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7話

 風香との約束した翌日。放課後は二人でひたすらゲームをし、昨日の分含め死に物狂いでレアドロップ素材の周回をさせられた。おかげで親指が少しヒリヒリする。


 ベッドに横たわって親指をこすっているとメールが来た。送り主は、本部日向。


「前に言ってた演劇指導の件か?」


 急いで送られてきたメールを確認する。


『突然すみません。以前お話していた演技指導の件、明日の放課後に同じ場所でお願い出来ないでしょうか?もし都合がつかないようでしたら予定を合わせますのでよろしくお願いします。』


 非常に丁寧な文章でそう送られてきた。この子はやはり育ちがとてもいいのだと思う。


 今日かなり周回頑張ったし、練習を見に行くことは風香も許してくれるだろう。明日の放課後は日向ちゃんに時間を割こう。


『全然OK!なにか持っていくものとか、必要なものがあったら言ってくれ。』


 既読の表示とともに返事はすぐに来た。


『大丈夫です!練習に必要な台本はこちらで用意しますので、誠司先輩はそのまま来ていただいて大丈夫です!』


『なら良かった!それじゃ、明日の放課後よろしくね』


『はい!よろしくお願いします!』


 と、いうわけで約束の午後。いつもと変わらぬ箱庭での日常を終え、少し浮足立ちつつも、前回の反省を踏まえて徐々にペルソナ状態に切り替えていく。


 気持ちが出来上がったところで、約束の公園に着いた。日向ちゃんはまだ来ていないらしい。


 近くの苔が生えた古いベンチに腰掛けて待っていると、こちらには走ってくるような足音が近づいてきた。


「……あ!先輩!」


 走ってきたせいか頬を軽くピンクに染めた日向ちゃんが、俺を見つけるとその火照った顔をまるでお日様のような笑顔に変えて俺の方に駆け寄ってきた。


「誠司先輩お疲れ様です!すみません、私からお呼びしたのに遅刻してしまって」

「いや、大丈夫だよ。俺もさっき来たところだから」


 なんか、今の台詞デートの待ち合わせっぽくていいな。今度風香と飯行くときに使おう。面白い反応が見られるかもしれん。


「今日は私の演技指導に協力してくださって本当にありがとうございます。今日もご指導よろしくお願いします。」

「こちらこそよろしく、なるべく力になれるように俺も頑張るよ」


 お互いに軽く一礼を交わし、俺は日向ちゃんを比較的苔の少ないベンチに座らせた。


「それにしても誠司先輩早いですね。私結構早めに学校を出たつもりだったんですけど、越されちゃいました」

「今日は掃除当番もなかったから、早めに学校を出られたんだ。それにうちのクラスの担任はホームルームにあまり時間を使わないから、ほかのクラスより早めに教室を出られるんだよ。」

「いいなぁそういう先生が担任で。私のところは特にホームルームが長いっていうわけではないんですけど、少し癖があるというか、歴史担当の先生なので最後に必ず偉人の名言を教えてくれるんです。」

「へぇ面白い先生じゃん。今日はどんな名言が出たの?」

「『三本の矢』の話です。毛利元就が息子たちに授けた言葉だって。」


『三本の矢』。毛利元就が自身の三人の息子に宛てた有名な格言の一つ。

『一本の矢は容易に折れるが、三本束ねれば容易には折れないので皆が結束し力を合わせれば毛利が破られることはない』と団結力の大切さを説くもの。昔歴史の本を読んだときに何度も出てきたので、この格言は身に沁みついている。だが……


「私この名言を聞いたとき、演劇部みたいだなぁって思ったんです。一人でできないことをみんなで力を合わせれば、とってもいい劇が完成するじゃないですか。」

「そうだね、俺もその名言は好きだよ。日向ちゃんの先生いいセンスしてるね。」

「ですよね!私もそう思います!」


 ニッコリ笑顔でほほ笑む彼女に対し、ペルソナ状態の俺は無難な返答をしたが、心中では全く逆のことを思っていた。


 俺はこの格言が、あまり好きではない。友達のいない自分には縁遠い格言ということもあるが、この名言には俺なりの解釈がある。


 それは、矢が三本束ねられていようがそもそもの矢の出来が悪かったり、劣化していたら簡単に折れるだろうというもの。どれだけ人が団結しようが、優秀な奴の中に足を引っ張るやつ、出来の悪い奴がいれば簡単に崩壊する。


 ドイツの軍人であったゼークト氏も戦時中にこう遺している。


『無能な働き者は組織にもっとも害を与える、最大の敵は無能な味方だ』と。


 ある意味、俺もその中の一人なのかもしれないが。




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