地味にいやな呪術師
ポタポタポタ
「なんなんだよもう~!」
男が声を荒げながら、頭を押さえて走り去っていく
どうやら私の顧客の呪いの相手のようだ。
私は地味にいやな呪術師をやっております。
さっきの相手はハトの糞がしょっちゅう降り注ぐという呪いをかけた相手のようです。
私の呪術はそこそこ人気があり、復讐したい相手がいる方からそこそこ依頼が舞い込んできます。
大ケガ等負わせたいほどではない、しかし呪ってほしいという方々から
鏡に手垢が常につく呪いやハトの糞に遭遇する呪い、家の前になぜかペットの糞がよくある呪いに
靴を履くと砂利がよく入っている呪い、食事をすると嫌いなものが必ず1品ある呪い
ひどいものだとタンスの角に足をぶつけやすくなる呪い、歩行中になぜか頭を良くぶつける呪い等あります。
先程も言いましたがそんなに重い呪いはないのでそこまで値段は高くないうえに
ほぼ成功しますのでそこそこ人気があるのです。
さて今日も新たなお客様が来ているようなので仕事に精進させていただきます。
え、学園祭で大勢の前で婚約破棄されそう?ふんふん、それでをのお相手を?
婚約破棄されたら呪いをかけてほしいと、
なるほどなるほど、ならこういうのはどうでしょう?
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「そうか……お前には愛想が尽きた」
学園祭の会場で、俺はエステリー・ミリアーヌに向かって宣言した。彼女は恍惚した表情で目を見開いている。
「え……な、何故ですか?突然そんなことを……」
「理由は明白だろう。お前のような堅苦しい女とはもうやっていけない」
「俺、ギブス・ランフィーはこの時をもってエステリー・ミリアーヌとの婚約破棄を宣言する!」
実際のところ、理由は単純だ。エステリーの冷たく格式張った態度、私の行動にあれこれ意見を言う、私より勉学ができる等気に入らなかったのだ。
数日前に出会った子爵令嬢メイリー・ローズの魅力にすっかり取り憑かれてしまったのもいいタイミングだった。彼女の柔らかな微笑みと気品ある立ち居振る舞いとはとても対照的だった。
「そ、それは……でも私たちは家族ぐるみの……」
「黙れ!お前の親も許可済みだ。我々の関係は終わりだ」
俺は毅然とした態度を保ちつつ内心では勝ち誇っていた。これで自由になれる。
だが次の瞬間、会場全体が静まり返った。「それでは新しく婚約者となる者を紹介しよう、子爵令嬢メイリー・ローズだ」
「キャアア!」という悲鳴と共に数人の生徒が歓声をあげた。「な……何があった?」見れば女子生徒たちは必死に顔を高揚させている。「どうしたんだ!」「あ……あの……」困惑しながら女性は何か言おうとするが言葉にならない様子だった。
そこへ別の声が割り込んだ。「みんな落ち着いて!ちょっとした事故だから気にしないでくださいね?」その場に現れたのはメイリーだった。彼女は優雅な笑みを浮かべながら周りを見渡している。その姿には不思議と安心感があった。「そうですよ皆さん」と隣に立つメイリーが言う。「私たちこれから新しい一歩を踏み出すんですもの」
観衆たちはざわめき始め、「まあ素敵!」「新しい門出ですね!」など称賛の声があちらこちらから聞こえてくる。そして当人の僕自身もこの状況に戸惑いつつも心地よさを感じていた。確かにこの流れなら何も問題はないように見える……
メイリー・ローズは優雅にカーテシーを決めると、会場の中心へ歩み出ました。その所作は完璧すぎるほど優美で、まるで一流のバレリーナのようでした。生徒たちの息を呑む音さえ聞こえるほどの静寂が広がります。
「皆さま、ごきげんよう」メイリーの声は高く澄んでおり、その声質だけで既に貴婦人の風格を漂わせていました。「本日はこのような機会をいただきありがとうございます」
「な……何なんだこの空気は?」ギブスは内心で混乱していました。期待していたのは黄色い声援や羨望の眼差しなのに、目の前の光景はまったく異なります。女子生徒たちは両腕で互いを抱き合いながら高揚しており、男子生徒たちは口をあんぐり開けたまま固まっています。
「あらあら」メイリーが小さく微笑みました。「みなさん緊張されているようですね。それでは自己紹介を──」
メイリーの優雅な登場に場内はさらに熱を帯びていきました。女生徒たちが繰り広げる小さな騒ぎが会場全体に広がりつつあります。
「なっ……何が起こってるんだ……?」ギブスは額に汗を滲ませながら辺りを見回しました。期待していた祝福の拍手ではなく、黄色い歓声でもなく――なぜか女生徒たちが腕を組み合ったり、互いの肩を叩いたりしています。
「ふぅっ……素晴らしいわっ!」
「あの執事の控えめな微笑みとギブス様の動揺のコントラスト!」
「これは完全に『執事×御曹司』の萌えシチュエーションよ!」
一人の女生徒がキラキラした瞳で手帳を取り出し猛烈に書き込み始めました。「ギブス様の狼狽え方が最高なの! 無自覚ドS受け誕生!」という独り言が聞こえます。
ギブスは耳を疑いました。「待て待て! メイリーは僕の新しい婚約者──」
「違いますわ!」突如メイリーが凛とした声で遮りました。全員の視線が集まる中、メイリーはドレスの裾を摘みながら深々と礼をしました。「私はローズ伯爵家に代々仕える執事のメイルと申します。本日は我が主、ギブス様の御命令によりこの装いで参りました」
その言葉に会場の空気が凍りつき―――そして爆発しました。
「「「きゃああああ!!」」」
女生徒たちの歓喜の叫びが天井を震わせる勢いで響き渡ります。
「執事服×女装! しかも主従関係! 神展開じゃないっ!」
「メイルさんの『主従逆転』の伏線……気づいてしまったわ! 昨日ギブス様が屋敷で転んだ時に咄嗟に支えたのがメイルさんだったって噂……!」
「これは間違いなく『執事が御曹司を守護する系BL』の王道パターン!」
ギブスは愕然としました。「おい待て! 僕はただ新しい婚約者を──」
「いいえ」メイルはゆっくりと首を横に振りました。「ギブス様の婚約破棄は正当なものではありませんでした。エステリー様こそ真に貴方様に相応しいお方です」
その瞬間、隅で静観していたエステリーが初めて口を開きました。「その通りですわ……ギブス様」彼女の唇には冷たい微笑みが浮かんでいます。「私の方にも証拠があります……あなたが私を陥れるため、メイルさんに無理強いしていたことの」
メイルが悔しそうに拳を握りしめます。「私がギブス様を慕う気持ちを利用したのです……私の女装まで強要して……」
「違う! それは誤解で──」ギブスの弁明は嵐のように巻き起こる妄想の叫びに掻き消されました。
「泣き濡れる執事×葛藤する御曹司! 尊いわ!」
「無自覚な迫害者が実は一番執事を愛していたパターン! 定番だけど燃えるぅぅ!」
「でも待って! 最終的にはエステリー様がメイルさんを救って三人で幸せになるハッピーエンドが見たい! 推せる!」
混沌とした会場の中、ギブスだけが完全に蚊帳の外に置かれています。メイルは真剣な面持ちでエステリーに跪きました。「エステリー様……お赦しください。私の浅慮な行動がご迷惑をお掛けしました」
「いいのですわ」エステリーは微笑みました。「あなたの誠実さは存じております。これからは本当の意味でお仕えしてくださいまし」
「おお……!」女生徒たちの感嘆の声が響き渡ります。ギブスは青ざめた顔で立ち尽くすばかりでした。
こうしてギブスは予想外の形で"破滅"を迎えることとなりましたが――聖女たちにとっては新しい萌えコンテンツの始まりにすぎませんでした。メイルとエステリーが手を取り合う姿に「主従逆転からの忠誠愛! 尊すぎる!」という絶叫が学園中に響き渡るのでした。
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私は地味にいやな呪術師
のちに腐女子の女王と言われるエステリー・ミリアーヌから
婚約者に恥をかかせるよう呪いを頼まれたときはどんなことが起きるかと思っていたけど
まさかここまで上手くいくとは
「さぁみんなメモの準備はいい? まずは第一話『偽りの婚約破棄と執事の涙』からよ!」
学園中の女子生徒たちが手帳を広げながら興奮の眼差しでこちらを見つめる様子を見て
私は満足げに頷いた。
呪いなんて大したものじゃなくても世の中うまくいくもんだねぇ。
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