Episode 5: 再建への決意
重い空気が部屋を包んでいた。
テーブルには、総帥の遺書と、くしゃくしゃの200万円。そして敦史の戸籍。
「自由に生きてほしい」――
その言葉が、ずっと頭の中で反響している。
だけど、俺たちには何も分からない。
総帥は今、どこにいるのか。……本当に、もういないのか。
「……何か、ヒントになるものはないか?」
俺が呟くと、修二が静かに立ち上がった。
「少し探してみよう。この家の中に何かあるかもしれない」
俺たちはボロアパートの中を歩いた。
埃っぽい床、がらんとした部屋。
何もない空間の中を、一つ一つ確認していく。
しばらくして、玄関の方から修二の声が響いた。
「おい、こっちに来い。新聞が落ちてる」
古びた郵便受けの下に、何日分かの新聞が散らばっていた。
日付は、今年の8月28日から31日までの4日分。
おそらく総帥が総攻撃の前に購読を止めたが、月契約の関係で残りが投函されたのだろう。
俺たちはそれを拾い上げ、1枚ずつ広げた。
8月28日付:「悪の組織、突然の総攻撃! 正義のヒーローたち応戦中」
(これが……“総攻撃”?)
8月29日付:「壮絶な戦闘続く! 悪の組織の首領、総帥死亡か?」
(……なに!? 総帥が……!?)
8月30日付:「正義の勝利も……総帥の最後の予告に戦慄」
――「いずれ四天王が現れる」
そう予告を残して、総帥は自爆したらしい。
正義側はその言葉に恐れを抱き、警戒を強めている。
8月31日付:「四天王は現れるのか? 正義のヒーロー、再編急ぐ」
被害は甚大で、正義側も再編に時間がかかっているという。
「……総帥、死んだのか……」
俺が呟いた瞬間、クロの赤い目が潤んだ。
「トウチャン……死んだ……? トウチャン……!」
小さな嗚咽が、また静かに漏れ始める。
だけど――
「……ちょっと待ってくれ」
俺は新聞をじっと見直した。
それから、ゆっくりと声に出す。
「この『四天王が現れる』って予告……たぶん、総帥が最後に打った“フェイク”だよ」
「え?」
「俺たちのことを指してるわけじゃない。
ただ、“存在するかもしれない四天王”っていう脅し文句を残せば、
正義側は警戒して追撃に出づらくなる。
つまり――俺たちがバラバラに自由に生きられるようにするための、目くらましだったんだ」
修二が新聞を見つめながら、静かに頷いた。
「……なるほど。組織が消えても、俺たちが追われずに済むように。
総帥なりの最後の気遣いか……」
敦史が拳を握り、新聞をぐしゃりと丸めた。
「気遣いだろうが、何だろうが……
総帥が死んだのに、こんな形で終わるなんて、納得いかねぇよ」
その言葉に、修二がきっぱりと答えた。
「なら、俺たちが――その“四天王”になればいい」
沈黙が落ちる。
全員が修二の方を見る。
(……それも、ひとつの答えだ)
総帥が俺たちをポッドに隠してくれたから、世間は俺たちの顔も素性も知らない。
ならば、あの“フェイク”を、本物にしてしまえばいい。
クロが涙を拭きながら、震える声で呟いた。
「トウチャンの……ために……やる……!」
……救われた命だ。
「自由に生きろ」って言われたけど、それじゃ何も終わらない。
俺は口を開いた。
「だったら、俺たちで“悪の組織”を再建しよう」
全員の顔が上がる。
「総帥の“嘘”を“本物”にして――
俺たちが“四天王”になる。
そして、総帥の戦いを終わらせよう。
正義に、最後の復讐を果たすために」
修二が真っ直ぐ頷く。
「……そうだな。俺たちがやらなきゃ、誰がやる」
敦史は小さく息を吐いて、握った書類を胸元に押し込んだ。
「……分かった。俺もやる。過去から逃げるのは、もう終わりにする」
クロは赤い目をこちらに向けて、力強く頷いた。
「トウチャンの……ために……! やる!」
こうして――
俺たちは決めた。
このボロアパートを拠点に、200万円を資金に。
俺たちが“悪の四天王”として、再び立ち上がる。
正義のヒーローたちは、どう出てくるのか。
それはまだ分からない。
けれど、俺たちの新たな戦いが――いま、始まる。
導入のシリアス展開は今回で一区切り。
次回からは、“悪の四天王(仮)”の奇妙な同居生活が始まります!
壊滅した悪の組織、残されたボロアパートと二百万……
はたして彼らに世界征服はできるのか⁉︎
今後は、毎週火曜・金曜の週2回更新でお届けします。
よろしくお願いいたします!