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Episode 65: 戦闘ノート

明けましておめでとうございます。

今年もよろしくお願いいたします。

新年一発目の投稿となります。

三月の空気って、なんか落ち着かない。

まだ冬みたいに冷えるくせに、やけに湿気だけ春めいていて、

コートを着るべきかパーカーでいいのか分からない日が続いている。


地下施設の扉を開けた瞬間、その“変な空気”はさらに濃くなる。


「……湿度、上がってるな」

修二が低い声で呟く。


クロは壁を触って「じめじめ……?」と不服そうだし、

敦史は眉間を押さえて「気圧のせいか、集中が難しい……」と言っていた。


俺も、喉の奥がざわつくような落ち着かない感じがある。

そのせいか、みんながなんとなく調子がズレてるのがわかった。


「じゃ、今日は軽めに様子見しながらやろうぜ」


自分でも気づかないうちにそう言っていた。

“無理はさせたくない”とかじゃなくて、

この空気で全力を出すと逆に変に疲れそうだったからだ。




でも準備運動の段階で、すでに“ズレ”は出ていた。


クロの触手は湿気でキレが悪く、

敦史の精神探査は雑音が多いらしい。

修二は肩が固いのか、ストレッチのたびにミシッと音がしている。


「……みんな、今日は様子見る感じでな?」


一応声を掛けると、クロだけが素直に「うん……」と寄ってくる。

敦史は「わかってるよ」と言いつつ明らかに意地張ってるし、

修二は淡々と頷いたけど、その仕草にもどこか疲れが滲んでいた。


そう言っている俺も決して万全じゃあないんだけど、

なんとなくだけど普段と違う“ズレ”にはすぐ気づくクセが昔からある。

これは一緒に生活してるから余計にだろうな。




今日のメニューは、ターゲット確保のミッション形式。

地下のミニフィールドに配置されたダミーと障害物を回収し、

出口まで全員で脱出するという若干難易度高めに設定したルールだ。

陣内博士が先日送ってくれた戦闘シミュレーターのデータに入っていて

最近は単純な戦闘訓練だけではなくこういうのも取り入れている。


普段なら自然と修二が先頭に立つ。

だけど今日は、その動きに微妙な引っ掛かりがあった。


敦史の歩幅も少し乱れていて、

クロの切り込みもタイミングが遅い。


どうも“連携の歯車が全部ちょっとずつズレてる”。


それに一番早く気付いたのは、たぶん俺だ。


だから俺は――

自然と“穴を埋める”動きに回った。


「修二、そこ踏み込むと肩に負担来る!」

「敦史、右側の死角広がってるぞ!」

「クロ、その角度だと足もつれる!」


速さを生かして即座に気付いたことをぽんぽん口に出して、

三人の間のズレから来る“隙間”を埋めるように動いた。

俺も調子はいい方ではないが、今は自分の動きより仲間のズレのほうが気になる。


速度に頼って軌道修正し、

攻撃と防御のタイミングに合わせて走り、

誰かが遅れたらそこを埋める。


一人で先陣切るみたいなカッコよさはない。

けど――

ズレに気が付いて調整していたら全体が噛み合う。


そんな感じだった。


気がつけば、ターゲット確保も脱出も成功していた。

調子はイマイチだったが、何とかミッションはクリアは出来た。

ただ、記録的にはあまりいいものではなかった。


上がった息を整えながら天井を見る、疲れが一気に噴き出してくる感覚がある。

はー……今日はもうこたつに帰りてぇ。




そんな気持ちで休憩してると、いきなり敦史が俺の前に立った。


「……流星」


「ん?」


「お前さ、自分の動き……見てねぇだろ」


「は?」


なんだよ、急に言葉で刺すんじゃねえよ、と思ったが敦史は腕を組みながら続ける。


「今日の成功、半分以上お前のフォローだ、そこはありがたいと思ってる。

 でもさ……お前、自分の動きがどうなってるか、たぶん全然自覚ねーだろ」


図星すぎて、返す言葉もない。


そこに修二がペットボトル片手に近づいてくる。


「流星。

 お前、走る時に肩の入りが少し遅れる癖がある。

 なまじスピードある分、それが細かくロスになってる。分かってたか?」


「え、マジで?」


「あと前傾になりすぎている。視界が狭くなってるぞ」


修二の言葉は端的だが、それが逆に刺さる。


続いてクロが、とてとて寄ってきて俺の手を握る。


「りゅうせい……飛ぶとき、“ぎゅっ”てしてる。

 からだ、かたくなる。痛そう」


クロもか……おい、感覚鋭すぎだろ。


「……クロのそういうとこ、侮れねぇよな」


でも三人の言葉が、不思議と嫌じゃなかった。

むしろ――

なんでこんなに俺を見てくれてるんだ、って思った。


「悪い、気づいてなかった……ありがとう、な」


そう呟くと、敦史がふっと笑う。


「な? 自分じゃ見えないこと、多いんだよ。

 俺もそうだけど多分これ、お前だけの話じゃねぇ」


修二が静かに言葉を続ける。


「だからさ、流星。

 気づいたこと全部まとめて、みんなのデータにしよう。

 お前のだけじゃなく……俺たち全員の」


クロも手を挙げてにこにこしている。


「クロ、みんなのこと、きがついたこと、いっぱいかきたい!」


その瞬間、胸の奥がじんと温かくなった。


俺だけじゃなくて……

みんなが互いを見て、支えてるってことなんだ。


敦史が言う。


「だからさ。“四天王の共有ノート”つくろうぜ。

 今日の気付きを全部書けるやつ。

 自主練の時に気が付いた事とかも貯めておけば気づいた時に共有できるし」


修二も頷く。


「一人じゃ見えないところ、仲間なら見える。

 それを集めたら……きっと強さになる」


クロは嬉しそうに跳ねている。


「みんなのノート! つくる!」


なんか……そのみんなの言葉に思わず泣きそうになった。


「……いいじゃん、それ。

 俺ら四天王だし、共同ノートくらい持ってもいいよな」

「なんだよそれ、四天王じゃなくったって持っててもいいだろ」




アパートに戻ってこたつに入ると、

世界が戻ってきたみたいにほっとした。


新しいノートを取り出し、表紙に書く。


『四天王・戦闘ノート』

――自分では見えないところを、仲間が見て補うための記録。


一ページ目には、今日の“誰が誰に気づいたか”をまとめた。


【修二 → 流星】

・肩の入りにズレ

・前傾姿勢が強い


【敦史 → 流星】

・他人優先しすぎ

・自分のフォームを見ていない


【クロ → 流星】

・ジャンプの瞬間に身体が固まる


【流星 → 修二】

・肩の強張りで動きのキレ低下


【流星 → 敦史】

・雑音に反応しやすい状態


【流星 → クロ】

・湿度で擬態が不安定になって焦りやすい


自分の弱点が並んでいるのに、

なんでだろう……不思議と全然嫌じゃない。


これ、

『俺が一人じゃ気づけなかった“俺自身”』なんだ。


そこに、仲間の忌憚なき目がある。

それが、めっちゃあったかい。


敦史が後ろから覗いて言った。


「いいじゃん。毎回書こうぜ。

 俺ら全員で“戦闘記録”を作り上げていくんだよ」


修二が微笑む。


「続けよう。四人でな」


クロは「クロ、絵日記みたいにかく!」とやる気満々だ。


なんか、胸が熱くなって笑いが出た。


「よし! じゃあ訓練の日の締めは……ホットサンドだ!」


「なんでそこだけ決めてんだよ!」

「いや食うけどさ……」

「りゅうせいのサンドすき!」


ホットサンドメーカーを温めながら、

俺はノートをちらっと見た。


“仲間が見てくれた俺”

“俺が見た仲間”

その全部がこのノートに積み重なる。


これがあれば、

きっともっと強くなれる。


もっと、みんなと一緒に戦える。


「……よし。今日のページはこれで完了だな」


ホットサンドを焼きながら、

俺はちょっとだけニヤッと笑った。


こいつはただのノートじゃない。


――四天王の、“これから”だ。

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