4 愛の星、地球を護る使命
……ボクは空を翔んでいた。
横に、いつも夢のなかにでてきて、ボクを導いて護ってくれる人が一緒にいた。
夕暮れだった。
下には、砂漠のような大地がひろがっていて、そこでは激しい戦闘が繰りひろげられているように見えた。
すでに何日も戦闘が続いているようだった。
「レイ!」
レイと呼ばれた男の人は三十歳くらいで、、戦闘の指揮をとっているらしかった。
ボクは、なぜなのか直観的に、その人がボクだということがわかった。
「レイは、キミの過去世の姿の一つだ。キミはいつでも仲間たちと一緒に、地球の平和のために戦ってきたんだよ」
そういう声がボクの体のなかから聞こえてきた。
「日没が近いぞ! 気を引き締めよ!」
「オー!」と、戦士たちの声が上がった。
日没は、戦場でも、いつものように美しかった。
レイは自陣の戦士たちの間を歩きながら、夜の戦闘に備えるために大声で一人ひとりの兵士を激励して歩いた。
兵士たちは、堀のようになった窪地に身を潜め、襲ってくるものに対して備えを固めた。
体のあちこちから血を流し、兵士たちの誰もが疲れ切っていた。
砂塵にまみれた血と汗が泥のようになって体にこびりついていた。
ボクの知っている顔が幾つもあった。
ケントも、タダシも、そのなかに一緒にいた。
その他にも、見覚えのある顔が幾つもあった。
傷ついた兵士の世話をする女たちのなかには、マユミの姿もあった。
何人もの仲間たちが無残に殺されて死んでゆくのを、レイは見てきた。
死相を、レイは見分けられるようになった。
敵は、日没とともに襲い掛かってきた。
敵は、レイたちが住む、オアシスを中心にしてひらけた城塞都市を奪い取りに来た、夜行性のテプラノドンに似たレプタリアンだった。
「松明を焚け!」
「矢を用意しろ!」
レプタリアンが襲ってくると、なんともいえない、腐臭のような嫌な臭いがした。
ビュン、ビュン、ビュンという羽根の唸る無気味な音が聞こえる。
テプラノドンは鋭くとがった大きなくちばしで人間を襲い、口からは火を吐いた。
攻防は絶え間なく続いた。
夜の暗がりの中で、レプタリアンたちはまるで御伽噺に出てくる悪魔のように見えた。
夜半を過ぎると、風が出はじめた。
砂漠の民は戦いながらも、夜の闇を透かして、途方もない壁のような砂塵が巻き上げられるのを見逃さなかった。
レイたちは本能的に砂嵐に備えた。
砂嵐は一気に戦場を襲い、夜明け近くまで続いた。
太陽の光が差し始めたとき、そこにレプタリアンの姿はなかった。
砂嵐の打撃を受けたこともあるが、夜行性レプタリアンは日の光の下では十分な力を使えないのだ。
レイたちは深追いしないで、いっとき体を休めてから、レプタリアンの追撃を開始した。
レプタリアンは砂を塔のようにうずたかく固めた上に、なにやら黒い城のようなものを築いていた。
塔のように固められた砂の傾斜が急なだけに、その上の黒い城のようなものは一層、天に向かってそそり立っているように見えた。
「あれがレプタリアンの砦だ。あそこに奴らの族長がいる」
「あの砦を落とすんだ!」
鬨の声を上げて、レイたちは切り込んでいった。
レプタリアンは、魔力が使えないとはいえ、体力的には並みの人間を遥かに凌いでいた。
鋭い嘴、尖った屈強な手の爪、そして、足の鉤爪が、そのまま戦闘の武器となった。
戦闘は、それからさらに三日三晩続いた。
何度も砂嵐が起こった。
激しい砂漠地帯の陽ざしがレプタリアンと人間達を焼いた。
人間達は砂嵐に耐え、激しい日差しに耐えて戦い続けた。
多くの仲間が死んだ。
死んだ仲間はそのまま戦場に放置され、レプタリアンの餌になった。
……屍累々の戦闘の場で、最後まで生き残ったのは幸運にも人間たちだった。
「我らの神が勝利したぞ!」
「エルの神の勝利だ!」
勝利の喜びは波のようにレイたちを包みこみ、高揚させた。
勝鬨が上がった。
勝鬨は、何度も、何度も、上がった。
後、残るのは、砂の塔の上に建てられた黒い城だった。
あの城を奪い取れば、人間たちの完全な勝利だ。
戦士達の目が聳え立つ黒い城を見上げた。
そのとき、「ドドドドドーッ」という爆音とともに、はげしく大地が揺れた。
城が火を吹いて振動していた。
見たことのない光景に、まわりを取り囲んでいた人々の輪がバラバラと乱れた。
黒い城は、轟音とともに浮き上がったかと思うと、そのままゆっくりと上昇し、それから一気に加速して天空のかなたに消えていった。
「アキラ、キミたちはこうしていつも地球を侵略しようとする外敵と戦ってきたんだよ。地球を乗っ取って、地球人を家畜にしようとたくらむ悪質宇宙人、レプタリアンから地球と地球人類を護るのがキミたちに与えられた役目だったんだ」
ボクの横にいた人が、ボクの顔をのぞき込むようにして、そう言った。
「キミたちは、もう何億年も昔に、地球の神様に招かれて、この地球に渡ってきたんだ。そのときのキミの名前はザムザ。覚えてはいないだろうが、ゼータ星と呼ばれる星から来たんだよ」
「あなたは、どなたなんですか。どうして、そんなことを知っているんですか」
「わたしは、キミだ。キミ自身、キミの魂の兄弟。キミの守護霊だ。そう言っても、いまはまだわからないかもしれないね」
「弟のケントも、タダシもマユミも、一緒にきたんですか」
「ケントとタダシはプレアデスから、マユミはベガからきたんだ。三人とも、もとは金星で創られた魂なんだ」
ボクの守護霊と名乗った人は両手をひろげると、大きなスクリーンのようなものを見せてくれた。
そこに、未来社会のような都市の姿が映し出された。
地上から離れたところに、透明な高速道路のようなものが張りめぐらされ、車は道路上を浮揚して走っていた。
空中には様々なものが往来し、建物はまるで山のように高くそびえたっていた。
「これが、キミのいた星の姿だ。この星から、宇宙船に乗って地球まできたんだ」
一キロメートルを超えるかと思われる、巨大な宇宙船が編隊を組んで宇宙空間を移動しているのが見えた。
宇宙船のなかには、小さな円盤がいくつも内蔵されているようだった。
宇宙船の窓から地球が見えた。
「あれが、地球だ!」という声が上がった。
「なんて美しい! 聞いていたとおりの青い星だ!」
宇宙船の窓という窓に人が集まり、歓声が上がった。
「地球の成長と発展・繁栄を見護り、促進し、貢献することがわたしたちの役割だ。これまで、何億年という時間、地球と地球人類の栄枯盛衰を見護りつづけてきたんだよ。いまは、宇宙連合が中心になって地球を護ってくれている」
スクリーンに、見たことのない、不思議な光景が映し出された。
それは地球を出発点として、その地球を超える世界の図だった。
「これが、あの世といわれる世界だ。これが、生命が生きている本当の姿なんだよ。
キミたちが生きている、この地上という世界は、神様が創られた大宇宙のなかの、ほんの一部にしか過ぎないのだよ。
これから、キミは様々な神秘体験を経て、いまわたしが示しているこの世界を、ある程度理解できるようになるだろう。
この世界は偶然に出来上がったものではないんだよ。
一つの巨大な意志があり、その意志がエネルギーという形をとって、解き放たれてきたんだ。
これまで一千億年という時間が経過してきたと言われている。
わたしも、そこまでのことはわからない。
これからまた新しい時代がはじまろうとしている。
新しい創造の前には破壊もある。
この時代に、混乱の中から多くの人々を導くためにわたしたちは出てきているんだよ」