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追放された滅びの魔女ですが、竜王陛下に拾われ甘やかされています  作者: 佐崎咲
第三章 その胸に育つもの

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第七話

「文句はあります!! とにかく!! その人間が!!! 陛下に近寄ることが!! 本能で!!! 許せないのです!!!」


 身も蓋もない~。

 そこまで嫌われていたのかと愕然とする。

 しかしレイノルド様はふむ、と頷き、言った。


「それは仕方がないな」


 たしかに。

 誰しも相性というものがあるし、私だって理由もなく苦手な人はいる。

 心までは誰にもどうにもできはしない。


「仕方ないですね」


 私も頷くと、ティアーナは目の端に涙を浮かべ、ぷくっと頬を膨らませた。


「馬鹿にして!!」


 できる女の人というようにいつもキリッとしているかすごい形相で私を睨むかしているティアーナがそんな顔をするとは思わなかった。


「馬鹿にはしてません。ティアーナさんの気持ちを、そうなのか、と受け入れただけです。嫌いなものを好きになってもらうのはとても難しいことですし、私にはそこまでの技術も経験もありません。だから、長期戦で頑張ります」

「長期戦って、いつまでいるつもりなのよ!」


 あれ。本当だ。無意識だった。


「わかりません。ですがここに居る限りは、なるべく迷惑をかけたくはありませんし、不快な思いもさせたくはありませんので、出来る限りやってみます」


 そう答えると、ティアーナはきぃぃと苛立たしげに肩を怒らせ、ものすごい形相で私を睨んだ。

 あ、なんか久しぶりに見た。

 レイノルド様が「さて」と真顔に戻って切り出す。


「話はついたところで、罰だが」


 ティアーナも感情をそぎ落としたように静かに言葉を待つ。

 平静を装っているけれどその顔はやや白く、長い耳が小さく震えていた。


 うーん。口を出していいものだろうか。

 悩んだけれど、「あのう……」とレイノルド様に手を挙げた。


「なんだ」

「ええと。でもレイノルド様、本気ではありませんよね。ティアーナさんがしたことだと最初からわかってましたし、今さら何故罰などと言い出したのでしょうか」


 レイノルド様の頬杖をついていないほうの頬が、ほんの少しだけ上がった。

 やっぱり。


「もしかして、ですけど。私が止めに入ればティアーナさんが感謝して私を受け入れるようになる、とか考えてのことですか?」


 レイノルド様は答えない。

 けどその顔は笑っている。

 やはりそういうことなのだろう。


「そうだとしたら申し訳ないんですが、それでティアーナさんが私を認めてくれてもなんだか、ちょっと……」

「そうか? これで静かになるのならよいかと思ったのだが」

「うまく言葉にはできません。でも、恩を売って得たものではティアーナさんの信頼を買うことはできないような気がします。ティアーナさんを何も言えなくさせてしまうだけ、と言いますか……」


 恩を売るのと信頼を得るのは似ているようだけど違う。

 恩を売れば上下が生まれる。そして相手が納得するだけの価値が生きている間だけ成り立つもので、その均衡が崩れれば攻撃に転じられかねない。

 信頼も維持し続けなければならないという意味では同じだけれど、上下がない分、下側から虎視眈々と狙われ続ける、という心配はない。


「私が恩を売ればティアーナさんとの上下が逆転し、不満が高まる可能性が高いです。難しいけれどやはりティアーナさんとの間には信頼を築きたいなと思います」


 レイノルド様は「そうだな」と頷いただけ。

 私がそう答えることがわかっていたかのようだ。


「今日のこの場も、私とティアーナさんのことを思って設けてくれたのですよね。まずティアーナさんの不満を吐き出させたかったのだと思いますが、ついでに私がそれをどうするのかも見せたかったのでは」

「一方に憎しみがあっては会話など無駄だと思っていた。だがシェリーとその妹の姿を見て、そうではないとわかった。時間と会話を重ね、先に進めることもある。そしてシェリーにはそれができる」


 そこを見てくれていたのか。

 なんだかむず痒いものがあるけれど、とても嬉しい。

 時間がかかっても私ならティアーナとの関係を築いていけると信じてくれたのだろう。


 私とティアーナがいくら二人で話をしても、うまくいきはしない。

 ティアーナの不満の根本は、実は私ではなくレイノルド様に向けられていたからだ。

 レイノルド様の手を煩わせている私が気に食わない。それもたしかだけれど、そんな人間に関心を向けて欲しくない、というのが大元だ。

 けれどレイノルド様に私を相手にするなと言っても取り合ってはもらえないし、やめさせることなんてできはしない。

 だから私を排除したいけれど、レイノルド様が許すはずもなく、婉曲な手しか打てず、それでは足りずにただただ怒りだけが募る状況だったと思う。

 だからこそ、レイノルド様はこの場を用意し、自分で不満を受け止めつつ、レイノルド様を通しての私と、ただの私を見せたかったのだろう。

 あわよくば私を見直してもらえるように。

 けれど私はそんなできた人間でもない。この場でティアーナの認識を改めるほどのカッコいい何かを言えるわけでもないし、実際に大きく何かが変わったわけではないだろう。

 ただレイノルド様はティアーナが私自身を怒りに染まらず見られるように、私に向けるべきものとそうではないものを整理してくれたのだ。


「言いたいことは言ったか?」


 レイノルド様がティアーナに目を向ける。

 ティアーナはしばらく黙っていたけれど、何かを飲み込むようにして「はい」と答えた。


「ではティアーナへの罰を言い渡そう」


 あれ。本当に罰を与えるつもりだったんだ。私に止めに入らせるために言ったのだと思っていたけれど。


「シェリーがこの城で薬師として働けるよう、部屋を用意し、その補佐をしろ。そのことで城の者たちから不満があればそれをティアーナが受け、改善に努めるように」


 それを聞いたティアーナは、目を見開き、声も出せないままに立ち尽くした。

 ティアーナにとってこれ以上に受けたくない罰はないだろう。


「問題提起をしたのはティアーナ、おまえだ。言い出したからには、自分の目でシェリーがこの国にとって真に害悪か見定め、益があるならばその助けをすべきだ。違うか?」


 ティアーナははくはくと声にならぬまま愕然としていたものの、やがて「くっ……!」と目をつぶり拳を握りしめた。


「御意にございます」

「大事な仕事だ。二人とも、励めよ」

「はい! ありがとうございます!」


 やった。仕事だ。

 これで一歩前に進める。

 長い耳をぴるぴると震わせているティアーナには悪いけれど、私はこれをありがたく利用させてもらう。


 薬作りも、資料探しも。私が私の居場所を得るために。

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