたところにいる個体が狙撃され、倒れる度に別の個体の動きも止まる。
「ーーーなるほど、やはり本体がいるようです」
おそらくオーディアと同じ推測に至ったのだろうマムの動きを加味して、オーディアは自分の推測が正しかったことを確認した。
傀儡人形に対して戦鎚を振るい、パイルバンカーで貫きながら広場を目指しつつ、他の3人に状況を伝える。
「本体って何だゅ?☆」
「傀儡人形は、数体ごとに司令塔になる個体がいるようです。それが動きを止めれば、子である個体も動かなくなります」
「そういえば、街に潜入した時に、話しかけても無視する人がいたゅ☆ そういうことだゅ?」
「おそらくは。総員、コウモリが優先的に瘴気を供給している個体を叩いて下さい。それが司令塔です」
これだけの数を同時に動かすのはかなり強力な吸血鬼だと思っていたが、この方法なら、子個体は単調な動きしか出来ない代わりに数を増やすことが可能なのだろう。
聖気の攻撃で動きを止めた個体に瘴気を供給しなければならないのは、親個体も子個体も同じ。
だが、親個体を狙って潰せば、より効率的に傀儡人形の動きを停止させることが出来るだろう。
「ボクは、あんまり分かんないかな」
「ウチも、あんまり分かんないかも」
「マムは正確に見分けているようですから、なるべく手早く、各個体の動きを一度停止させて下さい。多分、それで助けて下さいます」
「分かった」
「分かった」
すると、クーロは弾帯ベルトに手を伸ばして【聖光榴弾】を外すと、口でピンを引き抜いて、傀儡人形が密集している辺りに投げ込んだ。
シロンは別の方向に向かってガトリングを発射した後に、爆発前に建物の影に飛び込む。
クーロは槍を構えて、前面に防御結界を展開した。
その場で踊り続けるイロカには、イーたんが空中から降りて来て盾になる。
【聖光榴弾】が炸裂すると、聖気光と破片が辺りに飛び散った。
そんな中。
オーディアは一切気にせず、建物の影に入った双子を狙おうとする傀儡人形の一小隊に狙いを定める。
そして親個体の胴体を横薙ぎに叩き潰すと、それを勢いのままぐるん、と爆発の方向に移動させた。
弾け飛んだ【聖光榴弾】の破片と傀儡人形の破片は、盾にした傀儡人形の体で大まかに防ぎ、すり抜けた破片が体を覆う極小結界と魔導布の聖女服に弾かれる。
しかし角度が良かったのか、二つの破片が極小結界を突き破って、戦鎚を握った右腕の袖口から皮膚に突き刺さった。
が、すぐにぐぐ、と肉が盛り上がり、破片が抜け落ちると、腕の傷が再生する。
「相変わらず、痛くないゅ?」
「痛いですよ。ですが、この程度では死なないので」
死ぬこと以外は些事である。
建物の影から飛び出してきたシロンとオーディア達が合流する間も、マムが吹き飛んだ傀儡人形の中から、親個体を探し出して、的確に狙撃していく。
そうして広場の見張り台前に到着し、オーディア自身が何体目か数えてもいない親個体のどてっ腹をパイルバンカーで刺し貫いた、ところで。
『殺……シテ……』
と、声が聞こえてきた。
『どこから?』と首を傾げると、再び声がする。
それを口にしたのは、パイルバンカーで貫いた親個体だった。
どうやら女性らしき容姿をした傀儡人形だが、身につけているのは聖女服である。
教会関係者の演技をしていたモノだろう、と検討をつけると同時に、別の疑問が浮かび上がる。
「……意識があるのですか?」
オーディアは、おそらく真祖であろう吸血鬼が直接それらを操っている、と思っていたのだが。
聖女の姿をした傀儡人形は、泣いているような顔でこちらを見つめていた。
体が空っぽの人形であることは確認している為、人間というわけではない筈なのだが。
『殺シ……テ……』
「趣味が悪いな」
見張り台の上からマムの声が聞こえ、同時にオーディアが刺し貫いた親個体の頭が、側頭部から弾き飛ばされて沈黙する。
「どういうことでしょう?」
杭を巻き取りながらオーディアが尋ねると、狙撃銃の構えを解いたマムが、【清めのお香】を燻らせながら静かに答えた。
「どうやら真祖は傀儡を使うのに、この街で死んで彷徨ってた魂を使ってやがるみたいだな。多分そいつは、元々聖女だったんだろうよ。聖気に触れて、少しだけ意識が戻ったんだ」
言われてオーディアは、襲い掛かってくる別の個体の頭を戦鎚で殴り倒しながら、足元に倒れた傀儡人形に目を向ける。
「なるほど。であれば、これで本望でしょう」
オーディアは戦鎚で四度、その傀儡人形の願い通りに手足と胴体を叩き潰して破壊する。
完全に機能停止するように『殺せ』ば、 それ以上はコウモリも動力を与えようとはしないので、望み通りに逝けるだろう。
「貴女が『神の兵士』であったかどうかは存じ上げませんが、無事に戦女神の元へ辿り着けるよう祈っておきます」
オーディアは吸血鬼に利用された聖女に、情はないが慈悲はかけた。
どれ程優れた聖女であろうと、死者を蘇らせることは出来ない。
死霊術士や『魔性』であれば擬似的には可能な所業だが、そもそも人は、死ねば魂となって彷徨うか、神の庭に留まって永遠に戦う喜びに明け暮れるか、再びこの世に生を受けるかの三択だと教義にはある。
が、元の肉体と記憶をもって完全復活は出来ないのである。
そしてオーディアの知る限り、彷徨う魂……死霊となったモノが正気を保っていた例は知らない。
だから、『肉体が死ねば終わり』だと認識していた。
終わった存在に情をかけたところで、哀れみを見せた生者が取り殺されて死者になるだけのこと。
オーディアを殺そうとしたかつての貧民街の住人達と、彷徨う魂は『殺そうと襲ってくる』点において特に変わりはないのだ。
生きたいと願っていようが、自らの境遇を嘆いていようが、害をなす時点でサーチ&デストロイの対象である。
殺して欲しいと願うなら、お互いの利害は一致していた。
そして過去の戦場の経験から、痛いほどそれを理解しているイロカや双子も、手を緩めることはなかった。
「ここからどうなさいます?」
「私か? 領主の館への突入までは面倒を見てやる。その後は撤退して、イロカと一緒に街の外に出る。夜が明けても戻らない、傀儡が動きを止めない、その二つが重なったら『作戦行動中行方不明』と判断して、次の連中を派遣する」
「了解いたしました」
別にオーディア達が死ぬとは、マムは考えていないだろう。
が、常に保険を掛け、失敗した時に次の手の為に動くのが【不死兵団】のやり方だった。
総力戦になったのは、あの魔神討伐戦の時くらいである。
これまでの戦闘で、親個体は半分程度に数を減らしていた。
手応えの感じからして、マムの狙撃、イーたんの補給線潰しと援護、イロカの腕前があれば、オーディア達の突入までの戦線を維持しての脱出程度は簡単に出来るだろう。
「では、ご武運を」
「運に頼るな」
吐き捨てて狙撃姿勢に戻ったマムといつものやり取りをしてから、オーディアは双子に声を掛けた。
「領主の館に突入します。真祖を見つけて、話が出来そうであれば対話を。無理そうであれば討伐して帰還します」
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