Episode 2: なんだ、ここ!?
「本当に、状況が分からない……!」
俺の叫びが、金属の壁に反響した。
ピカピカの部屋、知らない3人、姿は怪人――だが、肝心の総帥がどこにもいない。
現状、何ひとつ分かっていない。
……この気まずい空気も、地味にキツい。
角のある巨大アーマーの男。
仮面をつけた細身の男。
そして、無数の触手が蠢く巨体の怪人。
(さっきの沈黙がまた来たら……胃がやられそうだ)
気を取り直して、自己紹介でも……と思った瞬間、
「チッ…何か手がかりはないのか?」
仮面の男が、苛立ちを隠そうともせずに言い放った。
毒々しいスーツを着た、頭脳派っぽい見た目だが、声の棘が鋭い。
「落ち着けよ。まずは、この部屋を調べてみよう」
角の男が、低く静かな声で応じた。
この不穏な状況でも冷静で、妙に頼もしく見える。
触手の怪人は、依然ポッドを見つめたまま。
「……どこ?」というあの低い声が、今も頭に残っている。
(あいつ、異質すぎる……)
「そうだな、ヒントを探すか」
俺はダメ元で部屋を見渡した。
何か、突破口になるものがあればいいが――
壁の奥に、不自然な継ぎ目が見えた。
近づくと、そこには小さな古びたドア。
金属の光沢に紛れていて、一見すると壁と見分けがつかない。
「これ……出口か?」
俺がつぶやくと他のやつらも次々とドアの前に集まってきた。
「外に出れば、何か手がかりがあるかもしれないな」
角の男が前に出て、ドアに手をかけたが、そこで立ち止まった。
「狭い……このアーマーじゃ通れない」
確かに、この小さくて古いドアは、妙に場違いだ。
このハイテクな地下施設と釣り合わない。
そして、ドアの隙間からは、かすかにカビのような匂いが漂ってくる。
「仕方ない、変身を解除するか」
角の男の提案に、俺と仮面の男が頷く。
「お前は?」
仮面の男が、触手の怪人をちらりと見る。
反応はなかったが、次の瞬間、触手が収縮し、体が滑るように変形。
どうやら、あいつはそのまま通れそうだ。
(……俺たちには無理だな)
仕方なく、俺も変身を解除した。
スーツが消えて体が軽くなり、視界が開ける。……そして、目の前にいたのは――
「な、誰だ!?」
驚くほど整った顔立ちに、鍛え抜かれた筋肉。
ムキムキのイケメンが、堂々と立っていた。
「え、と……?」
声で気づいた。こいつ、角の男だ!
顔も体も完璧。問題は――なぜか服を着ていない。
「なんだ、このふざけた状況……!」
隣からも声が聞こえた。
仮面の男――だった奴が、こちらを睨んでいる。
そいつも変身を解除していて、驚くほど華奢で整った顔立ち。
……いや、そっちも服を着てないのかよ!
慌てて自分を見ると――案の定、俺も裸だった。
(全裸はキツい……!)
とっさに前を隠す。なんでみんな平気なんだよ!
ふと、壁の金属に映る自分を見た。
そこには、改造前の俺の姿。
……懐かしいが今はそれどころじゃアない。
「俺以外、みんなイケメンか……」
思わず漏らした一言に、仮面の男が顔を真っ赤にして怒鳴った。
「は!? 嫌味か!?」
(えっ、なんでキレてんの!?)
「落ち着けよ」
角の男が腕を組み、静かに言った。
そして一言、
「自分の姿を見てみろ」
仮面の男は、しぶしぶ壁を見た。
次の瞬間――
「……俺? ふざけるな、こんな……!」
固まって、震えている。
俺には、特に変わった姿には見えない。だが、彼には違う何かが見えているようだった。
(……なにが見えてるんだ?)
「とにかく、ここにいても埒が明かない。一度、外に出てみよう」
角の男の提案に、皆が頷く。
触手の怪人が、静かにドアを抜けていく。
すれ違いざまに、赤い目が一瞬こちらを見た。
「と、とりあえず外に出よう!」
俺も覚悟を決めて、ドアを通る。
階段の先には、古びた木の床、埃っぽい空気、そして薄暗さ――
明らかに、地下施設とは別世界の空間だった。
「外だ。何か手がかりがあるはずだ」
角の男が言う。
階段を上り、さらに古い引き戸を開くと――
「なんだ、ここは……!」
そこは、時代に取り残されたようなボロアパートだった。
コンクリートの壁にはヒビ、ギシギシと鳴る床。
窓の外は普通の街並みなのに、ここだけ異様な空気。
しかし俺には、見覚えのある場所だった。
「ここ……あの時の臨時控室のアパートか……?」
俺の声に、全員が振り向いた。
「悪いが、そのことについて詳しく聞かせてもらえるか?」