第8話:少年錬金術師の噂、王国に広がる
魔獣王の影を撃破し、俺たちはダンジョンの中層部の探索を終えた。
パーティの全員が無事に生還し、戦果は十分。
「いやー、アークのおかげで助かったぜ!」
レオンが肩を叩いてくる。
「お前がいなかったら、俺たちは確実に全滅してた。感謝するぜ」
「気にするな。俺も戦闘経験を積めたし、悪くない取引だった」
俺はそう言いながら、回収した魔獣王の影の**“魔核”**を手にする。
——この魔核、かなり特殊な性質を持っているな。
解析すると、魔核には**“影を操作する能力”が宿っていることが判明した。
もしこれをうまく利用すれば、「影を実体化する薬」や「隠密行動を可能にするポーション」**が作れるかもしれない。
「ふむ……これは使い道が多そうだ」
俺は後で研究するため、魔核を保存しておくことにした。
⸻
◼️ 王都に戻ると、噂が広まっていた
俺たちはダンジョン攻略を終え、王都へと戻った。
しかし、街に着いた瞬間、妙な視線を感じる。
「……なんか、俺たち見られてねぇか?」
レオンが周囲を警戒しながら言う。
確かに、王都の冒険者ギルドの前には大勢の人が集まり、俺たちの姿を見てヒソヒソと話している。
「あれが噂のパーティか?」
「いや、正確にはあの子供だろ?」
「5歳の錬金術師がダンジョンの最奥まで到達したって話だぞ」
「しかも、普通なら勝てない魔獣王の影を倒したって……」
どうやら、俺の噂が王都に広まってしまったらしい。
「……なるほどな」
俺はすぐに状況を把握した。
今回のダンジョン攻略は、間違いなく異常な成果だった。
通常なら中級以上の冒険者でも苦戦する魔物を、**「5歳の錬金術師が撃破した」**という事実が広まれば、目立つのは当然だ。
「おいおい……こうなるとは思わなかったぜ」
レオンが苦笑しながら俺を見る。
「まぁ、お前が規格外すぎるんだよ。錬金術師ってのは普通、戦闘の後方支援が役割だろ?」
「そうなのか?」
「そうだよ! 錬金術師はポーション作成や道具の修理がメインで、前線に立つやつなんてほとんどいねぇ」
「ましてや、戦闘スタイルが完全に戦士並みの錬金術師なんて聞いたことないわよ……」
ミレイユが溜息をつきながら言う。
「まぁ、噂になるのも当然か」
俺は冷静に状況を整理する。
— 王都に俺の実力が知られた
— 注目を浴びることで、面倒ごとも増える
確実に、俺に興味を持った勢力が動き出すだろう。
そして、それはすぐに現実のものとなった。
「アーク・クロウライト殿、ですね?」
突然、俺の前に貴族の服を着た男が現れた。
「私は王国の使者です。王国錬金術師ギルドの代表が、あなたにお会いしたいと申しております」
——やはり、来たか。
⸻
◼️ 王国錬金術師ギルドとの対面
数日後、俺は王都にある**「王国錬金術師ギルド」**を訪れた。
ギルドは巨大な石造りの建物で、王国でも最も権威のある研究機関の一つだ。
「へぇ……結構立派な施設だな」
俺が興味深げに見回していると、突然——
「よく来たな、“天才の錬金術師”よ」
部屋の奥から、威圧感のある男が現れた。
年齢は40代後半、貴族らしい雰囲気を纏いながらも、鋭い眼光を持つ。
「私はギルドマスター、グラハム・エルステッド」
「王国錬金術師ギルドを統括している者だ」
「お前の噂は聞いている。——**“5歳にして魔獣王の影を倒した”**とな?」
「……それが何か?」
俺は表情を変えずに答える。
「フッ……」
グラハムは薄く笑い、俺を見つめる。
「単刀直入に言おう。——王国の錬金術師として、我がギルドに所属しないか?」
「王国の錬金術師?」
「そうだ。王国の庇護のもとで研究を進めることができる。莫大な資金、最高の設備、そして王室直属の地位を与えよう」
「……なるほど」
確かに、悪い話ではない。
だが、俺は即答しなかった。
「断ったら?」
「……ふむ、“断る”という選択肢もあるというわけか」
グラハムは目を細めた。
「しかし、君のような才能を放っておくのは、我々としても惜しい」
「君が望むなら、ギルドの研究施設を自由に使えるようにすることも考えよう」
「どうだね? “天才の錬金術師”アーク君」
——つまり、俺を手元に置きたいということか。
俺はしばらく考えた後、口を開いた。
「……条件次第だな」
「ほぉ?」
「俺は自由に動きたい。ギルドの指示で動くつもりはない」
「それでよければ、考えてやる」
グラハムは一瞬驚いた表情を見せたが、すぐに笑みを浮かべた。
「面白い……! 交渉成立だ」
こうして、俺は王国錬金術師ギルドに”所属しつつも、自由に活動できる”という異例の立場を手に入れた。
——そして、この決断が、後に世界を揺るがす大事件へとつながっていく。
そして、この決断が、後に世界を揺るがす大事件へとつながっていく。