第五章:共犯者たちのユニゾン
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Girls Just Want to Have Fun/Cyndi Lauper
翌日の昼休み。ざわめきが満ちる教室の前方に、恵と浩一、そして静香たちが並んで立った。昨日までの数人の計画を、クラス全体に打ち明けるためだ。恵はごくりと唾を飲み込むと、意を決して口を開いた。
「――というわけで、私たちは先生たちに内緒で、静香のソロステージを成功させたいと思ってます」 恵がゲリラ作戦の全貌を語り終えると、教室は水を打ったように静まり返った。ほとんどの生徒が、あまりに大胆な計画に戸惑い、どう反応すべきか決めかねている。
最初に反発した男子生徒は、呆れたように腕を組んでいる。 やはり、無謀すぎたか。恵の心が折れかけた、その時だった。
「……それって、俺たちが直接、先生に逆らうってわけじゃないんだな?」 意外なことに、声を発したのは、いつも真面目に授業を受け、校則をきちんと守っている委員会の生徒だった。
「俺たちがやるのは、あくまで合唱曲『翼をください』の練習。ソロパートは、宮前さんが勝手にやるってことで……俺たちに責任はない。そういう解釈でいいのか?」 浩一が、その言葉に静かに頷く。
「ああ。みんなには責任はない。問題が起きた場合には、俺と恵が責任を持つ」その一言が、クラスの空気を変えた。
「それなら……手伝うよ」真面目な生徒のその言葉が、堰を切ったように皆に広まった。
「そうだよな! いつも学校は俺たちを抑え込んでばっかりだ!」
「去年の文化祭も、校則ばっかりで全然面白くなかったし!」
「どうせやるなら、記憶に残る方がいいに決まってる!」
これまで心の奥にしまい込んでいた学校への不満が、マグマのように噴き出していく。自由を奪われ、管理されるだけのつまらない文化祭に対する鬱憤が、静香のステージというたった一つの目標に、熱となって注ぎ込まれていった。
「アレンジなら、私と合唱部の友達で手伝えると思う」順子が静かに手を挙げる。
「照明の配線は、俺に任せろ!」豊が胸を叩いた。
もちろん、全員が熱狂したわけではない。ほとんどの生徒は「面白そうだから」「責任がないなら」という、少しだけ無責任な好奇心からだった。
だが、それで十分だった。クラスという不揃いな集団が、初めて同じ方向を向き、不器用なユニゾンを奏で始めたのだ。
その日の放課後から、教室の空気は一変した。隅の方では、順子と合唱部の生徒たちが合唱曲のアレンジについて小声で議論し、豊の周りには数人の男子が集まって照明の配線図を覗き込んでいる。
そして、静香は一人、自分の戦いを始めていた。自室のステレオラジカセで、何度も何度もシンディ・ローパーの曲を再生する。歌い慣れていない英語の歌詞を、必死に耳で追い、ノートに書き写していく。
浩一は、教室の隅で配線図を眺めるふりをしながら、静香の背中を見ていた。クラス全員を巻き込んだのは、自分たちだ。だが、最も孤立し、試練に立ち向かっているのは、彼女一人なのだと知っていた。彼は、自分のサポートが、彼女の孤独な戦いを邪魔しない、完璧なものでなくてはならないと強く誓った。
**それは、歌詞の中の男性が女性を支配しようとする一節。
**そして、女の子はただ楽しみたいだけだと叫ぶサビ。そのフレーズが、夢と浩一との間で揺れる自分の心に重なった。
これは、みんなのステージだ。でも、同時に、私のためのステージでもある。
静香はぎゅっと唇を結ぶと、もう一度、再生ボタンを押した。共犯者たちの想いを背負って立つステージで、最高の歌声を響かせるために。




