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Episode 87: レポート(大場視点)

昼過ぎ。

自宅の玄関を開けると、室内は静かだった。


靴を脱ぎ、鍵をかける。

そのままリビングに入り、バッグをソファに置いた。


誰もいない。


夫は仕事。子どもたちはすでに家を出ている。

この時間、この家にいるのは自分ひとりだけだ。


視線だけで室内を一巡させる。

問題なし。


テーブルの上にノートパソコンを置き、電源を入れる。

起動を待つ間にキッチンへ向かい、湯を沸かす。


急須に茶葉を入れる。

湯が沸き、音が止む。


静けさの中で、湯を注ぐ。


カップを持って戻る頃には、画面は立ち上がっていた。


椅子に座る。

一口だけ茶を飲み、カップを置く。


そのまま、キーボードに手を置いた。


--------------------------------------------------------------------

観測記録 対象:流星(仮名)ほか2名


本日、対象と接触。

場所:対象居住アパート付近。


接触は自然発生的に実施。

警戒反応:なし。


対象は買い物帰り。

食材所持。自炊の可能性高。


生活状況:

・男性3名で同居

・経済状況は良好ではないが破綻はしていない

・最低限の生活維持能力あり


対話中の反応は一貫して受動的。

質問に対しては素直に応答。虚偽の兆候は確認されず。


近隣情報への理解は低い。

町内会・回覧板等の認知なし。


→ 外部流入者の可能性が高い


町内会参加を提案。

拒否反応なし。


→ 接触頻度増加の余地あり


対象の性質:


・対人距離:近い

・警戒心:低

・社会性:平均以上

・統率性:不明

・戦闘能力:判断材料不足


現時点評価:


高危険度条件には該当せず


仮説:

一般人、または低脅威群


ただし完全否定は不可


理由:

・人数一致(3名)

・生活拠点不明瞭

・過去経歴未確認


結論:


優先度:低

監視:継続

直接介入:不要

--------------------------------------------------------------------



入力を終え、数秒だけ画面を見つめる。


誤字なし。

論理破綻なし。

追加事項なし。


保存。

ウィンドウを閉じる。


カップを手に取り、先ほど入れていた茶を一口飲んだ。

少し温度は下がっている。


問題ない。


(……現時点では、該当可能性は低い)


・警戒心が低すぎる

・情報統制の形跡なし

・生活基盤が露出状態

・戦力保全意識が見られない


既知の“四天王”プロファイルと一致しない。


——むしろ、条件に対して彼らは無防備すぎる。



そのとき、チャイムが鳴った。


一度、瞬きをする。


椅子から立ち上がる。

玄関へ向かう。


その数歩の間に、すべてが切り替わる。


ドアを開ける。


「あらあら〜、こんにちはぁ!どうしたの?」


近所の主婦(主婦友)が、タッパーを手に立っていた。


「これねえ、ちょっと作りすぎちゃって。よかったらどうかしら?」


「あらぁ〜!まあまあ、いいのぉ!? いつもありがとう〜!」


声の温度が上がる。

表情が柔らかくなる。


「いいのいいの、遠慮しないで〜」


「じゃあお言葉に甘えちゃおうかしら。」


自然な流れでドアを大きく開ける。


「ねえ、少し上がっていかない?ちょうどお茶入れたところなのよぉ!

貰い物なんだけどクッキーもあるのよ?」


「いいわねぇ!じゃあちょっとだけ、お邪魔しようかしら!」


彼女をリビングに通す。


ノートパソコンは閉じられている。

そこにあったはずの記録は、もう見えない。


「あっ、そういえばさっきねぇ、この辺のパン屋さんの話してたのよ〜!」


「ああ、あの新しくできたところ?」


「そうそう!あそこねえ——」


話は途切れることなく続いていく。


笑い声。

相槌。

どこにでもある、ありふれた午後。


その裏で。


先ほどの記録はすでに整理・保存され、次の観測に組み込まれている。


キー入力の速度は変わらない。

思考と同時に、文章は正確に出力される。

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