Episode 7: 寝具とピザで夜を乗り切れ!
「よし、着替えたんなら次の買い物に行くぞ!」
「…何を?」
修二、敦史、クロが揃って首をかしげた。
「……って、そうだ言ってなかった。
さっき領収書見たんだけど、今日って11月22日なんだよ。
つまり――もうすぐ冬だ!」
四天王として立った俺たちにとって、最初に立ちはだかったのは正義のヒーローでも国家の圧力でもなかった――冬だった。
俺がそう言うと、修二が小さく頷いた。
「寒いと思ったら、そういうことか。…このままじゃ夜を越せないな」
敦史が腕を組んでつぶやく。
「布団って、そんなに大事か? 昔はなくても平気だったけど…」
「お前、どんな環境で育ったんだよ…」
俺が呆れると、敦史は少しムッとした顔をしたが、それ以上は何も言わなかった。
そのとき、クロが触手を縮こませて震えた。
「クロ…さむい…よる…いや…」
…急がなきゃ。
11月末の夕方。日が暮れるのは早い。今はたぶん16時半頃だ。
「そうだ。隣駅に無銘良品があるはずだ。日用品や寝具も揃ってると思う」
俺が提案すると、修二が頷いた。
「よし、そこに行こう。クロは…すまないが、留守番を頼めるか?」
「るすばん……?」
クロが不安そうに首をかしげる。
「クロ、留守番ってのは、ここで俺たちが帰ってくるのを待っててくれることだ」
修二が優しく言うと、クロが触手をパタパタと動かして答えた。
「クロ…るすばん……がんばる! でも…さみしい…かも…」
「大丈夫。すぐ戻るから。クロ、窓の外は見ないでくれよ? 誰かに見られるとまずいからな」
クロが小さく頷く。
「…予算は5万円以内で。200万円全部は持って行かないようにしよう」
修二の指示に、俺たちは頷いた。
「じゃあ、さっさと行こうか」
アパートを出て駅へ向かう途中、俺たちはふと目を奪われた。
古びたビルの一角に、大きなリサイクルショップ。
ショーウィンドウには中古のソファや家具が並んでいる。
「…ここでも寝具、揃うんじゃないか?」
俺が言うと、敦史が眉をひそめる。
「…中古の布団って、なんか嫌だな。前の人の匂いとかしそうだし」
「だな。寝具は流石に抵抗がある。
せっかくだし新品にしよう」
修二も同意し、俺たちは無銘良品へ向かった。
駅に着くと、敦史がキョロキョロしていた。
「これが電車か。
…昔、一度だけ乗ったが、やっぱり揺れるな…」
「お前な…さっきから“初めて”ばっかりだな」
俺が笑いながら言うと、敦史がむくれて言い返した。
「うるさい! 今は色々と勉強中なんだよ!」
…まあ、楽しそうでなによりだ。
無銘良品に着いた俺たちは、シンプルで落ち着いた店内に足を踏み入れた。
目的は寝具――のはずだったのに。
「なんだこれ…木のスプーン? 飯食えるのか?
…服もある! 次はここで買うか?
バウムクーヘンって、こんなに種類あるの?
アロマ…? ディフューザー…?」
敦史が目をキラキラさせながら店内を徘徊していた。
「おいおい、目的忘れてないか? 寝具買いに来たんだぞ!」
「初めて来たから仕方ないだろ! お前だって初めてのときはそうだったろ!」
「…まあ、確かに無銘良品は何回も来たことあったから慣れてるけどさ」
俺が苦笑いすると、修二が笑いながら敦史をフォローした。
「まあまあ、敦史の気持ちも分かる。
…でも、まずは寝具だ」
俺たちは寝具コーナーで、布団セット(掛け布団・敷布団・枕・毛布)を3つ選んだ。
クロ用には、特大サイズの毛布を2枚追加。
ついでに、せっけん、歯ブラシ、タオル、最低限の生活用品も揃えた。
「…結構な荷物になるな」
「でも、予算はギリギリセーフだ。5万円でなんとか収まった!」
会計を済ませると、もう外は暗くなっていた。
俺たちは荷物を分担して、再び駅へ向かった。
帰りの電車で、敦史がまた窓の外を眺めていた。
「…夜の電車って、また雰囲気違うな」
「お前、電車の感想だけで小説書けそうだな…」
俺が呆れた声を漏らすと、修二が笑って言った。
「流星、もうすぐ着く。あとひと踏ん張りだ」
駅に着くと、俺たちは駅前のピザ屋に立ち寄った。
「…もう夕飯作る余力ないな。ガスも確認してないし」
「だな。ピザ買って帰ろう。今日はそれでいいだろ」
修二の提案に、即答で頷く俺と敦史。
ピザ2枚を手に、ボロアパートに戻ると――
「ミンナ! おかえりっ!」
クロが触手をパタパタさせて出迎えてくれた。
「クロ、いい子にしてたか? 寒くなかったか?」
「クロ…がんばった! でも…さみしかった…!」
「よし、これで今夜は暖かく眠れるぞ」
俺が毛布を広げると、クロの目がキラキラ光った。
布団を敷き、日用品を片付け、ようやく落ち着く。
ピザの箱を開けると、香ばしいチーズの香りがふわっと広がった。
「せっかくだし、組織再結成を祝って――ピザパーティーといこうぜ」
俺の提案に、修二が頷く。
「いいな。俺たち、これからやるべきことが山積みだ」
敦史がピザを手に取り、ポツリとつぶやく。
「……ピザって、うまいな。『買う』のは初めてかも」
クロは不思議そうにピザを見つめている。
どうやら食べ方が分からないらしい。
「クロ、こうやって持って、かじるんだよ。熱いから気をつけてな」
恐る恐る一口かじったクロが、目を輝かせる。
「クロ…! ピザ…おいしい……!」
チーズが触手に絡み、クロが慌てて触手を振り回す。
「おいおい、落ち着けって! チーズは伸びるんだよ!」
俺たちは思わず笑ってしまった。
「…お前、チーズ絡まりすぎだろ」
敦史が呆れたように言う。
クロはピラピラと触手を振って嬉しそうに言った。
「クロ…ピザ…だいすきっ!」
その一言に、俺たちは顔を見合わせて――笑った。
ほんの少しだけど、俺たち「四天王」のチームが形になった気がした。
大荷物とピザで迎えた、最初の夜。
俺たちの新しい日常が、今ここから始まる。