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4話

今日の投稿になります!新メインキャラクターが登場します!ぜひご覧ください!

 一晩寝た後、昨日と同じように、最高に気持ちのいい朝を迎えた。


 目覚ましはもちろんジャズのアラームと部屋に差し込む朝日の光。


 朝食にホットサンドメーカーで作られたアツアツのハムチーズトーストを食べ、学校に向かう。口の中にチーズの風味が広がってこれがまた満足感を掻き立てる。


 今日もいつも通り箱庭での退屈な時間を過ごした後、家で風香とゲームをする予定となっている。


 昨日クリア出来なかった一日一回の限定クエストをやることになるだろう。じゃなきゃ俺は殺されるらしい。


 誰とも話すことなく、孤独で気楽な一日が終了し足早に下駄箱へと向かって靴を履き替える。


 うちの学校は下校の際、二通りの帰り方がある。


 一つ目は田舎の雰囲気を楽しめる(?)大して何も無い普通の住宅路地。


 二つ目は俺の住んでいる県内でもかなりの有名な観光地、四季の変化を余すことなく楽しめる武家屋敷通り。


 大抵の生徒は田舎の住宅路地を通って直帰なのだが、時間がある時者や暇な人間は武家屋敷通りでプチ観光をするのが通例となっている。


 俺の場合は家も近く、時間もある完全無欠の最強の帰宅部であるため、普段は武家屋敷通りで景色を楽しんでから帰るのだが、今日は早く帰らないとあの猫かぶりゲームオタクにしばかれそうで怖いので住宅路地を通ることにした。


「喉乾いたな……」


 放課後の掃除が早めに終わって時間がかなり空いたので、気分転換がてら近くの自販機で百円の缶コーヒー(ブラック)を購入して近くにあるあまり人の来ない穴場の公園へと向かった。


 風香との約束の時間までには絶対に間に合うので安心して過ごせる......はず。


 この公園は田舎の細い路地を曲がった細道を抜けることで辿り着けるというなんとも秘密基地めいた場所で男心をくすぐる。東京のような都会じゃ見られない田舎ならではの魅力だ。


 中学三年年の時にこの場所を見つけてからというもの、落ち込んだ時や一息つきたい時には大抵ここに来て、自販機で買ったコーヒーを飲みながら空を眺めたり、木々の揺れる音に耳を澄ませて心を落ち着かせている。


 今日もそこで一息着こうと木々や雑草に囲まれた細い道を抜けると、なんとそこには先客がいた。


 どうやらうちの学校の女子生徒のようで制服をチラと見るとリボンの色が一年生の物だった。


 長く綺麗な黒髪が風に僅かになびいていてとても美しい。


 体型はかなり細身で引き締まっている。スカートからスラリと伸びた脚、服の袖から覗く肌は色白で、太陽の光を反射しキラキラと輝いている。


 何やら向かいの大きな木に1人でブツブツ語りかけている。


 『嘘だろ?俺以外の人間がこの場所にいるとこなんて始めて見たぞ……しかし結構な美人だが、こんなとこに何の用だ……?』


 細道の影に体を潜めてその女子生徒の様子を伺う。


 女子生徒は何かを言うのをやめて、深呼吸をした後台詞のようなものを木に向かって語りかけた。


「ありがとう兄さんこんな素敵な結婚式を開いてくれてー」


 とても透き通っていて流れるように耳に入ってくる素敵な声なのだが肝心の台詞が若干棒読みでその魅力を生かしきれていない。


 『演劇かなんかのセリフか?にしても演技下手だな……まるで感情がこもってない、声はめっちゃくちゃ綺麗なのに……』


 その後も何度か台詞の練習をしているようなのだが、棒読みが少しでも改善される様子は無かった。


 この十七年でかなりの数のドラマや映画(主に特撮ヒーローもの)を見て、演技の善し悪しを見る審美眼には自信のある俺でも、このレベルは本当に勿体なさすぎる。


 『あーもう!めちゃくちゃ口出ししてやりてぇー!俺が敏腕プロデューサーかなんかだったら絶対唯一の武器であるはずのその美声を買ってやるのに……!』


 彼女の演技を見ていく内に段々と謎のプロ意識が芽生え、むしゃくしゃしてつい頭を掻きむしってしまった。


 ガサガサっ!


「あ、やば……!」


 かなり勢いよく掻きむしったせいで茂みに肘が当たってしまい、ガサガサと音を立てた。動揺してつい声が出てしまった。


「ひゃ!だ、誰!?」


 音に驚いた少女が振り向き、俺を見た。


「あーごめん!ここ俺がよく来る場所でさ、人がいるなんて珍しいことだから気になっちゃって。べつに盗撮とか変なことはしてないから!それだけは信じてくれ!」


 突然の出来事に動揺したが、俺はすぐさま(モード変更)して早口で弁解をする。周りから見たら完全に不審者か、厄介ヲタクのそれだった。


「見てたって……ど、どこら辺から見てたんですか……?」

「かなり最初のところから今までずっと……かな」


 動揺しながら聞いてきた彼女に対して、頭を掻きながら正直に答える。


「最初からですか!?うぅ……恥ずかしい……」


 耳まで真っ赤にした顔を両手で覆いながら恥ずかしがる姿がとても可愛いらしい。


「なんつーか、演技力はともかくとして声はすごく綺麗で透き通ってるからいいとは思ったよ。ごめんね、突然素人にこんなこと言われてもなんとも思わないよね。練習頑張ってね、応援してるよ」

「あ、あの……」


 思ったところを簡潔に述べ、軽く激励をした。これ以上何かを言って嫌な思いをさせるのも、嫌な思いをするのも回避する最も簡単な方法。


 これこそ、一期一会の究極完全体と言えるだろう。


 『さらば、美しき声を持つ金の卵よ……』


 心の中でそう言い残しその場を去ろうとした時、少女が突然俺の手を掴み上目遣いで言ってきた。


「あ、あの……!えと、先輩!」

「え、な、何?」


 俺の制服の襟についてるバッジを見て、俺が先輩だと判断したのだろう。


「出来ればその……もうちょっと教えてください。見てて気になった……ところ」

「……え?」


 突然のことで頭の整理がつかなかった。可愛い後輩美少女に手を掴まれたと思ったら上目遣いで頼み事をして来たってことでいいのか?なんだこの美味しい展開。


「だめ……ですよね。いきなり学校の先輩にこんなこと頼むなんて」

「あーいやまぁ、そのくらいなら別に構わないよ。気になったところを言うだけでいいの?」


 俺のその言葉を聞いて緊張気味だった顔が一気に明るくなった。


「はい!それで大丈夫です!よろしくお願いします!」


 丁寧に頭を下げ、最高の笑顔を見せてくれた。天使なのか?この子は天使なのか?


「というか、あれなんの練習なんだ?見たところ演劇の練習っぽかったんだけど」

「はい。私、演劇部に所属していて、今度の学園祭でやる劇の一年生の審査があるんです。その練習をしていたんですが……」

「なるほどな……ちなみになんの劇をやる予定なんだ?」

「走れメロスです。それにあたって今回の1年の女子は部長……『団長』から、メロスの妹の台詞を自分なりに考えてきて、それを演技で披露して三年生の先輩方に見ていただくという審査なんです」


 『団長』て。いかにもそれっぽい呼び方だな、嫌いじゃない。


「それって結構きつくない?自分で台詞考えてそれをさらに演じ切ろだなんて。それって脚本とか演出のやることだろ?本編改編を自由にするって大丈夫なのか?」

「団長は、『物語には原型こそあるが、必ずしもそれが完成品という訳では無い!完璧をより完璧な形にしようと努力し、それを形にするのが我々演者だ!』と言っていて……」


 これまた強引な、と言いたいが一理ある気はする。


「そういえば、自己紹介がまだでしたね。私、一年B組の本部日向と言います。演劇部所属です」

「俺は大和誠司。二年F組だ。部活は……帰宅部やってる……」

「ふふ、それ部活なんですか?」

「さぁ、どうだろう。少なくとも、俺は部活だと思ってるよ」


 お互い簡単な自己紹介を済ませ、二人だけしかいない静かな公園に笑い声が響いた。


 なんだろう、結構心地良い……





ご覧いただいた方、ありがとうございます!正直、現在PV数があまり伸びていないので、気に入っていただけた方はぜひご友人方に宣伝の方よろしくお願いします!

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