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Episode 82: 新境地?

敦史の様子がちょっとおかしいと気づいたのは、こたつに入って三十分くらい経ってからだった。


いつもならスマホでゲームの情報を漁ってるか、がっつり昼寝をしているかのどっちかなのに、今日は珍しく何もしていない。


ただ、こたつ布団に半分埋まりながら、天井をぼんやり見ている。


「……なあ敦史」


みかんの皮を剥きながら声をかけると、少し間を置いて、


「んー……?」


気の抜けた返事。


「なんだか今日は珍しいな。どうしたんだ?」


敦史は視線だけ俺の方に向けて、小さく息を吐いた。


「次の実況、何やろうか悩んでて」

「ああ~……」


なるほど、それか。


敦史の実況は、FPS中心で、淡々としたプレイと冷静な解説が売り。

ほそぼそとだが最近ちゃんと登録者数も増えて固定ファンもついているようだ。

敦史自身はあまりそういうのは見ないようにしているようだが、

俺は気になってちょくちょくチェックしていた。


「悩む必要なくない?

いつも通りFPSでいいんじゃないの?」


俺がそう言うと、敦史は微妙な顔をした。


「それがさ……」


スマホを取り出して画面を見せてくる。

コメントのスクショらしい。


「“JUNさんとプレイスタイル似てません?”とか、“同一人物じゃね?”みたいなのが、ちょいちょい来てて」

「あー……」


それは、面倒なやつだ。

JUNは敦史の昔のアカウント名だ。

過去の色々があったので、今は完全に別名義・別キャラで活動している。


でもFPSって、上手い人はどうしても動きに癖が出るんだそうだ。

なので詳しい人には「JUNに似ている」と思われることもあるらしい。


「だから……FPSオンリーじゃなくて、

たまに別ジャンル挟んで、印象薄めようかなって思ってるんだけど」


敦史は後頭部を掻いた。


「FPS自体は好きだし続けたい。ただ……

“別ジャンル”って多過ぎて何やればいいのか分からないんだよな」


ゲーム自体が好きだからこそ、選択肢が多すぎるって事らしい。

なんだか敦史らしい悩みだ。


ただ、うちのメンバーだと修二はゲームほとんどやらない。

クロは論外。


……結果、相談相手は俺しかいない。


「そうだなあ。全く別ジャンルって思いつくとなると

ホラゲとか?恋愛ゲーとか?」


適当に言うと、敦史は少し考え込んだ。


「うーん、一人で完結するやつがいいんだよな。

あと、攻略じゃなくて、初見での反応だったらこれまでと違うし」

「なるほど」

「もちろんFPS捨てる気はないから、

たまに違うの混ぜて、って感じなんだけど、難しいな……」


しばらくお互いに沈黙が続いた。


そんな中ある一つ思いついた事があって

こたつの中で足を動かしながら、俺はぽつりと言った。


「じゃさ」

「うん?」

「俺と一緒にホラゲとかどう?」


敦史が瞬きをする。


「は?……流星と?」

「そう。“友達とホラゲやってみた”系。

今まで一人で淡々とだったんだろ?

それだとガラッと変わるじゃん」


敦史は数秒考えてから、ゆっくり頷いた。


「確かに。二人協力なら真逆だな」

「だろ~」


そして俺は、軽く付け足す。


「だけど俺、こういうホラーって苦手っていうか

驚いて真っ白になっちゃって

プレイ自体あんまり上手くはないんだよなあ……」


敦史の口元が、ほんの少し緩んだ。


「まあ、それ、逆にコンテンツとして強いかもな。

じゃあ一旦、流星のハンドルネームはリューでいくぞ。

ゲームのアカウントそれで登録しておくからな」


正直この時点で若干嫌な予感はしたんだよな。



結果から言うと……

俺は開始五分で叫んでいたんだ。


「ちょ、ちょっと待って無理無理無理!!

いぎゃあああああ!」


暗い廃病院の廊下。

壁の染み。

遠くで鳴る金属音。


最新作だから滅茶苦茶画質が良すぎて

リアルすぎてかなり心臓に悪い。


「リュー、左。アイテム」

「ああああああっ!

今それどころじゃない!!」


背後で何かが動いた気配がして、俺はコントローラーを持ったまま縮こまる。


「うわあああ来た来た来た来た!!

なにこれなにこれええええ!!!」

「ちょ、落ち着け、スタミナ管理…ってどこ行くんだお前」


一方の敦史は淡々としている。

声のトーンが完全にFPSの時と同じだ。


「右スティックで視点。俺がライト当てる」

「いや何!?無理!怖い怖い怖い!」


俺がパニックになって壁に突っ込む横で、敦史は冷静にギミックを解除していく。


「はい、ここセーフゾーンだから」

「ほへぇ……助かった……」

「さっきモロにザコの攻撃らってただろ、今のうちに回復しておけよ」


完全に俺はお荷物だった。敦史にキャリーされっぱなしだ。


しかもこれが一度や二度じゃない。


敵が出れば俺が騒ぎ、

謎解きは敦史が即答し、

俺が回復アイテムを無駄遣いし、

敦史が在庫管理する。


なんだか普段の生活と真逆だ。


「……リュー、ちょっと無駄弾使いすぎ」

「だって急に敵が来たので!

何発撃ってとか全然頭に入らないって!!!」

「何でこんな混乱しつつ発言でネットミームぶっこんでくるんだ…

とりあえず先に進む前にまず心音聞いて。予兆あるから」

「うわああ!無茶言うな!こんな暗闇でそんな余裕ない!」


最終ステージ直前、俺は完全に疲弊していた。


「ううう……もう帰りたい……」

「ここまで来たらあとはラストバトルだから行こう。

まあ、あと十分位だと思うから。」


しかしその十分が長かった。


ボス戦では俺がさんざんひっかきまわしてしまい、

俺の悲鳴に比例して敦史が無言でボスの攻撃をさばいていった。


気づけばエンディングで、俺はそのまま畳の上に倒れ込んでいた。


リザルト画面。

評価:B。


「うわぁ……微妙な評価だな」


俺が言うと、敦史は小さく笑った。


「でも動画的には悪くない」


録画を切って、アーカイブをざっと確認する。


確かに……やたらドタバタしてる。

俺はなんだかずっとあちこちに走って叫んでいるし。

逆に敦史は淡々と俺の失敗の処理をしてる。


いつもの敦史の硬派FPSとは全然違う。


でも――


「これはこれで……アリだな

ある種新境地かもな」


敦史が静かに言った。

それを見て俺は天井を見ながら息を吐いた。


「なんというか、こんな無茶苦茶な

ひどいプレイでいいのかな…俺」

「需要あるよ」

「ふぁっ?マジで?」

「少なくとも、この動画を見る限りはな」


そう言われて、少しだけ救われた気がした。


敦史が一人で背負ってた悩みが、ほんの少し軽くなったなら、それでいい。


普段は俺が前に立って、敦史が後ろで支える。

でも今日は、完全に逆だった。


まあ、たまには、こういうのも悪くない。


こたつに戻って、みかんを食べながら俺は思った。


ドタバタで、評価Bで、叫び散らかして。

それでも。

新しい一歩としては、十分だったと思う。



投稿したあとで確認してみたら、コメント欄は別の意味で大盛り上がりだった。

評価的には好評だったけど、俺の情けないプレイを思い出すとちょっと複雑になる。

それは敦史には内緒だ。


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