第八章:喝采のあとで
割れんばかりの拍手が降り注ぐ中、2年B組の生徒たちは夢見心地のまま、舞台袖へと引き上げた。その瞬間、張り詰めていた糸が切れたように、全員の感情が爆発した。
「やった!」「すごかったよ!」誰もが興奮状態で、互いの肩を叩き合う。女子たちはすぐに静香を囲み、「最高だったよぉ」と涙ながらに抱きついた。
少し離れた場所では、男子たちが「まあ、あんなもんじゃね?」などとクールな顔で言い合いながらも、その口元が緩んでいるのを隠せてはいなかった。
熱狂冷めやらぬまま教室に戻ると、担任の斉藤が満面の笑みで腕を組んで待っていた。
「お前ら……最高だったぞ!」その心からの賛辞に、クラスは再び大きな歓声に包まれた。斉藤は満足そうに頷くと、パン、と一度手を叩いた。
「さて、先生からの話は以上だ。あとは各自、文化祭を存分に楽しんでこい! 解散!」
その言葉を合図に、生徒たちは一気に文化祭の喧騒の中へと散っていく。
「じゃ、俺らは機材片付けてくるわ」村上豊が、数人の男子に声をかけた。浩一が「俺も手伝うよ」と立ち上がると、豊はニヤリと笑ってその肩を強く叩いた。
「バカ、お前はいいんだよ。ちゃんと楽しめ」その目には、全てを分かっているという温かい光が宿っていた。豊は浩一の背中を押し、仲間たちと連れ立って教室を出ていく。
「あ、私たちもジュース買ってこよっか、順ちゃん!」
「そうね、喉が渇いたわ」 残っていた恵と順子も、わざとらしいほど大きな声で言い合うと、静香と浩一にウインクを残して教室から駆け出していった。
やがて、教室には二人だけが残された。窓の外からは、他のクラスの賑やかな声や、ブラスバンドの演奏が遠くに聞こえてくる。その喧騒が、嘘のようにこの部屋は静かだった。
「……すごかったな」先に沈黙を破ったのは、浩一だった。
「うん」静香は、小さく頷く。 言葉は、それ以上続かなかった。この沈黙は、「行くな」という浩一の言葉と、「さよなら」という静香の返事を、同時に含んでいた。 だが、それで十分だった。たくさんの言葉を交わすよりも雄弁に、二人の間の空気が想いを伝えている。
「行こっか」浩一が静かに言うと、静香はもう一度、頷いた。 仲間たちの粋な計らいで手に入れた、二人だけの時間。文化祭の喧騒を背に、二人は並んでゆっくりと校舎を後にした。これから始まる未来も、今日限りで終わる恋も、今はまだ言葉にしないまま。ただ、すぐ隣にある互いの温もりだけを感じながら、二人は歩いていった。




